2006-01-01から1年間の記事一覧

よく見ていこう

藤田和恵さんの『民営化という名の労働破壊』(大月書店)です。 今年は、さまざまなところで、「格差社会」が語られたのではないかと思います。「格差」の拡大が、単なる一部の人たちが警鐘を鳴らしているのではなく、社会全体の認識として広がったのではな…

題材と意匠

青来有一さんの『爆心』(文藝春秋)です。 長崎に住む青来さんが、長崎に生きる人々を題材にして書いた作品です。収録された作品には、何かしら原爆の影が潜んでいます。もちろん、それは主人公が直接被爆者であるというわけではありません。というよりも、…

見たもの、見えなかったこと

ウィルフレッド・バーチェットの『ふたたび朝鮮で』(内山敏訳、紀伊国屋書店、1968年、原著も同年)です。 バーチェットといえば、岩波新書で北ベトナムをレポートした『十七度線の北』がかつてはよく店頭に並んでいたものですが、オーストラリア出身の、東…

絶対的なものはないのか

イタロ・カルヴィーノ『くもの巣の小道』(米川良夫訳、ちくま文庫、親本は1990年)です。 カルヴィーノは、イタリアの作家で、この作品は1947年に出版されたそうです。 第2次世界大戦のとき、イタリアは最初に枢軸国から脱落して、1943年に連合国に降伏し…

事実認識

佐藤貴美子さんの『銀の林』(新日本出版社、1998年)のことを思い出しました。もちろん、再審開始を却下した高裁判断が出たからです。 佐藤さんの小説では、ふとしたことから再審請求の運動にかかわる若者が主人公になっています。小説の山場は、検察側の主…

多元的であること

『東日本と西日本』(洋泉社MC新書)です。 1960年から61年にかけて、『日本読書新聞』に掲載された諸家の論考を、1981年に日本エディタースクールが出版したものを、新書判で再刊したものです。洋泉社で気づかれる方もいらっしゃるでしょうが、その刊行時の…

流れをみきわめる

小倉芳彦さんの『逆流と順流』(研文出版、1978年)です。 この文集に収められた文章は、1960年代後半から70年代前半、いわゆる「文化大革命」時代のものがおおいのです。この時期は、学術文化の分野でも、今から考えると不思議なことがけっこうあって、この…

誇りをもつ

原恒子さんの『雪の坂道』(光陽出版社)です。 原さんは、若い頃に『現実と文学』に小説が掲載された(この作品集にも収録されている「列車の中で」という作品です)のですが、そのあと長い間商工団体の事務局の仕事をされて、そのあとでふたたび小説を書き…

東西古今の文化の潮

別に早稲田の話じゃありませんが。 福永光司の『「馬」の文化と「船」の文化』(人文書院、1996年)です。著者はもともと道家思想の専門家だったのですが、定年退職をして故郷の大分にもどってから、日本に中国の文化がどのように入ってきたのかを、テーマと…

混沌の果ては

フローベール『ブヴァールとペキュシェ』(鈴木健郎訳、岩波文庫)です。作者の最晩年の作品で、未完成のまま亡くなったということです。 プヴァールという男と、ペキュシェという男がパリで偶然知り合い、片方に遺産がはいったので、仕事をやめてふたりで田…

相手をよくみる

『古在由重著作集 第1巻』(勁草書房、1965年)です。 著者が、1930年代に書いた、「現代哲学」「唯物論と唯物論史」「初期唯物論の形成」の三つの著書をまとめて収録しています。 唯物論の立場から当時流行していた「哲学」の実態を批判した「現代哲学」が…

なんでそんなに急ぐ

教育基本法が参議院の委員会でむりやり可決したとかいう。 「やらせ」で『世論』だとかいっておいて、勝手に幕引きをしようとはどういうことか。 これをやれ、あれをやれ、と教育内容を押し付ける時代がくるのか。 困ったものだ。 ともかく、本会議上程をな…

市場原理

続きで、『戴恩記』のあとに収録されている、新井白石の『折たく柴の記』です。最初は父親の思い出などという、けっこう個人的なことを書いているのですが、だんだんと政治情勢のことについてつっこんだ分析や回想をしています。 将軍代替わりの朝鮮通信使の…

記憶の重み

松永貞徳(1571−1653)の回想録『戴恩記』(岩波の日本古典文学大系所収)です。17世紀初頭の歌人、俳諧師のひとですが、この記録で(口述筆記ではないかといわれています)で、自分の経験した和歌の伝授のことや、いろいろな考証がされています。 その巻末…

おもしろくてためになる

佐藤卓己さんの『「キング」の時代』(岩波書店、2002年)です。 戦前から1957年まで講談社から刊行され、日本語の通用した世界にひろがった雑誌『キング』の分析をとおして、雑誌のもつ統合のはたらきに注目したものです。大衆化の問題など、いろいろと考え…

