2006-01-01から1年間の記事一覧

ホールデンとドロレス

タイトルどおり、ナボコフの「ロリータ」(若島正訳、新潮文庫)です。 ナボコフ作品は、「一ダース」をむかし読んだことがあるのですが、それ以来ということになります。1940年代後半のアメリカが描かれているわけで、そういう点では、当時の青少年の生態と…

速報的な感想として

文学フリマをめざして発行していた、日本民主主義文学会の代々木支部の雑誌、『クラルテ』が出ました。(発行責任者は北村隆志さん、kitamura@a.email.ne.jpです) 北村さんをはじめとして、浅尾大輔さんや紙屋高雪さん、特別寄稿として旭爪あかねさんなど、…

論理と感情と

杉浦明平の『暗い夜の記念に』(風媒社、1997年)です。 この本は、杉浦の戦時戦後の文章を集めて、1950年に自費出版したものの再刊本で、著者のあとがき、いくつかの注釈と、玉井五一による解説をつけたものです。彼は、立原道造と大学時代に同人誌をやって…

へりを回る

平野謙の『わが戦後文学史』(講談社、1969年)です。 タイトルから予測して、「党生活者」をめぐってのいわゆる〈論争〉などのはなしや、雑誌『近代文学』と『新日本文学』とのかかわりなどについての回想かと思ったら、そういう趣旨の話は最初のほうだけで…

紹介と論評

坪内祐三さんの『「近代日本文学」の誕生』(PHP新書)です。 『文学界』の巻末に、〈吾八〉という匿名で書いていたコラムの集積で、初めて本になって、坪内さんの著作であることが判明しました。 コラムですから、その号のちょうど100年前に何が起きたか…

格差の時代

前回の続きで、『モダニズムのニッポン』ですが、組み合わせる本は、岩瀬彰さんの、『「月給百円」サラリーマン』(講談社現代新書)です。 『モダニズム…』のほうが、いわば時代の最先端を取り扱っているのに対して、岩瀬さんのほうは、その前提となる、昭…

思い込みとは

橋爪紳也さんの『モダニズムのニッポン』(角川選書)です。 1920年代からアジア太平洋戦争がはじまるくらいまでの、いろいろなチラシやパンフレットなどを題材にして、当時の先端的な生活実態をあきらかにしようとしたエッセイ集です。 この本はなかなか考…

経験と構想

能島龍三さんの『分水嶺』(光陽出版社)が出ました。著者の最近の短編をあつめたものです。能島さんは、あの戦争が人間に与えた影響をいろいろな形の作品として追求している作家ですが、この作品集でも、そうした意欲が見られます。 自分の体験をベースにし…

刷り込みのこわさ

松木新さんの『アイヌを描いた文学』が刊行されました。札幌の文友社出版というところ(リンクなどは最後に載せます)から、ブックレットのようなサイズで出た小冊子です。 松木さんは、以前からアイヌ問題を描いた作品についての考察をしてきたのですが、こ…

勝ち負け・つづき

選挙といえば、小林多喜二の「東倶知安行」という作品があります。1928年の普通選挙(といっても男子だけですが)に北海道1区(札幌・小樽とその周辺)から立候補した労働農民党の山本懸蔵候補(作中では島田になっています)を応援した主人公(作者の反映…

勝ち負け

持ち越しになっていた、エンゲルスの手紙のことです。 例の、「バルザックは王党派」どうのこうのというやつですが、あそこの重点は、歴史の流れのなかで退場していく階級ということを、作者(バルザック)も感づいていたのではないでしょうか。 変なたとえ…

残酷ではあるだろうが

李箕永という朝鮮の作家の1948年に刊行された小説を日本語で訳して、1951年に出版した『蘇える大地』(金達寿・朴元俊訳、ナウカ社)を見つけました。 あの国の文学といえば、かつては〈世界革命文学選〉などに、黄健の『ケマ高原』が収められたりしたもので…

ぶつかりあいのなかで

『文学全集を立ちあげる』(文藝春秋)です。丸谷才一、三浦雅士、鹿島茂の鼎談で、世界文学全集と日本文学全集を企画するという、ある意味「遊び」(別に悪い意味じゃなく)の企画です。 つっこみのいれどころはもちろんたくさんあって、なんで魯迅がないの…

原点を知る

岩間正男さんの歌集『風雪のなか』(新日本出版社、1978年)です。 岩間さんは北原白秋門下の歌人で、白秋の死の前後に歌誌『多磨』の編集にも携わっていたとのことです。 戦後、教員組合の運動に参加し、その中で参議院議員となり、1977年に引退するまで、…

多様性のあること

清水美知子という方の、『〈女中〉イメージの家庭文化史』(世界思想社、2004年)です。 いわゆる女中というものが、どのような社会的なイメージをもっていて、どのような扱われ方をしていたのかを当時の文献からさぐっていった本です。家事労働が、そうした…

