2017-01-01から1ヶ月間の記事一覧

よくぞ残った

三浦佑之さんの『風土記の世界』(岩波新書、2016年)です。 著者は、風土記は『日本書』の地理志的な意図をもって各国に作成させたという立場に立っているようです。本来、正史としての体裁を整えるべき『日本書』の本紀部分が現行の『日本書紀』にあたり、…

知的であること

阿川弘之『春の城』(新潮文庫、1970年改版、親本は1952年)です。 大学で国文学を学んだ広島出身の主人公が、卒業後海軍に配属され、暗号解読の任務に就きます。本人は戦争末期に中国に派遣されるので、無事復員できたのですが、父親やは被爆しますし、同期…

プライド

木下順二『巨匠』(福武書店、1991年)です。 ポーランドのドラマをきっかけにして書かれた戯曲です。1944年、ワルシャワ蜂起のあとで、ドイツは残党狩りをおこなっています。登場人物たちが避難している学校に、ゲシュタポが訪れ、〈知識人4人〉を銃殺する…

続かなかった

今年のセンター試験の小説は野上弥生子「秋の一日」でした。年譜によれば、1912年1月の『ホトトギス』に掲載されたものだそうです。 たぶん、作者の身辺に取材したものなのでしょうが、長男の素一さん(1910年1月生まれ)が、数え年2歳の秋のこととみれば、…

わくぐみ

木下彪『明治詩話』(岩波文庫、2015年、親本は1943年)です。 明治初期の漢詩隆盛の時代のありようを、当時の詩を多く紹介しながら述べたもので、いわゆる〈近代文学〉のわくからこぼれ落ちた時期の発掘ともいうべきものです。 その中で、文明開化にともな…

月にかわって

『児女英雄伝』(立間祥介訳、平凡社中国古典文学大系、1971年)です。 19世紀半ばごろの作品なのだそうですが、女性ながらに武芸の名手が、危機に陥った名家の息子を助け、その後その男性と結ばれると内助の功を尽くして、彼は科挙に合格して、一家が栄える…