2007-11-01から1ヶ月間の記事一覧

せめぎあい

佐々木一夫さん(1906−1987)の『魅せられた季節』(新日本出版社、1971年)です。 終戦直後の鳥取県中部のある農村を舞台に、その村での戦後の農地改革とそれをめぐる地主と小作との動き、それと関連して、町の工場での労働組合の結成、そうした民主化の運…

俗に沈む

長部日出雄さんの『未完反語派』(福武文庫、1986年、親本は1982年)です。 構造が複雑な作品で、1930年代を生きたひとりのインテリが、建部綾足の生涯に題材をとった小説を書こうと志していて、その「小説」と彼の「日記」とがない交ぜとなって作品が進みま…

ひとつの時代

堺田鶴子さんの『百日紅』(「ひゃくじつこう」と読んでください)(光陽出版社)です。 著者は1938年生まれで、商業高校を出てから損保会社に就職し、子どもを三人育てながらも定年まではたらいた方です。文学への志は若いころから持っていたようで、この作…

極限から

『けものたち・死者の時』(ビエール・ガスカール作、渡辺一夫・佐藤朔・二宮敬訳、岩波文庫、原著は1953年、親本は1955年)です。 フランスの戦後派文学という位置づけになるのでしょうか、作者は1916年生まれといいますから、日本で言えば野間宏、ドイツの…

出発点

木下武男さんの『格差社会にいどむユニオン』(花伝社)です。 雇用融解ともいわれる現状に対して、いままでの企業別組合ではなく、業種別の個人加盟の組合によって、横断的に労働相場を決めていくたたかいが必要なのだと訴えています。たしかに、企業別組合…

距離をおく

森田浩之さんの『スポーツニュースは恐い』(生活人新書)です。 スポーツニュースが、「国民」をつくるために日夜刷り込みを行っているという、この本の指摘は、日常ほのかに感じていたことを、きっちりと表現したように思います。NHKのスポーツニュースが…

上部構造

溝口雄三・池田知久・小島毅さんの共著『中国思想史』(東京大学出版会)です。 秦漢・唐宋・明清・清末の交替期をポイントとしてとらえ、その時代に形成された思想のありようを、社会の変化とあとづけて論じています。長期的な視野にたつことで、唐の滅亡か…

重層的

大野晋さんの『日本語の源流を求めて』(岩波新書)です。 南インドのタミル語と、日本語との関連をさぐる大野さんは、縄文時代の西日本の言語の上に、稲作文明をもってきたタミル語がかぶさったのだといいます。その意味では、タミル語と同じ系統とはいえま…

視点

小林英夫さんの『日中戦争』(講談社現代新書)です。 小林さんは、日中戦争を、日本の側には外交戦略が欠如していて、対外的に日本の立場を支持してもらおうという姿勢が、政府にも軍部にもメディアにもなかったのに対して、中国側はそうした戦略にたけてい…

共通性

青山和夫さんの『古代メソアメリカ文明』(講談社選書メチエ)です。 中部アメリカに栄えた、マヤだとかアステカだとかの文明の現在わかっていることを簡潔にまとめようとしています。 青山さんによれば、ユーラシア・アフリカ大陸に栄えた「四大文明」に加…

表現様式

村山知義『戯曲 ベートーヴェン・ミケランジェロ』(新日本出版社、1995年)です。著者晩年の二つの戯曲を収録したもので、「ベートーヴェン」のほうは東京芸術座によって上演された(1976年)のですが、「ミケランジェロ」のほうはまだ上演されていないよう…

幸か不幸か

太宰治の『お伽草紙・新釈諸国噺』(岩波文庫、2004年)です。 戦中にかかれた太宰の、昔話や西鶴の作品をモチーフにしたものです。 最近も、集英社文庫の『人間失格』のカバーが話題になったりなど、太宰はいろいろと読まれているようですが、彼の本領はど…

国際感覚

仲尾宏さんの『朝鮮通信使』(岩波新書)です。 巻末の参考文献をみると、今世紀になってから刊行されたものが多く、この分野への理解が最近深まっているのだと思います。たしかに、むかしは新井白石の改革のところで、少し触れられるだけという感じがあった…

遼東の豕

石母田正さんの『日本古代国家論』(岩波書店、全2冊、1973年)です。 この間、石母田さんの本を少し読んできたのですが、この論文集は、専門書という位置づけをされるというためか、用語がさすがに専門的で、(古めかしいですね、いまとなっては)少し理解…

はやりすたり

小田桐弘子さんの『横光利一 比較文学的研究』(南窓社、1980年)です。 著者に関しては、生まれ年が書いてないので断定はできませんが、「あとがき」に記述からみると、植民地の町で育ち、小学生のときに敗戦で引き揚げてきたというので、昭和10年前後のお…

気概

岩波文庫の『石橋湛山評論集』(1984年)です。 石橋湛山は、戦後政界入りして、総理大臣もつとめた人ですが、病気のためにすぐに辞職しました。この評論集には、1910年代から40年代までの、ジャーナリストとして筆鋒をふるった時代のものが主に収録されてい…