沽券にかかわる

今ごろ文芸雑誌というのもなんですが、『新潮』11月号の佐川光晴「二月」のこと。 北海道の大学で学生運動をやっている主人公が、与那国島にサトウキビ収穫のバイトに出かけていく話。寮の自治会の運動で、主人公の仲間で委員長をやっていた男がみずから命を…

お礼など

調子が悪かったPCが直りました。実際にはモデムの不調で、たいしたことはなかったのですが、結局は契約先のサービスセンターに、休日の深夜に連絡してアドバイスしてもらったのです。 24時間態勢でトラブルに対応するというのは、ユーザーの側からしてみれば…

平和を維持する

藤木久志さんの『刀狩り』(岩波新書、2005年)です。 秀吉の刀狩りの実態を研究して、江戸時代の農村にどの程度の〈武器〉があったかを実証しています。すると、秀吉によって農民が武装解除されたというのは後世の思い込みであって、実際にはたくさんの鉄砲を…

文字の印象

『現代日本文学論争史』の中巻までいきました。 芸術的価値の問題や、社会主義リアリズム受容の問題など、けっこう当時の問題で注目すべきものもあって、そういう意味では考えさせるものもあるのですが、少し本筋からはずれるかもしれませんが、気になったこ…

権威は認めますけれど

ノーベル文学賞はオルハン・パムクさんだそうです。 彼の『雪』に関しては、以前にここで言及したことがありました。あまりおもしろくなかったというようなことを書いた覚えがあります。 それは別に感想として改める必要はないと思うので、それはそれとして…

今の立ち位置は

また箸休め的なものですが、『文藝』冬号の綿矢りさ「夢を与える」です。 フランス人の父と日本人の母をもつ、夕子さんが、幼稚園のころにチーズ会社のコマーシャルに出演することになります。会社側としては、ひとりの少女の成長を追うことで、チーズが長く…

トラブル

金曜日の深夜から、PCの接続が変なので、自宅からの書き込みができません。この文章はケータイから入れています。じっくりしたものは、ネットカフェみたいなところでないとだめかもしれません。

東と西

『現代日本文学論争史』は長いので、上巻と中巻の間に、はしやすめのような感じで、松本徹さんの『夢幻往来』(人文書院、1987年)を読みました。松本さんは『文学界』の同人雑誌評を長くやっている方です。 大阪育ちの松本さんが、関西の古典文学にまつわる…

感受性とは

未来社からの〈書物復権〉企画の、『現代日本文学論争史』を読み始めています。論文の集積の本なので、統一したテーマがあるわけでもないし、全3冊という厚さなので、紹介はしづらいのですが、最初のほうの、有島武郎と広津和郎との、「宣言一つ」をめぐって…

自己責任

藤本武さんの『アメリカ貧困史』(新日本新書、1998年)と、橘木俊詔さんの『格差社会』(岩波新書)とをたてつづけに読みました。橘木さんの論に関しては、以前『アメリカ型不安社会でいいのか』をここで紹介したことがあるので、再論はしませんが、藤本さんの…

声は届くのか

宮城肇(みやしろ はじめ)さんの、『さまよえる子ら』(光陽出版社)です。 宮城さんは、長く中学校の教師を勤めながら、小説を書いている方で、この作品集は、『民主文学』に掲載された作品のほかに、文学教室で書いたものなども収録されています。 描かれてい…

碩鼠碩鼠

『満州 楽土に消ゆ』(神奈川新聞社、2005年、ISBN4876453667)です。 山形県出身の少年が、満蒙開拓義勇軍に志願して、開拓地に行き、そこで召集されて憲兵になり、終戦のときに、高官や家族を引き揚げさせる列車の警備役として日本に帰還し、定年後に、「中…

丁種不合格

先日の記事は少し単純に言い過ぎてはいると思います。エンゲルスの手紙についてはもう少しお待ちください。前回からの引き続きで、やはり〈日本近代詩人選〉のシリーズから、宇佐美斉さんの『立原道造』(1982年)を読みました。あわせて、中村真一郎さんの『…

議論のとっかかり

多喜二の特集のなかの、祖父江昭二さんの「小林多喜二と社会主義」という文章や、北川透さんの『中野重治』(近代日本詩人選、筑摩書房、1981年)を読んでいて、マルクスやエンゲルスの文学に関する言及に対して、どう考えればいいのかについて、少し頭をつか…

微妙な差異

『昭和大相撲騒動記』(大山真人、平凡社新書)です。 著者は相撲を専門に追求しているわけではなくて、自分の出身の山形県からでた、昭和初期の関脇力士の出羽ヶ嶽について書いたことが、この本につながったようです。 本の内容は、1932年におきた力士の争議…