立場と人情

斎藤淑子さんが、『ウワーッ! 飛行機が落ちてくる』(光陽出版社)という本を書きました。1977年に横浜市で起きた、米軍機墜落事件についての本です。著者は、このとき地元緑区(いまは青葉区になっていますが)選出の神奈川県議会議員であったので、この本の中にも「よしこ」という名前で登場していて、現場を訪れたときの生々しい経験や、被害にあった人たちのその後について書いてあります。
墜落のとき、当局は現場に人を入れまいとしてしていたというのです。そこに、著者が県議会議員であることを利用して、やっと現場を見ることができたというのです。
このときの事故で、米軍のパイロットがあっさりと自分たちだけパラシュートで脱出したことや、自衛隊のヘリがパイロットだけを救出して被害にあった地元住民の救助には赴かなかったことなどは、当時から話題になっていましたが、そうした意識は、その後の補償問題でも露呈していたことがわかります。
亡くなった女性のかたも、賠償を求めて裁判を起こした方も、当局側と交渉が決裂すると、手のひらを返したようにいままで行なっていたささやかな補償すら手を抜くようになったいきさつがあったとわかります。

そういう人たちにも人の情はなくもないのでしょうが、立場というものが日本の社会で、そうした情を流してしまうのでしょう。昔なら「義理と人情」とでもいうのでしょうが、今の社会システムでは「義理」のレベルをこえて、ある意味「隷属」的になっているのかもしれません。そういう中で〈個〉を確立するのは難しいですね。