おもしろくてためになる

佐藤卓己さんの『「キング」の時代』(岩波書店、2002年)です。
戦前から1957年まで講談社から刊行され、日本語の通用した世界にひろがった雑誌『キング』の分析をとおして、雑誌のもつ統合のはたらきに注目したものです。大衆化の問題など、いろいろと考えることの多い本ですが、そのなかで、日中戦争のころの〈出版バブル〉とでもいうべき時期の分析がおもしろい。言論弾圧という側面から語られることの多い、この時期ですが、出版全体は活況を呈していて、出版人のなかには、時代を謳歌していた人も多かったろうというのです。時流に棹差す言論は弾圧されないわけですから、そういうこともあるでしょうし、今でも、この時代の本で、古書として入手できるものには、けっこう貴重なものもあります。岩波文庫などで、この時期だからこそ出たものも少なくはありません。そのように、〈みんな〉で一緒に流れていく(それも、けっこう多数が喜んで)ところに、ファシズムの時代があるのでしょう。
そういえば、宮本百合子も、1940年前後には執筆禁止がゆるんで、実現はしなかったものの、〈修養〉のようなことについて書き下ろしを依頼されることもあったと、夫への手紙で書いていますから、〈豊かな〉戦前というものも考えなくてはいけないのでしょう。
そういえば、以前戦前の旅行ブームのことも書きましたよね。
いま、講談社はふたたび『キング』という雑誌を出しています。けれどもそれは、若い男性を想定したつくりになっています。『クイーン』という雑誌名も講談社が押さえているのだそうで、『POPEYE』と『OLIVE』をペアにしている他社に対抗しようとするのかもしれません。
元祖『キング』は、テレビに席を譲りました。いま、地上波テレビが変わりそうな時代に、統合するメディアはどうなるのでしょうか。