誇りということ

なかむらみのるさんの『恩田の人々』(新日本出版社、1989年)です。 なかむらさんは、長い間郵便の労働者として働いてきたかたで、労働運動のかたわら小説を書いて、この作品で1988年に日本共産党の65周年記念文芸作品の長編小説部門で入選しました。 この作…

飲んで飲まれて

内山完造さんの『中国人の生活風景』(東方書店、1979年)です。内山さんは1959年に亡くなったのですが、没後20年を記念して、「漫語」とみずから呼んでいたエッセイを編集したものです。内山さんは、上海で書店を経営し、晩年の魯迅とも親交が深かった方なの…

矜持をたもつ

『民主文学』1月号の巻頭作品は、三宅陽介さんの「ある幕末騒動記余聞」です。岡山の郷土史家を主人公にして、彼にまつわる話題を書いています。その中の中心的な話は、『梟の城』という作品で直木賞を受賞したある有名な時代小説家との主人公のかかわりです…

人生経験

岩波書店のPR誌の『図書』12月号に、岩橋邦枝さんが「弥生子と百合子」というエッセイをよせています。(原文では〈弥〉の字が旧字体になっていますが、便宜上新字体でいきます) 野上弥生子と宮本百合子との関係について記しているのですが、当時平林たい子が…

箸休め

集中して読んでいるものがあるので、その合間に読んだのが、日経ビジネス人文庫の〈私の履歴書〉シリーズのなかの『最強の横綱』です。双葉山(時津風)・若乃花(二子山)・大鵬の三人のものが収録されています。時津風さんのがやや今の時点から見ると短いのが…

悪い冗談にもならない

政府与党は、教育基本法の「改正」案を、参議院で12月8日に可決したいと狙っているそうです。 おじいちゃんにあこがれているとは知っていましたが、まさかおじいちゃんが閣僚として、詔書に連署したあの「12月8日」に可決をねらうとは、日本をふたたびあの時…

立場と人情

斎藤淑子さんが、『ウワーッ! 飛行機が落ちてくる』(光陽出版社)という本を書きました。1977年に横浜市で起きた、米軍機墜落事件についての本です。著者は、このとき地元緑区(いまは青葉区になっていますが)選出の神奈川県議会議員であったので、この本の中…

臣下の礼

棚橋光男さんの『後白河法皇』(講談社学術文庫、親本は1995年)です。 棚橋さんは、もともと書き下ろしで後白河論を書くつもりが、中途でなくなられたので、遺稿集のような感じでこの本が編まれたのだそうです。鎌倉から見た法皇像とはちがう、新しい論を展開…

だまされないために

またつながりですが、エドワード・サイード『ペンと剣』(中野真紀子訳、ちくま学芸文庫、2005年、ただし原著は1994年、親本は1998年)です。 パレスチナ問題に対してのサイードさんの意見に関しては、それが妥当なのかどうかはよく判断できないのですが、とも…

記憶してください

小森さんのつながりというわけでもないのですが、たまたま大江健三郎さんの『「伝える言葉」プラス』(朝日新聞社)を続けて読みました。小森さんは、大江さんの文章を取り上げながら、初期大江作品を分析していたものですが、そういうこと抜きにも、大江さん…

文学者の責務

小森陽一さんの『ことばの力 平和の力』(かもがわ出版)です。 「九条の会」の事務局として東奔西走している小森さんの、講演をベースにした、近代日本の文学者四人についての本です。 チョムスキーが、ベトナム戦争に反対していたころ、彼の専門の言語理論と…

受け継ぐ記憶

どこかの新聞のコラムで、「おあむ物語」が紹介されていたので、久しぶりに、岩波文庫の『雑兵物語・おあむ物語』(1943年)を取り出してみました。 「雑兵物語」というのは、戦に出る雑兵たちの語りという体裁で、いわば戦いの「ハレ」の部分をしめしているの…

ただ見ているだけでなく

中野麻美さんの『労働ダンピング』(岩波新書)です。 現在の、非正規雇用の実態と、それが生み出されてきた背景を分析し、それに対しての発想の転換を呼びかけています。 「新自由主義に基づく政策との決別以外に、再チャレンジを可能にする労働と社会のシ…

ぜいたくな対話

加藤周一さんの『「日本文学史序説」補講』(かもがわ出版)です。 京都の市民の学習会、「白沙会」の人たちが、『日本文学史序説』をめぐって、加藤さんと勉強会を開いたときの記録をもとにしたもののようです。「白沙会」の人たちには、文学の専門家はいな…

しめつけ

本の話ではありませんが。 衆議院は本会議をひらいて、政府与党の出した教育基本法の「改正」案を可決して、参議院に送付したそうだ。 今回の、未履修騒ぎのときも、「決め事を守らないのは」という議論だけで、「決め事」自体の問題にはほとんどふれられな…