2011-09-01から1ヶ月間の記事一覧

負け戦

ソビエト政権時代のロシアの作家、ファジェーエフの『若き親衛隊』(黒田辰男訳、青木文庫、全5冊、1953年)を読み始めました。 作者は、スターリン時代に権勢をふるったということで、最近はまったく人気のない作家ですが、1920年代に書いた「壊滅」は、黒…

おもいこみ

瀬川拓郎さんの『アイヌの世界』(講談社選書メチエ)です。 アイヌを交易の民としてとらえ、北海道の産物を大陸や列島にうごかすことで、生きてきた民族だととらえるのが著者の立場です。その面から考古学資料をとらえると、たとえば7世紀に列島から阿倍比…

横断

前に、古書店で手に入れた(通販ではなく)『綜合プロレタリア芸術講座 1』(内外社、1931年5月)です。 そろいものではないと判断されたのか、けっこう安価で入手できました。 中野重治が巻頭で「プロレタリア芸術とは何ぞや」という論文を書き、中條百合…

書き直し

川上弘美さんの『神様 2011』(講談社)です。 昔の作品「神様」と、『群像』6月号に掲載した「神様 2011」とを合わせて、コンパクトな1冊に仕立てたものです。 〈くま〉と川にピクニックに行くという筋は変わらないのですが、今回の作品では、〈わたし〉は…

記録

今尾恵介さんの『地図で読む 戦争の時代』(白水社)です。 戦時中の地図や、戦争施設の名残を今の地図にみるという、過去と現在を往還するようなものです。 戦時中というより、戦前から、日本では横須賀あたりとか、呉線では海岸沿いを走るときには汽車の窓…

段階

笠原嘉さんの『アパシー・シンドローム』(岩波現代文庫、2002年、親本は1984年)です。 1970年代あたりからの、当時の青年にみられた〈自立〉からの逃避的な傾向に関してのいろいろな症例や研究を論じた文集です。 今にして思えば、この本で扱われた時期は…

なまなましい

李恢成さん『地上生活者』第4部(講談社)です。 主人公趙愚哲が、組織から離れ、作家として自立していく時代をあつかっています。時期的には1966年から光州事件の1980年あたりまで。主人公個人の問題でもいろいろあったようですし、朝鮮半島も、南北ともに…

流れて

太宰治『ろまん燈籠』(新潮文庫、改版2009年)です。 新潮文庫での、太宰のいままでの作品集からもれていた中で、戦時中の作品を中心に収めていて、「十二月八日」とか、「散華」とか、戦争を扱った作品もはいっています。戦時中に、どういう形で太宰が作家…

これもあり

古田武彦さんの『俾弥呼』(ミネルヴァ日本評伝選)です。 古田さんは、40年前の『「邪馬台国」はなかった』以来、近畿天皇家一元史観なるものを批判し、邪馬壱国は博多湾岸にあり、その後九州王朝として7世紀末まで存続したという立場を主張しています。今…

いっしょくた

武藤洋二さんの『天職の運命』(みすず書房)です。 スターリン時代に、ロシアの文化人がどのような運命をたどったかを描いています。メイエルホリドとか、ショスタコーヴィッチ、パステルナークなどがメインの登場人物で、日本から越境してきた杉本良吉や岡…

10年

9月11日といえば、どうしても10年前のこととか、1973年のチリのアジェンデ政権の崩壊とか、いろいろと出てくるのですし、リービ英雄さんの「千々にくだけて」で、〈ground zero〉を主人公が〈ばくしんち〉と日本語で変換してしてしまうこととか、あるのです…

あとは野となれ

司法試験の合格者の割合が、全体で3割台だそうです。 移行期間もおわって、法科大学院を修了しないと受験資格がなく、それも修了後5年のうちに3回しか受験機会が与えられず、そこで合格できないと、ふたたび法科大学院に行きなおさなければならないシステム…

みこしをかつぐ

中里成章さんの『パル判事』(岩波新書)です。 極東軍事裁判のとき、インドから判事としてやってきて、少数意見を固持した人の、略伝です。 たしかに、すごい人で、極東裁判での、被告無罪の要因として、「中国共産党は中国を破壊する存在だから、中国に権…

少しずつ

矢島翠さんが亡くなられたそうです。フランスの1930年代についての本を岩波新書で翻訳された(『パリ1930年代』というタイトルでした)ものしか、直接には読んだことはなかったのですが、加藤周一さんのパートナーとして、一緒にいろいろな活動をされていた…

手が回らない

リービ英雄さんの『我的中国』(岩波現代文庫)『天安門』(講談社文芸文庫)、莫言の『牛・築路』(岩波現代文庫、菱沼彬晃訳)と、中国関連のものをつづけました。都市部の発展だけではみえてこない、中国の農村のそれぞれの事情が、作品としてあらわれて…

被災

日付は変わりましたが、9月1日は1923年の大正関東地震の日です。『図書』9月号には、川本三郎さんが、「文士が経験した関東大震災」という文章を執筆しています。芥川龍之介や永井荷風、佐多稲子や黒澤明たちの体験が紹介されています。 この地震は、相模湾…