2016-01-01から1ヶ月間の記事一覧

プライド

佐々木一夫『青い処女地』(新日本出版社、1981年)です。 作者は鳥取県で農民運動にたずさわりながら小説を書いていた方で、この作品には作者の経験が投影されているように思えます。 時は1930年、主人公の家は自作農だったのですが、親戚の保証人になって…

百聞は

岩波文庫の『ビゴー日本素描集』(正・続)『ワーグマン日本素描集』です。(ビゴー正は1986年、続は1992年、ワーグマンは1987年、いずれも清水勲編) 幕末から明治にかけて、当時の世相や生活を絵の形にして残してくれたものです。ワーグマンは江戸の東禅寺…

三冠

本谷有希子さんが芥川賞をとりました。笙野頼子さん、鹿島田真希さんについで、3人目の三冠(芥川・三島・野間新人)受賞というわけです。 この3人、いずれも芥川賞受賞で、三冠となったわけです。そこがやはり老舗ということでしょうか。 どこかのスポーツ…

自由席

今年のセンター試験の小説は、佐多稲子「三等車」です。初出は1954年1月の『文藝』だそうです。 語り手は、仕事で東海地区へ行くようで、とりあえず名古屋まで東海道線を利用するために、12月なかばの東京駅に行き、鹿児島行きの急行列車に向かいます。語り…

認めたくない

ヴァインケ『ニュルンベルク裁判』(中公新書、板橋拓己訳、2015年、原著は2006年)です。 ドイツの戦後処理の、連合国による国際軍事法廷と、その後の裁判の状況を追った本で、原著も一般書として書かれたものだそうです。新書という形でコンパクトに事情を…

誰かがやる

島村利正『奈良飛鳥園』(新潮社、1980年)です。 奈良の古仏の写真を撮り、それをひろめた小川晴暘(1894−1960)の生涯を小説化したもので、作者自身も〈杉村〉という名前で登場します。 奈良の文化遺産が国際的に注目されるにいたったのも、彼の写真が力を…