2012-11-01から1ヶ月間の記事一覧

その前夜

『戦場のエロイカ・シンフォニー』(ドナルド・キーン、小池政行著、藤原書店、2011年)です。 お二方の対談というか、キーンさんへのインタビューというか、戦時中のキーンさんの体験を軸にして、いまの日本につながる話をしています。対話自体は2010年にお…

冷静さ

日本思想大系の『水戸学』(1973年)です。 会沢正志斎の「新論」だとか、藤田東湖の「弘道館記述義」とか、いわゆる尊王思想の権化ともおもわれる水戸の学問なのですが、それでもこれだけまとまって収録されていると、思想の変化もみられます。とくに、会沢…

遅ればせながら

外間守善さんが亡くなられたそうです。 「おもろさうし」の校訂など、沖縄の文学を身近なものにしてくださったという業績は、得がたいものがあったように思います。 読みにくいものを読めるようにして、普及することをおろそかにしてはいけません。日本文学…

縛り

岡田宜紀さんの『司馬遷の妻』(民主文学館)です。 岡田さんは京都で長く教員をやっていたそうで、学校を舞台にした作品も多いようです。 けれども、この短編集で印象に残るのは、京都郊外の岩倉に残っていた乳きょうだいの風習にかかわった、「乳兄妹」で…

地中から

岸俊男『宮都と木簡』(吉川弘文館、1977年)です。 著者の小論考を集めたものですが、1960年代からの開発の中で、遺跡をどう考えていくかという視点が、大きく貫かれています。 いまでこそ、平城宮址は史跡として扱われているのですが、そこも、国道のバイ…

同い年

四方田犬彦さんの『李香蘭と原節子』(岩波現代文庫、2011年、親本は2000年)です。 戦前からの映画界で活躍した同年(1920年生まれ)の二人に焦点をあてて、当時の映画事情を考えています。 西洋に対してある種の劣等感を抱いていた日本が、東アジアに対し…

パートナー

山中光一さんの『ある現代史』、秋元有子さんの『ときにありて』(いずれも本の泉社)です。 山中さんの本は時代を大きく眺めながら、その中でのおのれの生き方をとらえるものになっています。 秋元さんは、小説じたてで、みずからが国会議員として活動して…

多様な論議

明治文学全集(筑摩書房)の『山路愛山集』(1965年)です。 愛山は一時期は社会主義に接近しましたが、平民社には反対し、国家社会主義と自称するようになるのですが、そこにいたるまでの過程にはけっこうおもしろいものがあるようです。 ここに収録された…

モデル

河上肇『祖国を顧みて』(岩波文庫、2002年、親本は1915年)です。 河上は留学のために1913年から渡欧し、第一次大戦がはじまったときドイツにいて、ぎりぎりのところでドイツを脱出するという経験をしています。 交戦国になる瞬間の記録であるとか、開戦時…

変えるために

『コレクション戦争と文学』(集英社)の、〈オキュパイドジャパン〉の巻です。 占領下のさまざまな事象が作品化されているのですが、読めば読むほど、これは沖縄の〈いま〉ではないかと思うような感じです。たまたま本土は〈独立〉をはたしたかっこうではあ…

飛び石作戦

きのうの『ためしてガッテン』で、プチ断食の話題が出ていたのですが、そのなかで、戦時中にアメリカで行われた実験の話がありました。 兵士に、一日二食(とはいえ1750キロカロリーだそうですが)にして、運動などは普通以上にやらせると、半年後には心臓の…

みんなそろって

今月の文芸4誌、みな丸谷才一の追悼文が載っています。池澤夏樹さんが大活躍。 ただ、一緒に歌仙を巻いていた大岡信さんの文章がどこにもありません。岡野弘彦さんが書いているところによれば、病気をされていて、文学活動どころではないような感じです。 丸…

客観的に

原武史さんの『団地の空間政治学』(NHKブックス)です。 この前、原さんの『レッドアローとスターハウス』について触れましたが、そこでは書かれていない、西武沿線以外での団地のありようを中心にしています。そのため、鉄道の話と言えば、常盤平団地がで…

都びと

高橋昌明さんの『清盛以前』(平凡社ライブラリー、2011年)です。 大河の清盛は視聴率が悪いとばかり評判だそうですが、なじみのない時代を描けばそうなるのはやむをえないのですから、それは覚悟の上だったのではないでしょうか。 それはそれとして、清盛…