2007-07-01から1ヶ月間の記事一覧

記憶として

小田実さん、逝去。 「九条の会」の呼びかけ人としての業績には、感動しています。 作家としては、あまり真剣に読んだ事がないので、あまりコメントはできないのですが、『すばる』に連載中の「河」は、主人公をまだ性的に未成熟な男の子に設定したことで、…

脱出

昨日の、「ストップ貧困」のことですが、どうしても貧困状態が続く限り、どこかに脱出の道を探らなくてはなりません。その点で、参考になるかと思うのが、石川達三の『蒼氓』三部作(新潮文庫旧版、1951年)でしょうか。 時は1930年、あたかも普通選挙で(男…

ここがロドスだ

『若者の労働と生活世界』(本田由紀編・大月書店)です。 現代の若者が置かれている状況をフィールドワークして、その実態を検証しようとしているものです。コンビニの「店長」、介護の現場、「進路支援」となっている中等教育の進路指導、大学生の「就活」…

北の果て

八木義徳『摩周湖・海豹』(旺文社文庫、1975年)です。 戦時中の芥川賞が、植民地や戦争とかかわった作品をけっこう受賞させていることは、荒俣宏さんの『決戦下のユートピア』(文藝春秋、1996年)でも言及されていたような記憶がありますが、八木さんの芥…

影響力

日付は変わってしまいましたが、昨日は芥川の80周年の日なので、関口安義さんの『世界文学としての芥川龍之介』(新日本出版社)です。 関口さんは、10年ほど前の『特派員 芥川龍之介』(毎日新聞社、1997年)あたりから、積極的に芥川の社会性を追求してい…

それにしても

中村智子さんの、宮本百合子の経歴についての疑問のことに関して。 もともとのおこりは、前の記事に追記したように、百合子の「自筆年譜」に1931年に共産党に入党したという記述が、最初はなかったことからきているのです。 1948年だかに、臼井吉見編という…

入門と概説

『19世紀ロシアの作家と社会』(ヒングリー著、川端香男里訳、中公文庫、1984年、原著は1977年第2版)です。 プーシキンからチェーホフまでの時代(1825年から1904年としています)のロシアについての概説書です。ロシア文学の作品論というよりも、そこに描…

とらえなおそう

宮本顕治さん、死去。 小林多喜二たちとともに、プロレタリア文学運動にたずさわり、弾圧の中、いわゆる「地下活動」をして、別の名前で評論などを書いていました。 検挙された後は、公判以前は黙秘をつらぬき、そのあとも、妻の宮本百合子にあてた手紙で、…

守るべきもの

高田衛さんの『滝沢馬琴』(ミネルヴァ書房、2006年)です。 実は今年は、『椿説弓張月』の前編刊行からちょうど200年という節目の年にあたっています。高田さんの本は、馬琴の生涯を追いながら、彼が『八犬伝』をはじめとする作品のなかで描こうとしたもの…

証言

なかむらみのるさんの『郵便屋さん』(新日本出版社)です。なかむらさんは、前にここで紹介しましたが、長年郵便屋さんをつとめながら小説を書いているのです。この本は掌編小説集で、民営化を控えた郵政の実態を描いています。民営化論議の中で、現場の声は…

勧善懲悪

中国古典文学大系の『平妖伝』(太田辰夫訳、1967年)です。 この本は、17世紀初頭に、それ以前に流通していた20回本を、馮夢龍が増補して40回の作品に仕立て上げたものです。宋の時代の実在した反乱を題材にして、それが実は妖術使いたちの力によってなしと…

複雑さ

『アメリカ黒人の解放と文学』(新日本選書、1979年)です。 池上日出夫さんをはじめ、アメリカ文学研究者の方たちが、アメリカ黒人文学の状況を研究したものをまとめた論文集のようなものです。 ちょうど、読書会で『ロリータ』をやったもので、1950年ころ…

戻っていく場所

辻井喬さんの書き下ろし長編、『萱刈』(新潮社)です。 「城」と呼ばれるなぞの権力者のもとにある萱刈村。そこでは萱を「城」を通して売りさばき、その利益の多くを「城」に納めていたのです。しかし、村と「城」との間に対立が生じたのか、主人公が村を出…

つながり

水野昌雄さんの『現代短歌の批評と現実』(青磁社、1980年)を古本屋でみつけて、読んでいたら、アララギ派のある歌人についての文章がありました。 その人は、わたしの通っていた高校の先生だった方で、当時から歌人であることが生徒たちにも知られていまし…

七十年

やはり、きょうは、盧溝橋事件の日ですから、その話などを。 柳条湖のときとはちがって、現地では偶発的な事件として処理する方向にむかっていたのに、東京がこれを機に一気に中国をたたこうとしたというところが、この事件の本質的なところなのだと思います…

わき目もふらず

佐藤弘夫さんの『起請文の精神史』(講談社選書メチエ、2006年)です。佐藤さんの本は、たしか昨年『神国日本』(ちくま新書)をここで紹介した覚えがありますが、この本では、起請文に勧請された神仏のリストをながめることで、中世びとの感覚世界をさぐっ…

それでも季節は

山田郁子さんの『疎開家族』(ケイ・アイ・メディア)です。戦時中に父親の故郷、熊本に疎開した大阪育ちの主人公の視点から、戦中戦後の状況を描いた小説です。1932年生まれの作者と、主人公は等身大で、疎開した昭和19年には国民学校の6年生で、そこで女…

偽国

山口猛さんの『幻のキネマ満映』(平凡社ライブラリー、2006年、親本は1989年)です。「満洲国」の国策会社であり、現地の人びとに映画を見せることを目的とした会社、満映を追ったドキュメントです。当時「満系」と呼ばれた中国の人たちに映画を見せるとい…

海のむこう

ヴァージニア・ウルフ『灯台へ』(御輿哲也訳、岩波文庫、2004年、原著は1927年)です。 スコットランドの別荘地での10年を隔てたできごとを書いています。灯台に行くことがかなわなかった10年前と、灯台に向かいつつある今と。しかしその間には、母親の死や…