2012-10-01から1ヶ月間の記事一覧

似姿

黒田日出男さんの『源頼朝の真像』(角川選書、2011年)です。 夏に奈良博で頼朝の特別展があったのですが、そこにも出展された甲斐の善光寺の頼朝像が、没後まもなく政子によって作成されたものだという論証をしたものです。 奈良博には神護寺の伝頼朝の画…

同世代

『図書』の11月号が届いたので、いろいろと眺めていると、大江健三郎さんのエッセイで、同級だった海老坂武さんのことが書かれていました。かれは野球部にいたのだそうですが、(大江さんがリーディングヒッターといっているのはもちろん誤りで、当時は東大…

ワイルドカード

岩倉使節団、サンクトペテルスブルグを見学して、北欧に向かいます。(文庫本4巻中途) ロシアをみて、かれらは、ロシアは当時のヨーロッパの中では遅れた国であることを実感します。にもかかわらず、幕末から日本のなかに、ロシア脅威論が流行するのは、19…

日本天皇・太子…

小路田泰直さんの『神々の革命』(かもがわ出版)です。 著者は近代史がどちらかといえば専門なのでしょうが、古代史へのアプローチとしての本です。 記紀の記述を、歴史としてよむことで、崇神天皇の時代を、倭国が農業社会に転換する時期の大変革として位…

どこに目をつける

今日は志賀直哉の命日だそうです。 「城の崎にて」や「清兵衛と瓢箪」が有名になっているので、志賀直哉というと、けっこう少年期の読書素材としてうけとめられているような感(実際、こちらもここ30年くらい小説作品は本格的に読み直していません)もありま…

傷つける

※ネタバレあります。 西川美和監督の映画『夢売るふたり』なのですが、どうにもよくわからないのが、子どもの扱いです。 阿部サダヲ演ずる主人公が、ふとしたきっかけから製本工場の出戻りシングルマザーと親しくなります。彼は以前から、火事で焼けた店の再…

ごちゃまぜ

原彬久さんの『岸信介』(岩波新書、1995年)です。 岸が若いころに北一輝にひかれていたことだとか、『満洲国』時代に〈濾過器〉を経たと思われるあやしいおかねを存分に使える立場にいたことなど、なるほどと思わせるエピソードもけっこうあるのですが、戦…

のんきな時代

角川の日本近代文学大系の『近代評論集2』(1972年)は、大正時代のものを集めているのですが、そのなかで、生田長江が白樺派を批判したものがあります。生田は、〈自然主義前派〉だと、かれらを批判するのです。 それはそれでかまわないのですが、その中で…

あいも変わらず

板橋守邦さんの『南氷洋捕鯨史』(中公新書、1987年)です。 世界の近代捕鯨の歴史を中公新書らしく、手堅くまとめています。 船団式捕鯨は、日本でも戦前は鯨油とりばかりで、食肉としてもとるようになったのは、戦後になってからだという指摘は、きちんと…

比較

ちまちまと、岩倉使節団につきあって、やっとフランスからベルギーに移動したあたり(文庫本3巻の途中)です。 アメリカ・イギリスにくらべると、フランスはプロイセンとの戦争に敗れ、パリ・コミューンの傷跡が残り、という時期にあたっています。政権交代…

まさかほんとうに

今年のノーベル賞は中国の莫言だそうです。 もちろん、いつ受賞してもおかしくない人ですから、いろいろとあっても妥当な受賞だと思います。 昔読んで、タイトルもよく覚えていないのですが、中越戦争の帰還兵が、国のために戦った自分に対して国がなにもし…

次に読む

原武史さん、保阪正康さんの『対論 昭和天皇』(文春新書、2004年)です。 昭和天皇をめぐる、さまざまな視点からの論点で、声の問題や、どこに行幸してきたかのこと、三種の神器のことなど、幅広く扱っています。 けれども、ある程度の予備知識がないと、納…

一芸

益川敏英さんの『素粒子はおもしろい』(岩波ジュニア新書、2011年)です。 物理は、それこそ大学受験に使って(とはいっても、共通一次を通過するだけでしたが)以来ごぶさたしているわけですが、ノーベル賞を受賞した方の一般向けの著作は、専門的なことに…

平野の風景

原武史さんの『レッドアローとスターハウス』(新潮社)です。 原さんは、自分の育った団地の生活を、戦後の思想史のなかに位置づけようとしています。以前の『滝山コミューン1974』のときもそうでしたが、みずからの生い立ちについて、懐かしさとともに違和…

恥しらず

『図書』10月号に、赤川次郎さんのエッセイが載っているのですが、それによると、文楽を見た大阪市長は、出遣いの演技を「人形をつかう人間の顔が邪魔」といったのだそうです。 これが、国政に参加しようとする政党の党首の発言だとしたら、国辱ものです。自…