市場原理

続きで、『戴恩記』のあとに収録されている、新井白石の『折たく柴の記』です。最初は父親の思い出などという、けっこう個人的なことを書いているのですが、だんだんと政治情勢のことについてつっこんだ分析や回想をしています。
将軍代替わりの朝鮮通信使の問題などもあるのですが、重点的に触れられているのが、改鋳問題です。江戸幕府初期の金銀のレベルを、100年たった白石の時代には保つことができなくなっている。そこには、資源の枯渇という側面もあるのですが、経済の発達により、通流する貨幣が増加することで、市場にでまわる貨幣の価値を保障することが困難になったというのです。
貨幣の価値が、そこに含まれている貴金属の価値に依存している限り、貨幣の発行高には制限がでます。それがインフレを防止する効果はあるのですが、この時代はそれよりも商品流通の阻害要因となったことが問題になったのでしょう。
このころの幕府には、兌換のできない不換紙幣を発行して、経済活動全体を活性化するという発想は、とうぜんありません。米の価格をベースとする石高制のもとでは、そうした発想自体が存在しないのでしょう。
それがいいのかどうかは、価値観の問題かもしれませんが、少なくともバブル景気や、インフレによる不況を生み出さなかったということは、認識しておくことなのでしょうかね。