2010-01-01から1年間の記事一覧

裏を返せば

近鉄飛鳥駅のところに、レンタサイクルの店があります。店によっては橿原神宮前駅の営業所に〈乗り捨て〉もできます。 飛鳥のあたりには、自転車に乗っている人もみかけるのですが、飛鳥寺から北に向かい、雷丘のふもとから天香具山をめざすと、観光の人はほ…

不在

『坂の上の雲』のドラマ、9回まで終わりました。 結局、第2部には漱石は出てきません。子規亡き後、戦争を相対化してみる人はでてこないのでしょうか。 第1部では、松山に帰省した真之と、当時松山に赴任していた漱石とが出会う場面があります。たしか、原作…

汚れた握手

川崎浹『ソ連の地下文学』(朝日選書、1976年)です。 ソビエト政権時代の言論への抑圧とそれに抗する地下出版の流れを記述したものですが、1960年代半ばが、一つの転機になっているように見えます。1964年には、ソルジェニーツィンの『イワン・デニーソヴィ…

脚色

水上勉の『古河力作の生涯』には、同時代のことを記すのに、年表を引用します。そこには、当然日露開戦前夜に、当時の有名な新聞であった『万朝報』が開戦論に転じたため、堺利彦・幸徳秋水・内村鑑三が退社し、堺と幸徳とは平民社を興したことが記されます…

地面の上で

水上勉『古河力作の生涯』(平凡社、1973年)です。 若狭出身で、大逆事件に連座して死刑に処せられた古河の生涯を、同郷の著者が追いかけたものです。今年が100年ということでもなかったら、ひょっとしたら手にしなかったかもしれませんが、平易な文章は、…

お説教

山下文男さんの『昭和の欠食児童』(本の泉社)です。 1930年代の東北地方の凶作と、それに対する報道のありかたについて検証しています。山形県の〈娘身売り〉写真に関しての誤解を正したり、東北本線の列車食堂車から〈残飯〉をもらう子どもたちの記事につ…

広くとる

来年、集英社が『戦争×文学』というアンソロジーを発刊するそうです。カタログによると、四六判、各巻640-840ページ、1段組で、全20巻、別巻1という構成になるようです。 短編中心になるのでしょうが、明治期から現代までの作品を収めるようです。6月の第1回…

この際だから

山田朗さんの『これだけは知っておきたい日露戦争の真実』(高文研)です。 この時期に出たことでもわかるように、『坂の上の雲』に描かれる日露戦争のありようを、軍事的な面での日本軍の成功と失敗という面からとらえています。 実際、日本人の歴史的な知…

非実在

東京都のマンガなどを規制する条例が可決の方向だということです。 以前の条例は、〈非実在青少年〉が規制対象だったのですが、今度は年齢制限が取り払われました。すると、法律で禁止されている性関係を描くと規制にひっかかる危険性がうまれます。 となる…

目をつける

青木文庫の社会思想シリーズ『森近運平・堺利彦集』(1955年)です。 二人の〈共著〉として刊行された(主執筆者は森近だそうです)『社会主義綱要』(1907年)を中心に、ほかの論考を収録しています。森近の社会主義理論への理解度はすぐれていて、ことばづ…

考えすぎ

『群像』1月号の、磯崎憲一郎の作品は、戦後日本の暗喩なのでしょうか。橋本治のような、きちんと歴史事実をふまえたものとはちがって、戦後の流れの中に、労働の変容を取り上げようとしたのでしょうが、なんだか中途半端で、これはどうかなと思いながら読ん…

にぎやか

オンデマンドで観た『坂の上の雲』第6回(地上波放送12月5日)です。 ロシアでの広瀬武夫の活躍がメインで、ドラマとしての演出でしょうが、帰国に当たっての歓送音楽会で『荒城の月』を演奏させるなど、いろいろと盛りだくさんという感覚はありました。真之…

ぐるっとまわって

『片山潜・田添鉄二集』(青木文庫、1955年)です。 当時青木文庫では、〈資料日本社会運動思想史〉というシリーズを企画していて、その中の1冊なのです。片山の『我社会主義』(1903年)、田添の『経済進化論』(1904年)『近世社会主義史』(1908年)の3つ…

終わりはない

山形暁子さんの『女たちの曠野』(新日本出版社)です。 1940年生まれで高校卒業して銀行に就職した女性の自己形成史と、1997年からの、銀行でのコース別人事が結果的に女性差別になっていることに対してたたかう女性たちの群像とを、交互に組み合わせた構成…

視線

佐多稲子『子供の眼』(角川小説新書、1955年)です。 この時代は新書版の小説が流行していて、角川だけでなく、岩波新書にも小説が収録されたり、河出書房も新書を出したりしていて、徳永直の『静かなる山々』も角川から出ています。 内容は、「子供の眼」…

