2006-03-01から1ヶ月間の記事一覧

海の上

伊東信という人の作品をいくつか読みました。1960年代の海員の生活に取材した作品を多く書いていた人です。 『航跡はいまだ』(東邦出版社)の中の表題作「航跡はいまだ」は、今で言う過労死をした船員の未亡人が、それが職務上のものだったことを認定しても…

生きることの大変さ

柴垣文子さんの作品は、この前「鎮守の杜」についてこのブログで言及しましたが、その作品も含めて小説集『おんな先生』が光陽出版社から刊行されました。『民主文学』掲載の6作品が収録されています。若い教師を主人公にして日の丸・君が代問題を考えた「…

批判はたしかに自由だが

小林多喜二を批判する本が、彩流社というところから出ました。著者は畑中康雄という人です。この人は、北海道の炭鉱での労働運動の経験があるそうですが、新日本文学会にいたころは、武井昭夫の流れにいた人です。未来社から出ていた武井の著作集の月報に文…

青い思想・つづき

おとといの記述で、草薙さんや青木さんの名前を出しましたが、それよりも、佐田暢子さんの『朝まだき青の流れに』(新日本出版社)のほうが似ているように思えます。あの作品も、主人公が最初観念的に学生生活を送っていて、それから脱却する過程として、保…

青い思想(こころ)

斎藤克己さんの、『青い思想』(東邦出版社)をよみました。 1970年代初めの、長崎の浪人の民青同盟員が主人公です。彼は、作者と同じ名前が与えられていて、自分の境遇をマイナスのものと感じています。彼は、3人きょうだいなのですが、姉はもらいっこ…

時代小説はむずかしい

大波一郎さんの、『詩人 日柳燕石』(本の泉社)というのを読みました。江戸末期の詩人の伝記小説です。主人公の燕石は、讃州琴平の博徒の元締めであり、憂国攘夷の詩人でありという人物なので、戦時中に大都映画が題材にしたというらしいのです。 それを、…

資本の蓄積

大げさなタイトルですが、河出の「現代中国文学」シリーズの中の茅盾の『子夜』です。 舞台は1930年の上海。民族資本家をめざす男が登場します。製糸工場を経営するのですが、なかなか労務管理も困難で、公債の投機に手を出して破滅していくのです。 剰余価…

丸谷才一も80歳

丸谷才一の『闊歩する漱石』が文庫本になったので、読んでみました。丸谷の小説はあまりすきになれないのですが、彼の評論はおもしろい。とくに、文学史的考察というのは、古典と現代とをつなぐものとして貴重なヒントをくれます。(とはいっても、前に『民…

善意? の勘違い

西牟田靖という若い人(1970年生まれだとか)が、「僕の見た『大日本帝国』」という本を昨年出しました。旧日本の植民地を実地に訪れて、そこの見聞を本にしたものです。大江志乃夫にも、同様の本があった(新潮選書で『日本植民地紀行』というタイトルだっ…

ちょっと印象批評的

三浦展の「下流社会」が評判です。現在の格差社会を実感している、世の中をまともに見ようとしている人にとっては、興味をそそられるタイトルでしょうから。 けれども、実際にはたいした内容ではないような気がします。「下流」の人はそれに甘んじて、その中…

武侠小説としての『紅岩』

ずいぶん久しぶりに『紅岩』を読みました。河出の「現代中国文学」に収められた立間祥介訳のものです。新日本出版社が昔だしていたのは全訳本なのですが、この版は冗漫なところを省略したのだそうです。 で、読んでみてあらためて思ったのは、タイトルにも書…

青木陽子さん

遅ればせながら、青木陽子さんの『日曜日の空』(新日本出版社)を読みました。そろそろ現役を引退しようとする3人の女性を主人公にして、現代のかかえる問題点を追求した作品です。いずれも、親の問題、夫婦の問題、子どもの問題といういわば3世代にわた…

新学社のこと

新学社という出版社があります。もともと小学校向けのドリルを扱っている会社で、そこそこのシェアをもっているようです。 その出版社が、ドリルでゆとりができたのか、普通の出版事業に乗り出しています。5年ほど前には、保田與重郎の作品を、全部で32冊…