2011-11-01から1ヶ月間の記事一覧

先読み

木山捷平『大陸の細道』(講談社文芸文庫、1990年、原本は1962年)です。 1944年の12月、主人公の作家、〈木川正介〉は、満洲の新京に、就職のために赴任します。そこから、翌年の8月までのことを書いた作品です。作者と主人公は重なると見てよいでしょう。4…

編年体

『加藤周一自選集』(岩波書店、2009年から2010年)です。 加藤さんの生前から企画がはじまったもので、〈加藤周一を定義する〉ということで、著作を年代順に並べています。平凡社版の『加藤周一著作集』にはいっていない文章も、収められています。 第1巻は…

修行

アンリ・マスペロ『道教の養性術』(持田季未子訳、せりか書房、1983年、原論文は1937年)です。 著者には、東洋文庫に邦訳のある『道教』という書物もあって(ずいぶん昔に読んだので、もうほとんど覚えていませんが)、それが総論的ならば、こちらはその各…

スタンス

中沢けいさんの『書評 時評 本の話』(河出書房新社)です。 2段組720ページの分厚いものですが、この30年ばかりの中沢さんの、いろいろな媒体に発表したものをかき集めています。 中沢さんは一つ年上なので、視点はちがっても、似たようなものを取り上げた…

磁力

藤枝静男『志賀直哉・天皇・中野重治』(講談社文芸文庫)です。 表題作は、志賀直哉が新日本文学会の賛助会員となることを承諾しながら、中野重治の安倍能成批判をきっかけに取りやめにするプロセスを追ったエッセイですが、そのほかに著者の志賀直哉関係の…

事象のつみかさね

井上寿一さんの『戦前昭和の社会』(講談社現代新書)です。 新書ですから、いろいろなエピソードを連鎖させて、当時の社会を描き出そうとしています。大衆化社会であり、アメリカ文化の浸透であり、格差社会でもあったと、位置づけています。その意味では、…

スケール

川上紳一さんの『宇宙137億年のなかの地球史』(PHPサイエンス・ワールド新書)です。 こうした本を読むたびに、人間の営みが、とてもわずかな時間のなかで行われていると思うのです。今の季節、明け方にオリオン座がよく見えて、ペテルギウスの赤がくっきり…

折々だから

茂木文子さんの『マンゴスチンの実は赤く』(民主文学館)です。 作者のこの20年くらいの作品を集めた短編集ですので、統一したテーマがあるというわけではないのですが、作者をおもわせる主人公の、そのときどきの生活と、人生への思いが詰まっています。 …

石を投げれば

『コレクション戦争と文学』(集英社)の、『日清日露の戦争』です。 その二つの戦争にとどまらず、黒島伝治の「橇」のようなシベリア出兵に材をとったもの、もりたなるおの「物相飯とトンカツ」のように2・26事件にふれたものと、日中戦争より前の時期のい…

選択

『金達寿小説全集』全7巻(筑摩書房)を終わりました。 1980年に刊行されたもので、1979年までの作品が収められています。1975年の「対馬まで」という作品では、当時の政権から忌避されて韓国に入国できない主人公たちが、対馬にいって、釜山をはるかに遠望…

重点課題

原武史さんの『震災と鉄道』(朝日新書)です。 地震からちょうど8か月(曜日も今月は同じですね)たちましたが、いまだに陸前高田や大船渡へは鉄道では行かれません。そうした状況の裏になにがあるのか、原さんはJR東日本の会社のシステムに疑問を投げかけ…

家の仕事

川尻秋生さんの『平安京遷都』(岩波新書、シリーズ日本古代史のうち)です。 9世紀から10世紀前半ごろまでの時代をあつかっています。 各地で地震がおこり、火山は噴火するなどの自然災害も多い時代ですが、その中で、東北地方を支配下におさめていくなど、…

強さのみなもと

海猫沢めろんさんの『ニコニコ時給800円』(集英社)です。 最近の勤労事情を描いた連作小説です。本の帯には、〈下流社会のさらに最下層で生きる〉というキャッチコピーがあるのですが、実際には読むと、〈下層〉ではあっても、女性たちはその中でしたたか…

気まま

『日本原発小説集』(水声社)です。 その中の、豊田有恒「隣の風車」(1985年の作品のようです)は、原発が開発できないまま、火力発電ができなくなり、各自が自分の家に風車を建てるようになってからの混乱を描いています。家の立地によって発電量も差がで…

実地

『金達寿小説全集』から「太白山脈」(第7巻、1980年)です。 1960年代後半に『文化評論』誌に掲載されていた長編で、『玄海灘』の続編にあたります。1945年の8月から約1年あまりの南部朝鮮を舞台にした作品です。 日本にかわってアメリカ軍が支配し、アメリ…

見落とし

小林芳規さんの『角筆のみちびく世界』(中公新書、1989年)です。 角筆というのは、先の細い棒のようなもので、書物にしるしをつける筆記方法です。ちょっとみにはわかりにくいものですが、昔の仏教や儒学の漢籍などに、読み方などをすばやく記録するにはす…