2011-05-01から1ヶ月間の記事一覧

長寿

熊倉功夫さんの『後水尾天皇』(中公文庫、2010年、初刊は1982年)です。 17世紀初頭、徳川幕府の権力が固まる時代に、天皇から院として宮廷に在位していた方です。徳川秀忠の娘の入内を受け入れ、生まれた姫宮(若宮もお生まれになったそうですが、早世され…

置き換え

河出の世界文学全集『短篇コレクション2』(2010年)から。 フランス作家、レーモン・クノーの「トロイの馬」(塩塚秀一郎訳)という作品があります。とあるバーで、男女が話をしていると、そこで飲んでいた馬が割り込んでくる。最初は迷惑がっていた男女に…

濫觴

坂崎紫瀾『汗血千里の駒』(岩波文庫、2010年)です。1893年に高知の『土陽新聞』に連載された作品です。 今までにも筑摩の明治文学全集などにも収録された作品ですが、文庫になったのは、テレビの影響なのはまちがいないところです。 こうした、「つづきも…

一足違い

先週の月曜日、探し物をしていたので、渋谷の東急本店のなかの書店に行きました。ここは、ネットで在庫の確認ができる店なので、珍しいものを探すときには重宝しているのです。 そのとき、何の気なしに棚を見ていたら、恒文社から出ている、〈クリスタ・ヴォ…

軌跡

『三菱もうひとつの素顔』(日本共産党三菱長崎造船所委員会、2009年)です。 三菱長崎の歴史を、日本共産党の立場から、企業の圧力に屈せずたたかった人たちの姿に焦点をあわせて記されています。 三菱長崎は労働組合が、労資協調の組合が分裂して結成され…

その気にさせる

小林信彦さんの『映画が目にしみる』増補完全版(文春文庫、2010年)です。 小林さんの文章を読んでいると、なんだか自分もいっぱしに〈語れる〉ように思えてしまう、という感じをむかしからもっています。映画にしても、コメディアンにしても、自分が観たも…

動かない

『前田新詩集』(土曜美術社出版販売、2010年)です。 会津在住の詩人、前田新さんの、いままでの業績をコンパクトにまとめた、〈新・日本現代詩文庫〉のシリーズのなかの1冊です。 会津という、ある意味では近代日本のマイナスを背負ったような地域に生まれ…

原文

うちの連れ合いが、最近韓流ドラマにはまっていて、ケーブルのオンデマンドで、手当たり次第に購入して観ているのですが、その中に、「宮」というドラマがありました。 これは、韓国に王室が存在していたらという仮定でつくられた作品で、主人公が高校生なの…

お国ぶり

アルベルト・モラヴィア『いやいやながらの"参加"』(大久保昭男訳、三省堂、1984年、原本は1980年)です。 モラヴィアの社会問題を考えたエッセイを集成したものです。彼は、たとえば『ウニタ』には書かない、なぜならどの政党にも属さないからだ、と明言し…

所在不明

パブロ・ネルーダ『二〇〇〇年』(吉田加南子訳、未知谷、2010年)です。 1973年、アルゼンチンの出版社の人に、作者自ら原稿を渡し、死後出版されたという作品だそうです。 かつて『ネルーダ最後の詩集』というタイトルで出ていたニクソンをはじめとするア…

夜中

ドイツの作家、ボルヒェルト(1921-1947)の『たんぽぽ』(鈴木芳子訳、未知谷、2010年)です。 ハインリヒ・ベルと同様に、戦後のドイツ文学を担うと期待されていたのですが、戦後まもなく亡くなったということです。 その彼の残した作品ですが、戦争がドイ…

混沌

ロシアの作家、ピリニャーク(1894-1938)の『機械と狼』(川端香男里、工藤正広訳、未知谷、2010年、原本は1925年)です。 ピリニャークといえば、宮本百合子の小説『道標』のなかで、日本の女性作家、佐々伸子をお姫様だっこした「ポリニャーク」のモデル…

見えないもの

兵藤裕己さんの『琵琶法師』(岩波新書、2009年)です。 平家の物語を語る琵琶法師集団の流れを追ったもので、足利将軍家の保護の下に、『平家』を源氏の興隆につながる話として、将軍家の正統性を語るものにしていったのだというのです。 そうした、一つの…

そんなに変わらない

坂本勉さんの『ペルシア絨毯の道』(山川出版社、2003年)です。 輸出産業としてのじゅうたんのありようを、送り出す側、受け入れる側、とそれぞれの立場からさぐったものです。 じゅうたんには、イラン風とトルコ風と、織りかたにちがいがあって、それぞれ…

それもあったか

川村湊さんの『福島原発人災記』(現代書館)です。 原発を推進してきた人たちが、どんな人で、どういうことを発言しているのかを、ネット上から拾い上げてきたものです。原発推進派の人たちが何をしているのかがわかって、なるほどと思わせるものがあります…

上を向く

川北稔さんの『イギリス近代史講義』(講談社現代新書、2010年)です。 世界システム論にたつ川北さんは、イギリスの産業革命のおこりを、消費の拡大からみます。自己資本で工場をはじめた人たちが、今まで家内労働にしばられていた女性や子どもを雇用し始め…

島々や

リービ英雄さんの『我的日本語』(筑摩選書、2010年)です。 リービさんの日本語経験を、小説、英訳『万葉集』のためのもの、中国訪問などのトピックを軸にひろがりをもって記述しています。 その中でも圧巻なのが、2001年の9月、カナダ経由でアメリカ入りし…