2008-08-01から1ヶ月間の記事一覧

どこでも希望が

沢田五郎さんの『その土の上で』(皓星社)です。 沢田さんはハンセン病に罹患して、群馬県草津の施設に収容され、そこで暮らしています。その後失明したのですが、それでも短歌や小説を書いているとのことで、この本は小説集となっています。1960年代に書か…

萌芽

成澤栄寿さんの『『破戒』を歩く』(部落問題研究所)です。 この本は、全2冊の『島崎藤村『破戒』を歩く』の上巻にあたるものですが、「破戒」の作品世界にそって、作中の舞台を考証したり、主人公の造型を考えたりしています。 かつて中村光夫が『風俗小説…

コミットメント

大塚英志・東浩紀の対談『リアルのゆくえ』(講談社現代新書)です。 ふたりの、2001年・2002年・2007年・2008年の対談をあつめたものなのですが、実は、けっこう読みづらい本です。というのも、両者の見解の相違がはなはだしく、その対立に終始している2007…

ずれ

ちょっとメモです。 リービ英雄さんの『仮の水』(講談社)のなかの表題作、「仮の水」で、主人公が西域のまちに行き、現地のガイドから運転手を手配してもらいます。そのときガイドは日本語で、運転手を「キョーさん」と紹介します。その運転手のひとは、中…

機種依存

橋本不美男(1922-1991)『原典をめざして』(笠間書院、新装普及版、親本は1974年)です。 橋本先生には、大学のときにこの本の親本を使った講義を受けたことがあるのですが、そのときの本はいつの間にか行方不明になっていたので、あらためてみてみました…

展開

大野達三さんの『アメリカから来たスパイたち』(祥伝社文庫、親本は1976年)です。 親本は新日本新書で出た増補版で、初版は1965年に出たようです。インドネシアの「9.30事件」より前に出されたようです。 鹿地亘さんがキャノン機関に拉致された話だとか、国…

流れてゆく

笙野頼子さんの『だいにっほん、ろりりべしんでけ録』(講談社)です。 笙野さんは、変った作品を書いているのですが、そこには、作者なりの、現実に対する批評があります。芥川賞受賞作の「タイムスリップ・コンビナート」では、海芝浦駅に向かう主人公の意…

学際的

榎原雅治さんの『中世の東海道をゆく』(中公新書)です。 新書という一般向けの本ではありますが、13世紀の京都から鎌倉に向かう貴族の日記を材料にしながら、当時の潮汐の状況などもふくめて、当時の景観を復元しようとしています。 「遠江」の語源は、〈…

実録の重み

今井和也さんの『中学生の満州敗戦日記』(岩波ジュニア新書)です。 きのう、「敗戦」ということばはなるべく使いたくないといいましたが、この著者のように、外地にいて引き揚げた人にとっては、「敗戦」以外のなにものでもないのでしょう。それまで、自覚…

重い思い

増田勝さんの『成田で』(民主文学館、光陽出版社発売)です。 増田さんは岐阜県出身、中学卒業後名古屋で就職して、名古屋の民主主義文学運動を支えてきたかたです。そのため、本に収録した作品も、『民主文学』本誌だけでなく、『名古屋民主文学』に発表し…

小道具

十川信介さんの『近代日本文学案内』(岩波文庫別冊)です。 岩波文庫の別冊といえば、かつてはフランス・ドイツ・ロシア・ギリシアローマの文学案内というラインアップが長かったのですが、その後アンソロジーやらなんやらが増えてきたところで、こうした案…

交感

橋本槙矩さんの編訳による『アイルランド短篇選』(岩波文庫、2000年)です。 アイルランドは、もともとはケルトの人たちの住む地域だったわけですが、東隣のブリテン島の住人に圧迫されて、一時は植民地化されていた時代もありました。スウィフトがたしか、…

そのときどき

佐藤弘夫さんの『偽書の精神史』(講談社選書メチエ、2002年)です。 佐藤さんの本は、今までにも『神国日本』『起請文の精神史』をここで紹介しましたが、その先駆に当たるもので、中世日本(とくに南北朝以前)が、いろいろな「偽書」を使うことで、自分た…

矜持

水村さんの文章に関しての若干のつづきを。 水村さんは、こどものころ、航空郵便に「PAR AVION」とフランス語を書いていたと記しています。もちろん、今でもそう書けばいいのですが、たしかに廃れてきているような感じはあります。 昨夜の開会式をみていたの…

流入と流出

『新潮』9月号の水村美苗さんの論文からの連想です。 全体の構成からいうと前半にあたるようなもので、その後全体像は単行本になるというので、途中までの部分から恣意的な展開をしてしまうのですが、日本文学に限らず、非西欧文学の世界的な広がりという面…

鉄砲水

雑司が谷の事故は、痛ましいことです。 〈谷〉という地名があるとおり、あのへんはけっこう起伏が激しく、(池袋の「袋」も同様ですね)、神田川に流れるところも急ですし、神田川自体も、けっこうよく氾濫する川なのです。 大学時代に、神田川があふれて、…

郷愁

ソルジェニーツィン氏、死去。 今までも、何度か書きましたが、ソ氏は、「スターリン時代が科学的社会主義からの逸脱だ」と考えていたわけではなく、「科学的社会主義」自体がまちがった思想であったという立場で一貫していたわけです。 初めてソ氏の作品を…

自己責任

『論座』9月号に、浅尾大輔さんが吉本隆明さんに聞くという企画があります。なぜこの二人を組み合わせるのかはよくわかりませんが、その中で吉本さんが浅尾さんにこういいます。 「あなたはまず、職業的な作家として、人に文句を言わせないぐらいの技術を苦…

文化遺産

ついつい、日本テレビの阿久悠のドラマを観てしまったのですが、『スター誕生』の映像や音源を使うなど、視聴者へのサービスについては、いろいろと工夫しているという感じはしました。 こうした映像なり音源なりも、当時の日本社会を知るためにはある意味必…