2007-05-01から1ヶ月間の記事一覧

文明の伝承

小南一郎さんの『古代中国 天命と青銅器』(京都大学学術出版、2006年)です。 西周時代の青銅器の銘文(いわゆる金文ですね)を分析して、そこにあらわれた、「命」を上から下におろしていくシステムについて考えています。周の王が、天命をうけ、それを基…

知らずにいたけれど

西尾哲夫さんの『アラビアンナイト』(岩波新書)です。 「アラビアンナイト」といえば、バートン版とマルドリュス版とがあって、それぞれ日本語訳があり、平凡社の東洋文庫から出ているのはアラビア語からの訳であるというレベルのことしか知らなかったので…

共通の基盤

饗庭孝男さんの『芭蕉』(集英社新書、2001年)です。 最近はすっかり、芭蕉を論じるときに連句を論じなければ芭蕉論にはならないような流れがあって、この本も、そうした問題意識を共有しています。 中学のころだったか、寺田寅彦の岩波文庫の随筆集を読ん…

覚悟

山田忠音さんの『奔流』(光陽出版社)です。 山田さんは、1997年に第2回「民主文学新人賞」に佳作受賞を果たした方で、新潟で文学活動をしていました。しかし、彼は、小腸クローン病という、小腸に潰瘍ができていく難病にかかっていて、小腸を徐々に切除し…

認識すること

三宅泰雄さんの『空気の発見』(角川ソフィア文庫、1962年)です。 子ども向けに書かれた科学史の本なのですが、人間がどのようにして化学的な認識を得ていったのかということを、時代を追って書いています。それは一方では、時代を先取りした認識が受け入れ…

手駒

井上ひさしさんの『合牢者』(文藝春秋、1975年)です。 明治時代に材をとって、権力者の手駒としてつかわれる庶民の哀歓を描いた作品を集めた短編集です。このころの井上さんの作品には、そうした哀しさを描いたものが多くて、時代物としては『戯作者銘々伝…

横暴

豊島修さんの『死の国・熊野』(講談社現代新書、1992年)です。 熊野の信仰の様相をさぐった本なのですが、熊野という地域のもつ、複雑さがみえてきます。 那智の浦から船出する、補陀落渡海を考えても、これは仏教的な側面があるのは当然なのですが、熊野…

すべてはこれから

軍事境界線を越えて、列車が走ったというニュースをみたもので、『将軍様の鉄道』は以前ここで紹介したと思って、本棚の奥から『鉄馬は走りたい』(小牟田哲彦、草思社、2004年)を引っ張り出してきました。1997年から2002年にかけて、南北の鉄道を実際に乗…

謙虚であること

池澤夏樹さんの『南鳥島特別航路』(新潮文庫、1994年、親本は1991年)です。 著者が、人間の努力と、自然の大きさとの境界線ともいうべき地域を次々と訪れた記録です。八重山のヒルギ林であったり、白神のブナ林であれ、富山の砂防作業のところとか、岩手の…

その時なればこそ

また加藤周一さんですが、『夕陽妄語』の第8冊目(朝日新聞社)が出ました。考えてみると、加藤さんの名を知ったのは、やはり朝日新聞の夕刊に掲載されていた、『言葉と人間』(朝日新聞社、1977年)にまとめられることになる連載エッセイでした。それからも…

これも日本

加藤周一さんの『日本文化における時間と空間』(岩波書店)です。 相変わらず切れ味鋭い論考で、日本文化の「今=ここ」にこだわる性質をふわけしています。 「うちとそと」との差をつける社会では、外のものとの関係は「上」か「下」か「人外」かで〈対等…

その年のこと

『新潮』6月号には、東浩紀さんと仲俣暁生さんの対談が載っています。以前ここでも触れた、『東京から考える』の刊行記念の公開対談の記録をベースにしたそうです。仲俣さんは、船橋育ちなので、東京の東側からみた都市の相貌をとらえようとして、東さんとは…

豊かさのために

田中貴子さんの『検定絶対不合格教科書 古文』(朝日選書)です。 田中さんの著作は、今までにも何度かここで取り上げたこともあったと思いますが、日本の古典文学を狭いわくにおしこめることのないようにしようという、田中さんの信条は、この本にも現れて…

単なる回顧ではなく

日付は変わってしまいましたが、憲法記念日ということで、鶴見俊輔さんと瀬戸内寂聴さんとの対談『千年の京より「憲法九条」』(かもがわ出版、2005年)です。 1922年生まれのおふたりが、みずからの生活のなかから憲法を守るための論理をみつけようとする立…

大義名分

佐藤進一さんの『日本の中世国家』(岩波現代文庫、親本は1983年)です。 頼朝挙兵のときに、以仁王をはたじるしにしたことを、佐藤さんは「東国政権の首長(東国の主)たるにふさわしい皇親と、東国の軍事団体の長(武家の棟梁)たるにふさわしい武将との両…