2007-01-01から1ヶ月間の記事一覧

想像力のなさ

中国残留者の訴訟の東京地裁の判決ですが、その中に「母国語を失ったことがそんなに重大なこととはいえない」という趣旨の判決文があるそうです。明治の条約改正のなかに、日本人が日本語で裁判をすることが重大な要件としてあげられていたという過去すら、…

最初からの不可能

やっと、『佳人之奇遇』を読み終わりました。日清戦争のあとに出版された、巻十一以降は、岩波の新日本古典文学大系明治編でも、注釈なしで二段組でぎっしりと組まれているので、なかなか読みづらかったのですが、作品は日清戦争での日本の対応を、主人公の…

品切

井上ひさしさんの「父と暮せば」(新潮文庫、2001年、親本は1998年)です。広島の原爆を生きのびた主人公が、自分の気持ちを見つめていきます。やはり日本文学は、原爆の記憶を描きつづけていかなければならないのだと思います。それはそれとして、裏見返しのカ…

土台

大西広さんの『中国はいま何を考えているか』(大月書店、2005年)です。 日中関係を、経済的な側面から考えることで、将来の東アジア共同体が可能かどうかを考えるというスタンスです。日本・韓国・中国を平均所得の順に並べると、日本の諸地域、韓国の諸地…

よくよく見れば

的場徳造さんという方の『コルホーズ』(青木文庫、1954年)を読んでみました。もはや、ソビエト連邦なるものもどっかへいってしまったわけで、その農業政策の集団化が当時どうとらえられていたかを考える材料にはなるでしょう。 コルホーズは、いわば生産者が…

過酷な時代

金石範さんの『地底の太陽』(集英社、2006年)です。 『火山島』全7冊も読んでないのに、その続編のこの作品だけ読むのは少し気がひけているのですが、まったく手つかずというのもなんなので、読んでみました。もちろん、これだけで独立した作品として読む…

継承すること

山崎正和さんの『室町記』(講談社文庫、1985年、親本は1974年)です。 山崎さんは、考え方としては保守に属する人だと承知していますが、この本の中で、室町時代を現代日本につながるもののはじまりの時期としてとらえています。もともと週刊誌のコラムがも…

発行サイクル

芥川賞は、青山七恵さんになりました。作品については、http://d.hatena.ne.jp/nekopanda_tare/20060711 で紹介してあるので、よろしかったらご覧下さい。 河出書房新社も、『文藝』を季刊誌にしてずいぶんになりますが、それでもこうして、若手作家をつぎつ…

身をおいてこそ

芝憲子さんのエッセイ集『沖縄の反核イモ』(青磁社、1986年)です。 と、えらそうに紹介しましたが、実はこの本、古本屋の一山百円のところから掘り出してきたのです。そのときは、著者についてもよく知らず、タイトルと目次と初出とをみておもしろそうだと…

『私』という存在

服部達の『われらにとって美は存在するか』(審美社、1968年)を読んでみました。彼は、1922年生まれで、1955年前後に活躍した評論家なのですが、1956年にみずから命を絶ったといいます。「メタフィジック批評」を旗印にして、民主主義文学とは全くちがう立…

割り切れないもの

ヤノーホという人の書いた、『ハシェクの生涯』(土肥美夫訳、みすず書房、1970年、原著は1966年)です。 チェコの生んだ作家、ヤロスラフ・ハシェクの伝記です。ハシェクの書いた、『兵士シュヴェイクの冒険』(日本では栗栖継さんの訳で岩波文庫にあります…

落差

しばらく前に書いた「佳人之奇遇」の続きです。 岩波の新日本古典文学大系明治篇で、注釈がつけられている、巻十までたどりつきました。主人公の東海散士が、アメリカから帰国して、朝鮮の志士金玉均と対話をして、朝鮮が独立するには清に頼るのではなく、日…

つながっていくこと

今月の文芸雑誌は、まだ全部は見ていないのですが、気がついたところをまず少し。 『群像』では竹西寛子さんが、「記憶の継承−歌枕と本歌取」という文章を書いています。外国向けの雑誌に英訳で発表されたものを少し訂正したもののようです。百人一首にみら…

世話を焼く

引き続き、吉開さんの『青春の肖像』(新日本出版社、1973年)です。 『葦の歌』の続編とも言うべき作品で、主人公は引き続いて麻子さんで、彼女が繊維関係の業界紙の記者として就職し、そこでの生活と社会変革へのたたかいと、その中で伴侶となる男性と出会…

ムードとしての挫折

吉開那津子さんの『葦の歌』(新日本出版社、1971年)です。 作者がいま新聞に連載している「夢と修羅」は、父親の視点から書いた作品ですが、娘の視点から書いたのがこの作品です。1960年の安保闘争のころ、早稲田の学生だった主人公、麻子を軸にして、当時…

みどころはさまざま

まだ読み終わってはいないのですが、東海散士の「佳人之奇遇」を、岩波の新日本古典文学大系明治篇『政治小説集 二』(2006年)で読んでいます。いまのところ、巻九のあたりまでいっています。 作者の東海散士は、会津藩士で白虎隊の生き残りの人なのですが…

素顔と演技

菊池寛の新潮文庫『藤十郎の恋・恩讐の彼方に』(文庫は1970年刊行)です。 その中に、「ある恋の話」という作品(この文庫には初出に関するデータがないのでいつのものなのかはわかりませんが)というのがあって、ある女性が、離縁されて子どもとともに暮ら…

幽霊への批判

小林多喜二の「党生活者」をめぐって、研究者の島村輝さんと、評論家の北村隆志さんとが、興味深い論文を書いています。島村さんのは、至文堂から出た『「文学」としての小林多喜二』というムックに収録されたもの、北村さんのは、『民主文学』2月号に掲載…

登録と管理

2007年、本をめぐる話題から。 この1月から、国際的な書籍の登録番号であるISBNコードが変わります。今までは10桁であったのが、13桁に増えるのです。 本を買ったときに気づいている人も多いと思いますが、今、たいていの本屋では、バーコードリーダーがあっ…