2008-05-01から1ヶ月間の記事一覧

草庵にしばらく居ては

『歌仙の愉しみ』(大岡信・岡野弘彦・丸谷才一、岩波新書)です。 最近は、こうした連句の興行も、すっかりと定着したような感じがあります。以前、柳瀬尚紀さんの本を紹介したときに、回文のタイトルをつけましたが、そのとき「連句」ということばをつかっ…

誇り

井上ひさしさんの『ボローニャ紀行』(文藝春秋)です。 イタリア、ボローニャのまちを舞台にして、著者の会った人たち、経験したできごとを中心にして、イタリアのありようと、日本のありようとの対比をしています。 著者が会う人たちは、いろいろな形で、…

えにし

ちょっと軽い話です。 必要があって、『蔵原惟人評論集』(新日本出版社)の第1巻(1966年)をめくっていたのですが、1929年2月に『読売新聞』に連載された、「明日の文壇を観る」という文章がありました。当時の新進作家たちを軽く論評したものですが、まあ…

新発見

浅尾大輔さんのブログによれば、彼のもとに、ある方から、1953年6月25日付けの、『北海道新聞』の切抜きが送られてきたそうです。徳永直が寄せた文章で、プロレタリア作家同盟時代のスポーツ活動の思い出を書いたもので、浅尾さんがアップした画像によれば、…

足元をみる

寺出道雄さんという方の、『山田盛太郎』(日本経済評論社)です。 ご存知の方も多いでしょうが、山田盛太郎は、戦前『日本資本主義発達史講座』(岩波書店)の編集にかかわり、そこに収録した論文をベースにして、『日本資本主義分析』(初版1934年、文庫版…

混沌のなかに

加藤周一さんの『幻想薔薇都市』(新潮社、1973年)です。 加藤さんには珍しい〈小説〉で、1960年代後半あたりの、世界のあちこちの都市を舞台にして、そこに繰り広げられる人びとの姿を描いています。議論あり、性愛あり、政治ありと、その点ではのちの『夕…

夢のありか

中国明代の短編小説アンソロジー『今古奇観』(千田九一・駒田信二・立間祥介訳)です。中国古典文学大系版と東洋文庫版(いずれも平凡社)があります。 短編のアンソロジーなので、どれということもないのですが、白話という、当時の中国語のはなしことばで…

土地の重さ

杉本秀太郎さんの『半日半夜』(講談社文芸文庫オリジナル編集、2005年)です。 杉本さんは京都生まれの京都育ち、旧制高校のときに金沢で少し過ごしたものの大学も京都と、京都のまちを体現したような経歴のかたです。このエッセイ集に収められた文章も、京…

両義性

斎藤忍随『ギリシア文学散歩』(岩波現代文庫、2007年、親本は1987年)です。タイトルはなんとなくラフな感じをうけますが、内容は、デルポイの神託をくだす、アポロン神のありようを、さまざまな作品の中に探っていくものとなっています。それは、ホメーロ…

発見

青木冨貴子さんの『731』(新潮文庫、親本は2005年)です。 青木さんは米国在住のジャーナリストで、ピート・ハミルさんの配偶者の方です。文春新書の『目撃 アメリカ崩壊』(2001年)は、「9.11」の現場でのルポとして、貴重なものです。(青木さんのお…

短い寿命

最近、NHKも「後期高齢者医療制度」というようになっています。4月に、政府が変な〈通称〉を作った当時は、遠慮してか〈新しい医療制度〉といってごまかしていましたが、さすがに通用しなくなったようです。〈通称〉の呼び名が体をあらわさないということに…

甘さ辛さ

西田勝さんの『近代日本の戦争と文学』(法政大学出版局、2007年)です。 1980年代からの、著者の戦争や植民地とかかわる文学に関してのさまざまな研究や評論をあつめたものです。 著者は田岡嶺雲の全集の編纂など、手堅い研究をする人でもあるので、ここで…

定住

瀬戸内寂聴さんの『場所』(新潮文庫、2004年、親本は2001年)です。 作者の生涯を、自分自身でたどりなおして、そのときの場所を再訪するという流れの作品です。もちろん、いろいろな曲折のあった作者の人生なのですが、作品を支えているのは、そうした漂泊…

受け継ぐべきこと

佐藤静夫さんがお亡くなりになられたという連絡を受けました。 佐藤さんは1919年生まれで、リアリズム研究会のころから文学運動の中心にいらっしゃり、文学同盟創立のときには、最初の『民主文学』編集長をつとめ、その後も、文学同盟の副議長を何期にもわた…

言わなかったこと

『民主文学』6月号には、手塚英孝賞の発表があって、北村隆志さんの宮本百合子についての文章が選ばれています。 以前、ここでも紹介しましたが、浅尾大輔さんたちが文学フリマに出店したときに販売した雑誌、『クラルテ』に掲載されていたものです。初出の…

手法

安部公房『R62号の発明・鉛の卵』(新潮文庫、2004年改版、文庫旧版初刊は1974年)です。1950年代の著者の短編を集めたものです。 花田清輝の『アヴァンギャルド芸術』とかは、昔けっこうよく読んでいて、花田の全集まで持ってはいるのですが、どうも、評論…

機密

獅子文六のつづき。 「海軍」が新聞に連載されていたのは、1942年の後半ということだから、すでにミッドウェーの海戦で、空母を大きく失っていた時期のことになります。徐々に、開戦当初の状況とはちがって、彼我の海軍勢力も互角になっていて、決して日本が…