2013-04-01から1ヶ月間の記事一覧

大きなものへ

新船海三郎さんの『不同調の音色』(本の泉社)です。著者の安岡章太郎論と、安岡氏へのインタビューで構成されています。 いわゆる〈第三の新人〉といわれる一群の作家たちは、戦争の時代をくぐりぬけて、そこで時代をつくりだしたものと立ち向かってきまし…

熱気

石母田正『続 歴史と民族の発見』(東京大学出版会、1953年)です。 1952年のメーデー事件のころの、著者の論文やエッセイを集めたものです。講和条約と安保条約が、日本を従属国にさせたという観点が、当時広く言われていたことがわかります。引用されてい…

いわしの頭も

宮田登『江戸のはやり神』(ちくま学芸文庫、1993年、親本は1972年)です。 江戸時代の、なんだかよくわからないようなものに、人びとが厄除けなどの信仰対象としていったという実例を収集して、その意味を考察しています。 日本には、絶対的な唯一神のよう…

流言蜚語

井形正寿さんの『「特高」経験者として伝えたいこと』(新日本出版社、2012年)です。 著者は、1945年のはじめころから、大阪で特高警察の一員として勤務し、終戦時に在籍していたために公職追放となったという経歴の持ち主で、そのことを語り部として伝えよ…

双方向

有島武郎『小さき者へ・星座』(角川文庫、1969年)です。 ここに収められた「星座」は、1900年ごろの札幌農学校を舞台に、そこに通う学生たちの群像を描いた作品です。 その中で、彼らの中の一人、北海道千歳出身の星野青年が英語を教えているおぬいさんと…

遠交近攻

井沢実(1897−1976)の『大航海時代夜話』(岩波書店、1977年)です。 著者は外交官で、長くスペイン語・ポルトガル語圏に勤務し、東西交渉の歴史を研究しました。1970年代に岩波書店が〈大航海時代叢書〉という、当時の史料の翻訳集成を企画したときの中心…

バブルのきざし

井上ひさし『黄金の騎士団』(講談社、2011年)です。 1988年から1989年にかけて書かれていたのですが、そのまま中断してしまった作品だということです。 養護施設に育ったこどもたちが、こどもたちのために買おうとした佐久地方のとちを、リゾート開発のた…

どうせなら

井上ひさしの『一週間』が新潮文庫になったようです。 この作品に関しては、前にも書いたと思いますが、北村隆志さんが、『季論21』に、実にていねいな論考を書いています。ひょっとしたら、文庫の解説でもいいのではないかと思っていたのですが、さすがにそ…

何でもいいのに

村上春樹さんの、長いタイトルの新作ですが、性的な衝動のもつ意味を少し過剰に表現してはいないかとも思うのですが、主人公の「巡礼」がメインだとしたら、別に鉄道会社に勤務させなくてもいいようにも思います。 もちろん、主人公がヘルシンキや新宿で、駅…

虚実のあわい

西村賢太さんが、『新潮』に、「歪んだ忌日」という作品を発表しています。例によって、〈北町貫多〉という作家を主人公にした作品で、彼が師とあおぐ藤澤清造の祥月命日の法要を、彼が文学賞を受賞してから周囲の思惑に振り回されて今までのように運営でき…

魔力

佐々木高明さんが亡くなられたとか。 『稲作以前』(NHKブックス)にみられるように、稲以外の穀物が、日本列島において重要さをもっていたことを論じた方として印象に残っています。 江戸幕府が石高制をとったように、コメの力は、あっというまに日本列島を…

橋をかける

大島裕史さん『魂の相克』(講談社、2012年)です。 在日コリアンの人たちの、スポーツ分野での活躍を取材したドキュメントです。 韓国のオリンピック出場は、1948年のサンモリッツ冬季五輪からだというのです。日本は当時、敗戦国ということで、オリンピッ…

でも足りない

『序説 転換期の文学』(森山重雄、三一書房、1974年)です。 著者(1914-2000)は都立大学の教授をつとめた人のようです。この本では、プロレタリア文学運動の運動史に焦点をあてています。どちらかというと、欠点を明らかにするというのが著者の立場のよう…

広く知る

中村栄孝『朝鮮』(吉川弘文館、1971年)です。 著者(1902-1984)は、戦前朝鮮総督府のもとで、『朝鮮史』の編纂に携わったかたで、戦後は名古屋大学や天理大学で朝鮮史の研究をされたということです。 ですから、この本の中には、戦前に書かれた論文も収め…