分相応

今年の共通テストの小説問題は、加能作次郎の「羽織と時計」でした。複数の情報を組み合わせるという共通テストのコンセプトで、宮島新三郎の文芸時評を組み合わせて出題されました。主人公(たぶん作者でしょう)が元同僚から反物を贈られます。その同僚が…

情報の必要

『岩波新書解説総目録』(岩波書店)です。 岩波新書の全書目の解説目録なのですが、赤版と青版は、現在単純な番号ではなく、「R××」(赤版)「A××」(青版、ジャンルでA~Gまである)という番号が振られ、ISBNコードもそれに従ってつけられています。 以前…

日常の延長

今年のセンター試験の小説は、原民喜の「翳」という作品です。戦時中、妻を亡くした主人公が、訃報の通知を旧知の人物に送ったが反応がない。いぶかしんでいると、その人の父親から来信があって、息子はすでに亡くなっていたというのです。そして、主人公は…

ゆとりをもって

大相撲のけが人が多いことがよく指摘されます。力士の大型化は当然原因のひとつでありましょうが、もうひとつの要因として、土俵の狭さがあるのではないかと思われます。 もちろん、1946年のように16尺にしろとはいいませんが、土俵周りの空間の狭さが、転落…

柔軟さ

ワールドシリーズが行われていますが、ヒューストンとワシントンの対戦、ヒューストンがアメリカンリーグで、ワシントンがナショナルリーグだと、どうしても逆じゃないかという違和感がぬぐえません。セネタースと名乗れとはいいませんが、もともとヒュース…

惜しかった

安美錦が引退したけれど、実は出場できていれば可能な記録があったのです。それは、琴ノ若との対戦の可能性があり、対戦すれば、安美錦は琴ノ若の父親の佐渡ヶ嶽親方とも対戦したことがあるので、親子と対戦したということができたのです。千代の富士が貴乃…

山登り

ごぶさたしていました。 即位にあたって放映された映像のなかに、山に登っていらっしゃるものがありましたが、それを見て、窪田精の作品、「霧の南アルプス」(『民主文学』1988年1月号掲載、のち同題の単行本(新日本出版社、1994年)に収録)を思い出しま…

やっているなら

今尾文昭さんの『天皇陵古墳を歩く』(朝日選書、2018年)です。 最近、宮内庁が管理する〈陵墓〉への学術的な立ち入りが、少しずつ許可されているのですが、著者は、そこに参加して、いろいろな古墳の実態をみてきました。その経験から、古墳の状況と現状を…

橋のたもとで

今年のセンター試験の小説問題は、上林暁の「花の精」という作品からです。主人公が庭の月見草を除去されてしまったので、友人と今の西武多摩川線に乗って、多摩川べりまで月見草を採りにいくという場面です。川べりにあるサナトリウムをみては療養中の妻を…

引導

稀勢の里の相撲をみていると、右のおっつけで体が浮いて、左を深く差せないというのが、最晩年の北の湖を思い出させてしまいます。はてさて。

根が深い

中根千枝『未開の顔・文明の顔』(角川文庫、1972年、親本は1959年)です。 著者が1953年から1957年にかけて、インドからヨーロッパに行った時の記録です。ベンガル地方や、アッサムなどの地域の報告は、なかなか興味深いものもありますし、それこそインパー…

泣ける話

漢文で、忠犬の話はいくつかあるのですが、そのなかで、犬が銀を守って死んでしまう話があります。けっこう泣ける要素があるかと思うので、原文と訳(試訳ですが)をあげておきましょう。 秦中有商於外者、帰挈一犬以行。抵黄河。行嚢在船、候人満乃渡。偶腹…

空気のゆくえ

海野弘『風俗の神話学』(思潮社、1983年)です。 1980年代初めに書かれた、都市論に近い文章をあつめたもので、ある意味時代の先端を突っ走っているようなところもあるし、その後のポストモダンやら、1920年代ブームやらを予感させるようなものもあって、そ…

なまなましい

美濃部亮吉『苦悶するデモクラシー』(角川文庫、1973年)です。 1958年~59年にかけて雑誌に連載したものだそうですが、戦前の大学人にたいしての言論の圧迫の実態を回想しています。著者自身も、いわゆる〈教授グループ〉への弾圧のために、治安維持法違反…

移行

はてなダイアリーにあった記事をこちらに移行しました。今後とも、ごひいきに。

手抜き

窪川鶴次郎『東京の散歩道』(講談社文芸文庫)を見ていたら、いつも巻末にある、単行本や文庫本のリストが存在しません。窪川の文庫本が出るのはほんとうにひさしぶりだというのに、こういう扱いを受けるというのは、釈然としないものがあります。