集約

『日本文学当面の諸問題』(新日本文学会、1952年)です。 1952年3月に行われた新日本文学会の第6回大会の記録をまとめたものです。当時の新日本文学会は、『人民文学』に拠る人たちが、新日本文学会と対立していた頃でした。この大会の報告の中でも、意識的…

差益

生活瑣事ではありますが。 昨夜、この冬はじめて灯油を買いに行きました。いつも同じ24時間営業のセルフスタンドで買うのですが、灯油1リットルあたり80円、この3月に買ったときの72円より値上がりしています。 円高はどこにいったのでしょうね。

想像力

日本古典文学大系(岩波書店)の『狭衣物語』(三谷栄一、関根慶子校注、1965年)を、少しずつ進めています。なんとか物語の全体のわくぐみが見えてくるあたりまで来たような感じがしています。 主人公は、高貴な生まれです。祖父は帝、父は皇位につかなかっ…

愛情

ナボコフ『賜物』(沼野充義訳、河出版世界文学全集、原著は1937年から38年にかけて雑誌掲載、単行本は1952年)です。 大江健三郎さんの『さようなら、私の本よ』(講談社)で、タイトルの由来になった作品なのですが、ロシア語から直接訳されたのは、今回が…

文脈

森浩一さんの『倭人伝を読みなおす』(ちくま新書)です。 いわゆる魏志倭人伝を、最初から読み直してみようというこころみです。なにせ、倭人伝は、人それぞれにいろいろな読みが展開されているので、こうしたものもあっていいのでしょう。 三国志そのもの…

網の目

田中伸尚さんの『大逆事件』(岩波書店)です。 事件だけでなく、被告とされた人の家族のその後なども追っていて、〈事件〉から100年という時の流れの中で、変わらずに残っているいろいろな〈しばり〉についても考察しています。 特に、戦後行われた再審請求…

切り替え

たまたま、『ブラタモリ』の最後だけちょっと見たのですが、そこで、団地がでてきてタモリさんが、こんな趣旨のことをいっていました。『日本人は明治になって江戸の文化を全部捨ててしまった』 全部といっていいのかどうかとは思いますが、〈和魂洋才〉とい…

あてこみ

今月の岩波文庫の新刊のなかに、坂崎紫瀾の『汗血千里の駒』があります。 坂崎と聞いてもご存じない方もいらっしゃるでしょうが、大河の『龍馬伝』の最初で、功成り名遂げた岩崎弥太郎に、〈龍馬のことを聞きたい〉と接近した男が登場しますが、それが坂崎な…

反省

林博史さんの『シンガポール華僑粛清』(高文研、2007年)です。 1942年、日本軍はシンガポールを占領しましたが、そこで中国系住民を大量に裁判にもかけずに処刑したのです。その記録を追ったものです。 当時井伏鱒二が、軍に徴用されてシンガポールにいて…

引き際

ちょっと続きですが、古田武彦さんは、やはり稲荷山古墳の鉄剣の段階で、九州王朝説を再検討すべきだったと思います。その土地の実質的な支配権と、王権の問題を、きちんと歴史学の到達にたって検討すべきであって、そこを怠っておいて、歴史学からの応答が…

二倍

『図書』の11月号に、明治の始めごろに、日本の暦の研究した人の紹介が載っています(筆者は長島要一さん)。デンマークからやってきた電信の技術者で、日本の女性と結婚するなど日本文化への傾倒が深く、それがこうした研究につながったようなのです。 その…

すげかえ

山田美妙『あぎなるど』(中公文庫、1990年、初刊は1902年、親本は1942年)です。 山田美妙は、1880年代末、尾崎紅葉とともに硯友社の創立当時のメンバーとして新しい文学のために活躍、言文一致体、とくに〈です・ます〉調の文体を創出しました。『坂の上の…

復刻

島村輝さんのブログで、『人民文学』が復刻されて、不二出版から刊行されるという話を知りました。 この雑誌、なかなか読めなくて、駒場の近代文学館で以前そこに所蔵されていたものを読んだのですが、早稲田大学の図書館にはなくて、けっこう調べるのが大変…

縦と横

電子書籍の話です。 村上龍さんが、電子書籍の会社を立ち上げるというニュースをテレビで見ました。 紙の本よりも、持ち運びがしやすいし、たぶん閲覧(配信)料金も安いのかもしれません。 けれども、やはり気になるのは、配信元のデータが壊れたらどうする…

継続の意識

後藤致人さんの『内奏』(中公新書)です。 中公新書は、こうした実証史学的な近現代史ものを、けっこう出版していて、その点では岩波新書とはまたちがった味をだしているのですが、この本は、昭和天皇をめぐる政治史といったところに焦点があてられています…