2016-01-01から1年間の記事一覧

度量

巴金『寒い夜』(岩波文庫、立間祥介訳、親本は1991年、原著は1947年)です。 1944年から45年にかけての重慶を舞台に、家族関係のはざまで肺を病んで死にゆく男を描いた作品です。当時は、日本軍が大陸打通作戦とかいって、桂林などを攻略した時期ですので、…

つぎつぎ

今度は、長山高之さんの訃報です。戦時中の高知を舞台にした作品もありました。しばらくは作品も書けなかったようですが、十分に書きたいことは書いたのではなかったでしょうか。

おくやみ

浜野博さんの訃報がしんぶんに載っていました。たしか江田五月と同じ高校で、運動会だかの行事のときの事故で下半身がうごかなくなってしまったとか聞いたことがあります。そうしたご自分の体験をベースにした小説をいくつか読んだ記憶があるのですが、最近…

識別

デレク・ジーター選手の功績をたたえて、ニューヨーク・ヤンキースは背番号2を永久欠番にしたそうです。ヤンキースの1けた番号はすべて永久欠番ということになるそうです。 さて、こちらでは、松本幸四郎さんが松本白鸚に、市川染五郎さんが松本幸四郎に、…

ふところの深さ

木村元彦さんの『橋を架ける者たち』(集英社新書)です。 もともとは『すばる』に不定期連載されていた朝鮮高校サッカーをめぐるエッセイを再構成したのだそうですが、在日の選手たちがどのようにして自分の場所をつくってきたのかということに関して、いろ…

虚構の力

有吉佐和子『和宮様御留』(講談社文庫、1981年、親本は1978年)です。 江戸に下った和宮が替え玉ではないかという話は昔からささやかれていたのでしょうが、それを、大きく広げたのがこの作品でしょう。和宮の伯父にあたる公家の家に奉公していた無筆の少女…

集めた時代

『世界文学全集 月報合本』(筑摩書房、1970年)です。 この合本も含めて全70冊になる世界文学全集で、1966年から70年にかけて刊行されました。筑摩は、同時期にやはり全70冊になる日本文学全集も刊行しています。 当時の『世界文学』ですから、中国やアラビ…

発想

山本紀夫さんの『トウガラシの世界史』(中公新書)です。 トウガラシが、南アメリカから地球を一周して広まっていったようすをたどる、時間と空間の広がったものです。各国でのトウガラシ事情がわかって、その幅広さに驚きます。 さて、ここでするのはそう…

あわや

『新潮』の12月号は、手塚治虫の未発表イラストを売りにしています。なぜ『芸術新潮』じゃないのかとは思いますが、そのおかげで、売れ行きもいいのでしょうか。いつも買う本屋では品切れで、2軒目でも最後の1冊でした。 手塚作品には、アポロの歌(だっけ)…

実のなかの虚

西野辰吉『東方の人』(東風社、1966年)です。 1960年代前半に『文化評論』に載せた連作長編で、大逆事件の被告とされた奥宮健之と、その周辺の人びとを描いています。日本の韓国併合にいたる朝鮮半島への進出の状況や、その中で生きるひとを描くという野心…

高揚

『文学・芸術の繁栄のために』(駿台社、1954年)です。 1953年に中国で開かれた、「中国文学・芸術工作者第2回代表大会」なるものの報告や発言で、活字になったものを日本で編集したものだそうです。 中華人民共和国ができて4年というところなので、みんな…

北のまちではもう

にしうら妙子さんの『淡雪の解ける頃』(民主文学館)です。 作者は、北海道に生まれ育った方で、十勝の大樹町に長く暮らしていたのだそうです。その時代に書いた作品を集めたもので、町の文芸誌にだしたものもはいっています。作者自身の体験にもとづくと思…

あおる

加藤陽子さんの『戦争まで』(朝日出版社)です。 中学生や高校生に対して、昭和戦前の日本がとった選択をふりかえるという企画です。当時の為政者の選択の中に、白色テロへの懸念があったことを位置づけていることは、見落とせないことでしょう。そうした、…

備忘のために

ずっとむかし、古田武彦の『失われた九州王朝』(朝日新聞社、1973年)を読みました。そのなかに、「『隋書』(『北史』もですが)のなかに、〈倭国は東西五月行、南北三月行〉という趣旨の記述があり、(古田は隋書は倭国ではなくタイ国だといっていますが…

今だから

村上春樹さんの『職業としての小説家』(スイッチ・パブリッシング、2015年)です。 著者の作品に向かう態度や作品をつくるときの構え、そこからはじまって、作家としての世間への向き合い方など、村上春樹はこうして作家として立って行ったのだと思わせます…

