2007-06-01から1ヶ月間の記事一覧

こういうところにも

岩波文庫の『醒睡笑』(鈴木棠三校注、全2冊、1986年)を、けっこう時間がかかって読みました。 作者は安楽庵策伝(1554-1642)という人です。当時のいろいろとおもしろい話を集めたもので、こぶとりじいさんの話とか、「たいらばやしかひらりんか」の話と…

地位と育ち

奈良達雄さんの『若杉鳥子 その人と作品』(東銀座出版社)です。 若杉鳥子(1892-1937)は、茨城県古河市出身の作家で、プロレタリア文学の分野で活躍しました。奈良さんは、同郷の先人として、若杉鳥子の業績の掘り起こしをずっと続けてこられて、その成果…

節操

大西巨人さんのインタビューをまとめたものが、作品社から出ているので、買おうかどうしようかとおもってページをくっていると、彼が新日本文学会をやめるにいたったときのエピソードとして、こういうことが紹介されていました。 〈西野辰吉が、民主文学をや…

一世紀

今回岩波文庫に収められた紀行文『五足の靴』です。 与謝野鉄幹の『明星』グループの若者四人が、鉄幹とともに九州旅行をしたときの文章だということです。その四人とは、北原白秋、木下杢太郎、吉井勇、平野万里でした。紀行文は『東京二六新聞』というとこ…

天の半分

井波律子さんの『破壊の女神』(知恵の森文庫、親本は1996年)です。 井波さんは、最近の中国文学研究者のなかで、一般受けするテーマを、わかりやすく書くことが得意なかただと感じています。この本の中でも、実在の女性と、物語の中の女性とを半々ぐらいに…

影の部分

岩波文庫のパヴェーゼ作品2点、『故郷』(2003年、原著は1941年)『美しい夏』(2006年、原著は1949年)、いずれも河島英昭さんの訳です。この原著の年は、刊行の年(書き下ろしだそうです)で、作品の完成はもう少し前、というより『美しい夏』の場合は、19…

ぼけたかな

近所の古本屋で、渡辺和行さんの『ナチ占領下のフランス』(講談社選書メチエ、1994年)をみつけて、面白そうだと思って買ってきました。しかし、どうも著者名に見覚えがある、と思って、今までに買った本のリストをつくってあるのですが、それをISBNコード…

個別と普遍

フェリーチェというイタリアの学者の方の、『ファシズム論』(藤沢道朗、本川誠二訳、平凡社、1973年、原著は1970年第4版)です。 もともとファシズムということばは、イタリアの党派からきているわけで、それをどのようにほかの政治状況を説明していくのに…

大きな世界

岩波の日本思想大系の『古代政治社会思想』(1979年)を読んでいました。「将門記」と「陸奥話記」とが収録されているのですが、いずれも、京都に対して、自立をはかろうとする勢力の敗亡の姿を描いたものです。杉山正明さんが講談社から出した『中国の歴史…

植民地を書く

センベーヌ・ウスマンさん、死去。 センベーヌ(これがファミリーネームだそうです)さんは、セネガルの出身で、最初はフランス語で書く小説家として世界に知られました。早くも1963年には、新日本出版社から『セネガルの息子』という作品(原題はもっと複雑…

闇のなかから

目取真俊さんの『平和通りと名付けられた街を歩いて』(影書房、2003年)です。作者が、芥川賞を取る前の、いわゆる「初期短篇集」という位置づけで、沖縄で出ている新聞や雑誌に掲載された作品を収録しています。 沖縄戦を生き延びた両親をもち、本土復帰の…

何はともあれ

『すばる』7月号の特集は「プロレタリア文学の逆襲」というものです。 本田由紀さんたちを呼んで、研究者の楜沢健さんとの鼎談と、諸家のエッセイです。文芸誌でこうした特集が組まれるなど、ずいぶん珍しいことで、それだけ現在の貧困の状況が無視できなく…

接点

原武史さんの『滝山コミューン一九七四』(講談社)です。 著者自身の小学校時代に材をとり、当時の東久留米第七小学校でおこなわれた「集団づくり」の実践のなかで、みずからがいかに傷ついたのかを検証しています。『群像』連載中から気になっていたのです…

専門××

常石敬一さんの『医学者たちの組織犯罪』(朝日文庫、1999年、親本は1994年)です。常石さんはご存知のとおり、関東軍731部隊の研究を長く続けている方で、こここではそこにかかわった医学者たちの動向に焦点をあてています。 石井部隊での人体実験で得られ…

七掛け

香山リカさんの『なぜ日本人は劣化したか』(講談社現代新書)です。 最近の日本の状況を、「劣化」ととらえ、それを直視しての対応を考えようとしています。たしかに、新聞や雑誌の活字が大きくなって、その中の情報量が少なくなっているのは事実ですし、各…