2008-11-01から1ヶ月間の記事一覧

多面的に

纐纈厚さんの『日本海軍の終戦工作』(中公新書、1996年)です。 海軍内部の史料を使って、海軍首脳の考え方をさぐっていて、決して海軍が平和勢力とはいえなかったことを明らかにしています。 実際、この間いろいろと読んでいると、たとえば小田実さんの『…

伝統

どこの新聞で読んだのかはっきりしないのですが、神奈川県大磯町で毎年1月14日の夜から翌朝にかけておこなわれていた左義長の行事が、今度から土曜日に変更になるということだそうです。 以前は、1月15日が「成人の日」ということで、祝日として固定されてい…

見ていたけれど

26日付の『しんぶん赤旗』に山田和夫さんの文章が載っていました。 この間、小林多喜二と「戦艦ポチョムキン」とのかかわりについて書いて、いろいろな方からおしえていただきましたが、山田さんの文章で、蔵原惟人が『キネマ旬報』に書いているということが…

きちんと見る

杉田聡さんの『AV神話』(大月書店)です。 アダルトビデオのなかにある、女性をおとしめるさまざまな「しかけ」について検証しているのですが、その中で、レイプ映像を主に撮っている監督の作品を、「表現の自由」の面から「評価」している知識人がいると、…

継続

川村湊さんの『文芸時評1993-2007』(水声社)です。 『毎日新聞』に掲載された時評をあつめたものです。 文芸時評なるもの、最近はとんと不人気で、各紙誌とも、だんだんと扱いが軽くなっているように思えます。とはいっても、こうして、長期間の時評が集ま…

自分であること

冨原真弓さんの『ムーミン谷のひみつ』(ちくま文庫、親本は1995年だが増補がある)です。 ムーミンのシリーズに登場する、いろいろな「もの」(「人物」とはいえませんよね)についての考察をまとめています。原作を読んだのは子どもの頃ですが、けっこう覚…

育ち

坪内祐三さんの『東京』(太田出版)です。 1958年東京生まれ(といっても、渋谷区本町というから、第二国立劇場の近くですね)で、東京育ち(東急世田谷線の松原のあたりだそうです)の坪内さんの、成育歴と活動歴のなかの、東京のいろいろな場所を紹介した…

雨の降らない品川駅

李恢成さんの『地上生活者 第3部』(講談社)です。 長編の一部分ではあるのですが、主人公が大学時代、「帰国運動」にかかわっていたときのことを書いています。また、「伽倻子のために」の素材となった事件についてもふれている作品です。 今の時点から見…

ぜいたく

『1995年 未了の問題圏』(大月書店)です。 中西新太郎さんと、雨宮処凛・中島岳志・湯浅誠・栗田隆子・杉田俊介のみなさんとの、連続対論というかたちで、1995年あたりから現代に続く問題点をさぐっています。 それぞれの論者自身が、このテーマで1冊の本…

頭をひやそう

しつこいようですが、水村美苗さんの『日本語が亡びるとき』です。 ふっと、ISBNコードをみると、978-4-480-81496-8となっています。ご存知の方も多いでしょうが、最初の978は、書籍をあらわす番号で、次の4が日本で刊行されたこと、その次の480は筑摩書房の…

老舗

村田喜代子さんの『八つの小鍋』(文春文庫、2007年、文庫編集オリジナル)です。 作品自体は、いろいろな本に既に収められていますし、村田さんらしく、虚実のあわいに遊ぶというていのものですから、それはいいのですが、文春文庫という媒体が、こうした作…

立場

『蟹工船』が映画化されるそうです。 ただ、映画というメディアの特性から、〈主演〉として、労働者を立ち上がらせる役目の人物に名前を与えて中心的存在にすえるというのです。 マンガ版でも、いくつかのものでは、やはりそうした中心的な人物を仮構してい…

言うのは勝手だ

水村美苗さんの『日本語が亡びるとき』(筑摩書房)が評判らしいですね。 『新潮』で出たときに少し書いた記憶がありますが、今回、少し流し読みして、感じたのですが、はっきりいって、彼女の日本語の知識は付け焼刃ですね。 何せ、「五箇条のご誓文」が、…

火を消す

ロシアの潜水艦で、消火装置が誤作動して、多くの人か亡くなったとか。 ときどき資料をさがしに、出身大学の図書館に行くのですが(卒業生用の入館カードを持っているので)、そこの研究書庫には、「火災の時には、ハロゲン化合物を噴射するので、すぐに退避…

緊張関係

ブルガーコフ『巨匠とマルガリータ』(水野忠夫訳、河出書房新社、翻訳原本は作者没後の1973年版)です。 作者は、この作品を生前発表することができなかったというのです。書いたものが、「ソビエト的」ではなかったというので、晩年は演劇関係のしごとをし…

今になって

文芸誌を適当にみているのですが、『文学界』では、〈同人雑誌評〉が今回で終わるというので、担当者の座談会があります。担当だったうちの一人、勝又浩さんが、今後は、『三田文学』で同人誌評のコーナーが残るので、そこで続けるということを語っています。…

黄色の波

リービ英雄さんの『延安』(岩波書店)です。 延安を訪れた文学者といえば、かつて野上弥生子さんが、『私の中国旅行』(岩波新書、1959年)に書いたものがありましたが、21世紀の延安を、英語・日本語・北京語・現地語のさまざまなことばの混じりあいのなか…

名づけ

この前、「さすらいびとのフーガ」で、登場する朝鮮民族の親子が、名に一字を共有していることに関して、漢族ではありえないことなので、朝鮮ではどうなのかと考えていたのですが、小田実さんの『河』(集英社)のなかで、上海で主人公の出会う朝鮮人の親子…

外に出る

雨宮処凛さんの『悪の枢軸を訪ねて』(幻冬舎文庫、2004年、親本は2003年)です。 雨宮さんの、1999年から2002年にかけての5回の訪朝と、1999年にイラクを訪れたときの記録です。 当時のそれぞれの国の事情がよくわかるものなのですが、実は、一番印象に残る…