2009-10-01から1ヶ月間の記事一覧

論じられること

サイデンステッカー(1921-2007)の『東京 下町山の手』(安西徹雄訳、ちくま学芸文庫、1992年、親本は1986年、原本は1983年)です。 明治から関東大震災までの東京の姿を描いたもので、翻訳者の尽力のたまものか、知らずに読めば、前田愛か磯田光一かと思わ…

判断しない

竹内栄美子さんの『戦後日本、中野重治という良心』を通読しました。 結果として、この前述べたように、1960年代前半の、新日本文学会が意見の相違を理由に江口渙さんたちを除籍したあたりのことに関してだけ、竹内さんは自分のことばで述べていません。まだ…

海難事故

関門海峡で、護衛艦と韓国のコンテナ船が衝突したそうです。 死者が出なかったようなのが、まだよかったのかもしれませんが、こういう事故はいやですね。 かつての日本海軍も、三笠や陸奥が爆沈したり、演習中に味方同士で衝突事故をおこしたり(第四艦隊事…

軽口

井上ひさしさんの『ふふふ』(講談社文庫、親本は2005年)です。 もともと『小説現代』に載せていたコラムをまとめたものなので、そんなに難しい話はありません。 そのなかで、アメリカでは、新しいミュージカルをやるときなど、事前に出資者をつのるのだそ…

身勝手

1961年3月におこなわれた、「アジア・アフリカ作家会議東京大会」の記録が、アジア・アフリカ作家会議日本協議会によってまとめられています。1961年9月発行、非売品だそうです。 参加した人たちとか、アジア・アフリカ作家会議との日本の関係に関しては、け…

見え隠れ

河出の世界文学全集、エリアーデ(1907−1986)の「マイトレイ」(住谷春也訳、親本は1999年、原著は1933年)です。 作者の体験に基づいた話で、若い頃にインドのコルカタで出会った、ベンガルの女性との性愛体験を描いています。それはそれでいいのですが、…

自分のことばで

あまりいい気分の話ではないですし、これを書くと、またどこからか、「文学官僚のねこぱんだは」とか、「運動の発展を阻害する」「敵と味方を混同する」とか、石を投げられそうですが。竹内栄美子さんの『戦後日本、中野重治という良心』(平凡社新書)です…

発表場所

桶谷秀昭さんの『危機と転生』(泰流社、1976年)です。 とくに、統一したテーマがあるというわけではなく、いろいろなところに発表した文章をまとめた評論集なのですが、最近は、こうした本が少なくなってきたように思います。 巻末に、収録した文章の初出…

見逃すかもしれない

トマス・ピンチョン『スロー・ラーナー』(志村正雄訳、ちくま文庫、2008年、親本は1988年、原本は1984年、収録作品は1960年前後に発表されたもの)です。 どんな人だろうと思って、読んでみたのですが、1950年代後半の、アメリカのひとつの側面ではあるのだ…

好み

河出の世界文学全集、なかなか刊行に追いつけずに、やっとトゥルニエとル・クレジオの巻にたどり着いたのですが、第1期よりも、第2期のほうに、池澤さんの好みが色濃く出ているように思えます。 この2作品は、いずれも島の物語で、漂着するロビンソンの話と…

誇り

井上文夫さんの『時をつなぐ航跡』(新日本出版社)です。 飛行機の客室乗務員の労働実態と、そこからくる職業病としての腰痛を、労働災害として認めさせるたたかい、そのなかでうまれた組合分裂とそれを使った労務管理のありようと、いまの航空界をめぐる状…

育てる

楽天の野村監督が退任するそうです。 もちろん、ある程度の実績をあげて、退くというのも、形としてはあるわけですから、フロントの判断自体がおかしいとは思いません。野村さんも来年は〈後期高齢者〉になられますし(民主党さんも、参議院では廃止法案をだ…

片鐙

前に書いたかもしれませんが、幸田露伴の「骨董」というエッセイがあります。その中に、マクラとして振られている話ですが、 江戸時代に、ある古物商の修業中の若者が、京都で、いい鐙をみつけました。ところが、片方しかありません。そのためか、値段も意外…

つながり

なかむらみのるさんの『信念と不屈の画家 市村三男三』(民主文学館、光陽出版社発売)です。 市村三男三(1904−1990)は新潟県出身の画家で、戦前のプロレタリア美術運動ではたらき、戦後も日本美術会の中心的な担い手となったひとです。なかむらさんは、た…

根拠はないが

ノーベル文学賞は、ルーマニア出身のドイツの女性作家に決まったようです。(すみません、名前がでてきません=ヘルタ・ミュラーさんだそうです) 今年も、昨年にひきつづきヨーロッパ作家ということで、どこで聞いたかわすれましたが、〈6年ごと〉というの…

耳に障る

こういうふうに感じるのは、特殊なのかもしれませんが。 テレビで、江戸時代に、東大寺の大仏の再建の話をしていました。寺社をつくることを〈建立〉と書いて、〈こんりゅう〉とよむのですから、最初につくる〈創建〉にしても、つくりなおす〈再建〉にしても…

残す

中野三敏さんの『和本の海へ』(角川選書)です。 江戸時代の本は、活字に翻刻されていないものがけっこう多いので、そうしたもののなかから、著者が面白そうなものを紹介するというものです。 考えてみれば、江戸時代のスタンダードだった、行書体と〈変体…

世襲

『世界の君主制』(大月書店、1990年)です。 現存する君主制のシステムの概説と、20世紀に廃絶した君主制の国の概況とが、コンパクトに紹介されています。ドイツ・ロシア・中国・イタリア・エチオピアと、けっこうあるものですね。 世襲で、ある地位を維持…

かみあわない

日本思想大系『キリシタン書 排耶書』(岩波書店、1970年)を少しずつ見ています。 林羅山が、キリシタン時代の不干斎ハビアン(このころ、ハビアンは「妙貞問答」という、神仏批判の書を著していました)と論争したときの覚書が「排耶蘇」として収録されて…

調べつくす

早川孝太郎(1889−1956)の『花祭』(講談社学術文庫、親本は1968年、もともとの本は1930年)です。 この祭は、天竜川流域の、奥三河・南信濃・北遠江のあたりに伝わる祭で、旧暦11月に、鬼の面などをつけ、夜を徹して舞うという祭なのだそうです。 著者は、…