2012-05-01から1ヶ月間の記事一覧

心くばり

『中野重治書簡集』(平凡社)をちまちま読んでいます。1945年の分まできました。 1945年12月16日付の、堀辰雄あての手紙があります。すでに『堀辰雄全集 別巻1』(筑摩書房、1977年)に収録されているので、今回はじめて活字になるのではありませんが、戦後…

収奪

三木理史さんの『国境の植民地・樺太』(塙選書、2006年)です。 樺太島は、日露両国の間でいろいろな問題を抱えてきました。現地に昔から住んでいた人たちが、近代的な国家を形成したことがなかったので、ますます両国の資源の島として扱われることになった…

夕日

北田暁大さんの『増補 広告都市・東京』(ちくま学芸文庫、2011年、増補前の親本は2002年)に、クレヨンしんちゃんの映画、略称「オトナ帝国」が論じられていたのですが、たまたま、きょうは、昼にケーブルでオトナ帝国が上映され、夜にBSプレで「続三丁目の…

止揚

朴裕河さんの『和解のために』(佐藤久訳、平凡社ライブラリー、2011年、原本は2005年)です。 日韓の対立が起きている項目に関して、両方の言い分を紹介しながら、韓国の人に対して、もっと相手を理解しようと訴えるものです。 個々の事由に関しては、韓国…

生き延びる

『コレクション戦争と文学』(集英社)の、『戦時下の青春』の巻です。 〈青春〉と名乗っていますが、いわゆる銃後の生活を描いた作品が集められているので、必ずしも青春期の人ばかりが登場するわけではありません。ですから、証券マン(株屋)が旋盤工にな…

責任論

川村湊さんの『原発と原爆』(河出ブックス、2011年)です。 戦後の文化の中で、核兵器や原子力の利用に関連するものをひろいあげて、そのもつ意味を考えようとしています。個々の作品評価はいろいろとあるでしょうが、こういうスタンスは見なければなりませ…

書かれること

出口智之さんの『幸田露伴と根岸党の文人たち』(教育評論社、2011年)です。 出口さんは1981年生まれの若手研究者の方で、そうした人が露伴の業績に関心を持って研究するというのも、なかなか珍しいのではないでしょうか。露伴全集も1970年代末に再刊されて…

わくの中

『十五年戦争と満鉄調査部』(石堂清倫、野々村一雄、野間清、小林庄一の座談、原書房、1986年)です。 1985年に行われた座談の記録だそうですが、満鉄調査部に在籍した直接の証言ですので、当時の状況を知る材料になります。 基本的には、満鉄という会社が…

一歩おいて

藤澤清造『根津権現裏』(新潮文庫、2011年、親本は1922年)です。 西村賢太さんが芥川賞を取って以来、脚光を浴びている作家の、第一長編小説の文庫化というわけです。 友人の死に直面した主人公の生活と苦悩を描いているのですが、当時の〈破滅型〉の私小…

抑えこむ

万城目学さんの『鹿男あをによし』(幻冬舎文庫、2010年、親本は2007年)です。 奈良の学校に赴任した青年教師が、鹿からナマズをおさえこむ儀式のために、『サンカク』と呼ばれる『目』をキツネから受け取る役目に任ぜられるところから起こる騒動を描いた娯…

当てはめ

ふと考えたのですが、橋下さんが学校に関していう「ユーザー」というのは、親でも子どもでもなく、学校を出たあとかれらを雇う企業だと考えると、すんなりいくのではないかと思うのです。 学校は、子どもという「製品」を作る場で、親は「製品の原料」を納入…

基本は基本

山村高淑さんの『アニメ・マンガで地域振興』(東京法令出版、2011年)です。 埼玉県の鷲宮町で、『らき☆すた』を材料にしたまちおこしの動きが話題になりましたが、そのとりくみを中心に、似たような形で地域振興に動いている地域のレポートのようなもので…

この人にして

『週刊ベースボール』に、毎週、「記録の手帳」というコラムが連載されています。たしか元パリーグの記録部長だかをつとめたと記憶しておりますが、千葉功さんが執筆しています。 今週は、いろいろな雑多な話題をあつめた回だったのですが、そこで、ホールド…

西へ東へ

『万葉集の考古学』(森浩一編、筑摩書房、1984年)です。 万葉集に登場するいろいろな土地や事物に関して、それぞれの地元の人たちが短文の論考を寄せた、アンソロジー的な性格のものです。万葉集時代の土地の広がりは、古今や新古今のころの歌枕のように実…

校訂

『図説 宮澤賢治』(ちくま学芸文庫、2011年、親本は1983年)です。 賢治の全集の筑摩らしく、原稿や手帳の写真など、いろいろな資料をつかい、文学アルバム的に仕上げようとしています。 賢治の生涯を追うのには、けっこう役に立つものでしょう。 ところで…

学と術

志賀浩二さんの『数学が歩いてきた道』(PHPサイエンスワールド新書、2009年)です。 いちおう高校時代は当時の数学?(ローマ数字の3)まで履修したのですが、無限級数でなんだかわからなくなり、自然対数(いまだに定義がわかりません)でお手上げになって…

引き入れると

イザベラ・アジェンデ『精霊たちの家』(木村栄一訳、河出の世界文学全集、2009年、原著1982年、親本1989年)です。 チリを舞台に、一家の歴史を語ることで、20世紀のチリの歴史を物語ります。具体的に描かれるということでも必ずしもないのですが、1970年の…