2006-08-01から1ヶ月間の記事一覧

今月の裏時評

とはいっても、島本理生は書いてしまったので、今回はそんなに足して語るほどのものはないのです。 強いて言うなら、『すばる』の青野聰「海亀に乗った闘牛師」くらいでしょうか。こうした異界にはいりこむ話は、カフカの「城」ではありませんが、元の世界に…

恫喝と強制

森与志男さんの『普通の人』(新日本出版社)です。 2003年4月から2005年3月までの2年間を舞台に、東京都立の高校での主人公たちの生活を追った作品です。主人公は50代なかばの男性教師で、妻をなくしてからずっと、独身を通して子育てをしてきたのですが、そ…

気持ちもわからないではないが

本の話とは直接いえないかもしれませんが。 教学社という出版社があります。といっても、名前だけではなじみがないかもしれませんが、「赤本」を出しているといえば、わかる人もいるかもしれません。大学入試の過去問を出版しているところです。 来年の受験…

選択を迫る

橘木俊詔さんの『アメリカ型不安社会でいいのか』(朝日選書)です。 彼は、日本はどちらかというと共生をめざすヨーロッパ型の社会のほうがいいのではという意識をもって、その点からの今後の改革案を提示しています。 格差社会の存在が公然と肯定される状態…

見巧者ということ

木津川計さんの、『上方芸能と文化』(NHKライブラリー)です。 大阪の芸能を長年みてきた木津川さんならではの、日本の芸能文化の分析だと思います。 そのなかで、〈一輪文化〉と〈草の根文化〉ということばを使って、その両立を説いているところがあります。…

熱狂のこわさ

長い作品を読んでいました。ドライサーの『アメリカの悲劇』(大久保康雄訳、新潮文庫、1978年)です。上下巻で合計1300ページくらいです。 工場に勤めるクライドという若者が、恋仲になって、自分の子をみごもった女性を亡き者にしようとして、湖に出かけるの…

党と国家

ここでは、本の紹介以外のことはしたくなかったのだけど、少し。 小泉純一郎さんが、靖国神社に行ったとか。 「公約」だと本人は言っているけれど、誰に対しての公約かというと、自民党総裁選挙の公約なのだから、自民党員に対するものであって、日本国民に…

仁義とモラル

正岡子規の『水戸紀行』(筑波書林、1979年)です。 この出版社は、土浦市にあって、茨城にまつわるいろいろな本を、〈ふるさと文庫〉の名称で出しています。徳永直の『輜重隊よ前へ』という消費組合をあつかったルポも、ここから出ています。 さて、子規は、…

回想の記述

尾崎ふささんが亡くなったという記事が出ていました。 この前、宮本百合子の会(今月の『民主文学』に記録が載っています)のときに、婦人民主クラブ(再建)のかたが出店を出していたのですが、そこで、婦民の青森支部が編集した、尾崎さんの宮本百合子に関する…

殺意

今月の文芸誌は、なかなか焦点を定めにくいのですが、まずは、『新潮』の島本理生の「クロコダイルの午睡」です。 大学生の女性が、仲良くなった彼女もちの男の子(こちらも学生)に対して、殺意を抱いて彼がそばアレルギーだったので、お茶のなかに蕎麦湯をま…

あえて伝えようとして

田口ランディ『被爆のマリア』(文藝春秋)です。 せっかく広島にいくのだからと思って、行きの新幹線の中で読んでいたのですが、今の時代に戦争というものを、若い世代の立場に立って書こうとしたものです。主人公は、結婚式をあげる女性だったり、学校行事で…

1938年の熱狂

林芙美子の『戦線』(中公文庫)です。 1938年の武漢攻略作戦に参加した彼女が、朝日新聞と協力して発表した記録文学です。もちろん、時流に乗った作品ですから、なぜこの戦争が起きているのかについての感想なぞありません。戦場の兵士たちをたたえる、ある…

ばさら

アクセス解析をすると、ナツ100関係が多いようで、ありがとうございます。それに関しては別ブログ(〈ひとりごと〉のほうです)をご覧下さい。広島でも更新できる環境が手に入りましたので、少しは、と思います。さて、桜井好朗『空より参らむ』(人文書…

回避すること、できないこと

近所の古本屋で、『栃木県近代文学アルバム』(随想舎)という本を見つけました。2000年に出たものです。最初が、江口渙の原稿をカラー写真にしたものが口絵になっています。芥川の手紙をめぐる文章のようです。 そういうことからもわかるように、栃木県ゆかり…