集めてみる

講談社文芸文庫『明治深刻悲惨小説集』です。 有名どころでは、樋口一葉の「にごりえ」とか、泉鏡花の「夜行巡査」とかもありますし、文庫などに初収録ではないかという田山花袋「断流」など、1890年代後半の格差や貧困、差別にまつわる作品を集めています。…

平準化

小林信彦さんの『ドジリーヌ姫の優雅な冒険』(文藝春秋、1978年)です。 雑誌『クロワッサン』に連載された小説で、若妻が夫とともに食をめぐるいろいろなトラブルにまきこまれながら危機を打開していくという娯楽小説です。食をめぐるうんちく的なところが…

ひとりあるき

桜井忠温『肉弾』(中公文庫、親本は1906年)です。 日露戦争の時、作者は旅順を攻めた第3軍に所属していたのですが、最初の総攻撃で負傷し後送されました。上陸以来の経験を書いたものがこの作品で、後送されるまでのことが書かれています。 火野葦平の「土…

取り合わせ

「とと姉ちゃん」の花山氏のデスクの後ろに本が何冊か並んでいて、パッと見で背表紙だけをみると、「蟹工船」と「浮かぶ飛行島」とが読み取れました。 海の話が好きなのでしょうか。内容的には両極端のような気もするのですが。

だれでもできる

『土門拳 写真論集』(ちくま学芸文庫、オリジナル編集)です。 中心は1950年代の投稿写真の選評と、そのころの講演記録などですが、当時のアマチュアカメラマンが、社会的な題材にリアリズムの境地から迫ろうとすることへの応援となっています。 とうじでさ…

話を聞く

大江健三郎さんの『世界の若者たち』(新潮社、1962年)です。 中国やブルガリア訪問記もあるのですが、内容の多くは1961年に『毎日グラフ』に連載された、訪問インタビューの記録です。著者と同世代のような各分野の人びとをたずねていて、大関大鵬(当時)…

背景

津島佑子『夢の歌から』(インスクリプト)です。 著者が生前に刊行を予定していたもので、校正刷りができる直前に亡くなられたようです。 晩年の作品と同じような立場から書かれたいろいろなエッセイが収められているので、この何年かの著者の活動とあわせ…

年齢

今日は福永武彦の亡くなった日にあたるということですが、かれは61歳で亡くなっているのですね。実は若死にだったということにもなるのでしょうか。当時は大往生のような感じもしていたのですが。 同じように、篠田一士も62歳で亡くなったと記憶しています。…

手がかり

泉脩さんの『妻が逝く』(私家版)です。 泉さんは札幌第一高校の教諭を長年勤め、定年後に文学サークルに属しながら、評論やエッセイをかかれていらっしゃいます。 最近の短い文章をまとめた本なのですが、その中に、近しい人の追悼文が載っています。その…

独自性

オリンピックの開会式では、入場行進の順番は、開催国のことばの秩序にしたがった順番をとることになっているようです。 そうなると、日本語ならばアイスランドからロシアまでということになるのでしょうが、長野のときにもそういうことはしなかった従属国的…

秩序ができれば

青木文庫『明治労働問題論集』(1956年)です。 20世紀最初の10年間ほどの、労働者の現状報告と、各地で起きた労働争議の実態とを、当時の新聞や雑誌の記事を集成して編んだものです。 100年経っても日本の企業のブラックぶりはこの当時とあまり変わらないの…

今度は消えない

7月30日になっても、起動すると「アップグレードまでまもなくです」と出て、60分のカウントダウンがはじまっています。どんなものでしょうか。

それをいうなら

竹内栄美子さんの『中野重治と戦後文化運動』(論創社、2015年)です。 近代文学研究の立場からの研究論文を集めた本というのは、最近ではやはり珍しいもので、プロレタリア文学運動や、戦後の文化運動のありようを、批判的な目をもちながら、大局的には擁護…

無限ループ

PCを起動すると、あと60分後にアップデートを開始しますというメッセージが出て、カウントダウンが始まるのですが、60分経つと単なる再起動がおこなわれて、また60分後にアップデートを開始しますというメッセージが出て、カウントダウンが始まります。 どう…

世界が狭い

芥川賞は村田沙耶香さん。 いつとってもおかしくはないとは思っていましたが、前回の本谷さんに引き続いて、野間新人・三島との3冠達成ということになります。ちょっと前までは、笙野頼子さんだけだったのが、鹿島田真希さん、本谷有希子さんと、今回の村田…