インターバル

さくらももこさんが亡くなられました。 たしか『学生新聞』だったと思いますが、さくらさんのエッセイについての寄稿を求められたときに、エッセイもいいが、本業の「ちびまる子ちゃん」について書かせてもらいたいということを申し出て、受け入れられたよう…

どうせやるなら

鴻池留衣さんの「ジャップ・ン・ロール・ヒーロー」(『新潮』9月号)です。 あるバンドの盛衰を、ウィキペディアの記事仕立てで記すという作品なのですが、文章がちっともウィキペディアの文体模写になっていません。内容以前の問題ではないでしょうか。

人情ばなし

北嶋節子さんの『エンドレス』(コールサック社)です。 つながっているような作品5つからなる短編集なのですが、ホームレス支援の話であったり、小学校で良心に従って行動することのむずかしさを書いた話であったりと、日常のなかでの希望のありようを描い…

都合の悪さ

辻田真佐憲さんの『大本営発表』(幻冬舎新書、2016年)です。 大本営発表がだんだんとでたらめになっていくプロセスを、きちんと追いかけています。そこと、メディアが共犯者になったように、あおりたてるというのも、決して昔話とはいえないのでしょう。都…

こんなところにも

古山高麗雄『兵隊蟻が歩いた』(文藝春秋、1977年)です。 著者が召集されて戦地に赴いた、フィリピンやシンガポール、マレーシアやビルマを、1975年〜76年にかけて再訪したときの文章です。著者は、再訪の過程で、日本軍がどんな軍隊だったか、それが現地の…

命日

今日は川端康成が亡くなった日だそうです。もう46年になるのでしょうか。 新感覚派としての川端のおもしろさが一番出ているのは「水晶幻想」かとも思うのですが、そういうものを書きながら、時評をしっかりと書いていたというのも、考えてみるとみごとだった…

併走

『現代日本の批評』(講談社、全2冊、2017年〜2018年)です。 東浩紀さんの『ゲンロン』の流れで、講談社の文芸文庫にはいっている『近代日本の批評』を意識しながら、その続編といったおもむきで、1975年からの批評のながれをシンポジウム風にまとめたもの…

同じ場所で

金子兜太さんが亡くなられました。何年か前に、文団連だったかの集会でお話をされたのをうかがったことがありますが、その時はあの『……許さない』の揮毫をされた直後だったかと思います。 金子さんは戦時中に兵士としてトラック島に駐屯して、孤立させられる…

なぜ誰も

カズオ・イシグロ『遠い山なみの光』(小野寺健訳、ハヤカワ文庫、2001年、原作は1982年)です。 イギリスに住む日本人女性が、最初の夫との子を宿して長崎に住んでいたころを回想するというできごとを軸とした物語で、のちのイシグロの作品を予想させる、人…

真剣度

オリンピックの入場行進、ハングルの順番だそうです。2008年の北京でも漢字の順番だったわけですから、2020年には、五十音順にしなければ、やる人たちが、ほんとうに自国の文化や伝統、言語を大切に思っているのかどうかがわかりますね。口先だけで、「この…

底に流れる

『近代社会主義文学集』(角川書店『日本近代文学大系』内、1971年)です。 このシリーズは、近代文学に注釈をつけるという、なかなかおもしろい取り組みをしたもので、いまは明治や大正時代の作品には、文庫本では注がつくものが多くなっている先駆にあたる…

西に向かう

今年のセンター試験の小説は、井上荒野さんの「キュウリいろいろ」です。ハルキ文庫の『キャベツ炒め…』とかいう作品集に収められているとか。 40年ほどの結婚生活を経て夫を亡くした女性が、夫のふるさとを訪れる場面です。夫婦の間には子どもが一人いたの…

注目度

高校サッカーの開会式ハイライトの番組を見たのですが、入場行進の場面で、全チームは紹介されず、たぶん制作者の目から見て注目のチームだけが映像として流れました。 これが、高校サッカーの現状だというのならばそれまでですが、CS放送も含めてこれでいい…

勝ってはいても

火野葦平『陸軍』(中公文庫、全2巻、2000年、親本は1945年)です。 もともとは1943年5月から1944年4月にかけて「朝日新聞」に連載されたさくひんで、単行本になる前に映画化されたというものです。北九州の一家の歴史に、陸軍がどうかかわっていたのかを描…