2008-07-01から1ヶ月間の記事一覧

対立軸

大西広さんの『チベット問題とは何か』(かもがわ出版)です。 大西さんは、新疆ウイグル自治区の経済の研究もされていて、中国の非漢族地域の事情に詳しいのですが、それによると、チベット自治区に中国政府は巨額な補助金を出しているのだとか。大西さんに…

河口の街で

佐藤洋二郎さんの『恋人』(講談社)です。 3月末に出た書き下ろし作品なのですが、小説家の主人公が、30年ぶりに逢いたい人に函館で逢おうと試みる話です。 メインストーリーはお約束の流れなので、あまりどうということはないのですが、浦安の街で、工事現…

統一性

戸石泰一『五日市街道』(新日本出版社、1980年)です。 著者は1919年に仙台に生まれ、1978年に亡くなったので、この本そのものが遺著というかたちになっています。内容は自伝的な小説を集めたものなのですが、そのなかで異色のものが、1971年の「「おはよう…

自立

小野才八郎さんの『イタコ無明』(審美社、1984年)です。 小野さんは太宰治の弟子で、今でも桜桃忌にはかかわりをもっていらっしゃるとか聞いています。 この作品集は、作者と等身大の主人公が、幼いころに生き別れた母や妹の生きた証をもとめてゆかりある…

西へ

中国古典文学大系(平凡社)のなかの、『清末民国初政治評論集』(1971年)を半分くらいまで進めているのですが、その中に、日本亡命中の梁啓超の書いた「新中国未来記」という〈小説〉が一部収められています。 梁氏はいわば〈開発独裁〉的な立場で、清朝の…

決定すること

大澤真幸さんの『不可能性の時代』(岩波新書)です。 大澤さんの文章は、けっこう難解なので、ここでいうことも、ひょっとしたら勘違いがまざっているかもしれませんが、今の時代は、かつての「天皇」だとか「アメリカ」のような、絶対的な評価の基準が失わ…

みどりの風に黒獅子の

武田晴人さんの『高度成長』(岩波新書)です。 この連休、松山にいるのですが、そこに向かう途中に読んでいました。京都駅を出るとすぐ右手に日本新薬があって、都市対抗出場の横断幕が出ていたのですが、この本の、戦後の産業の消長とが、関連づけて見えてき…

担い手

初田亨さんの『都市の明治』(筑摩書房、1981年)です。現在ちくま学芸文庫に『東京 都市の明治』として収められているものの親本です。 建築というのは考えてみれば不思議なもので、「江戸城を作ったのは?」「大工さん」という冗談の問答がありますが、いく…

ひろい読み

芥川賞受賞作の楊逸さんの「時が滲む朝」(『文学界』6月号)をまず。 時間の経過がけっこう重要になっているので、逆に、それぞれのシーンの印象が少し散漫になっているようにも思えます。大学時代、日本に来た当時、というふうに、いくつかの作品に分ける…

パッシンク

「馬」さんのコメントにも書かれたようですが、大野晋さんが逝去されました。 大野さんといえば、日本語とタミル語との系統関係を主張したことで、一時期ジャーナリズムから無視されるような状態にもあったのですが、そこを通過して、自説を体系化していった…

したたかさ

木村浩『ソルジェニーツィンの眼』(文藝春秋、1992年)です。 木村さんは、『収容所群島』を日本語に翻訳したためか、しばらくの間ソ連当局からビザがおりず、ロシアへの入国を阻まれていたとかいうことで、そういう時代の文章から、ソ連が崩壊するあたりの…

勇気をもらう

小林雅之さんの『上を向いて歩こう』(本の泉社)です。 小林さんは労働組合の専従をされている方で、非正規の公務労働者の運動にたずさわっています。その機関紙に書いたエッセイを集めた本です。 非正規労働者の増加が、今日の状況として語られてひさしい…

着実さ

吉田晶さんの『現代と古代史学』(校倉書房、1984年)と、近藤義郎さんの『農民と耳飾り』(青木書店、1983年)をまとめて。 吉田さんは歴史学、近藤さんは考古学と、分野はそれぞれなのですが、岡山の地で研究と後進の指導に当たられた方です。1950年代前半…

あいも変らず

小林美希さんの『"正社員"の若者たち』(岩波書店)です。 前の記事の繰り返しではないことなのですが、中国に進出した日本企業ではたらく日本の若者がこの本のなかで取り上げられています。 それによると、日系企業は、「日本人である」だけで高給をあたえ…

引き受ける

少しつらいものを、続けました。 湯浅誠さんの『反貧困』(岩波新書)、本田由紀さんの『軋む社会』(双風舎)です。 赤木さんだったら、何をいっても、「あんたは恵まれている」のひとことで片付けられるのでしょうから、何をいえばいいのかとも思うのです…

周圏

川口久雄『平安朝の漢文学』(吉川弘文館、1981年、日本歴史叢書)です。 1981年なら、刊行当時の記憶でもと思うのですが、そのときには、中村真一郎や富士川英郎の影響から、江戸の漢文学には関心は持っていても、平安期のものにはあまり興味をひいてなかっ…

広がり

リチャード・ゴールドスタイン『傷だらけの一頁』(鈴木美嶺訳、ベースボール・マガジン社、1983年、原著は1980年)です。 第二次世界大戦の時期に、アメリカの野球がどのように過ごしていったのかを、多くの写真とともに記述したものです。 メジャーリーグ…

吸収力

ジョゼフ・ニーダム『文明の滴定』(橋本敬造訳、法政大学出版局、1974年、原著は1969年)です。 ニーダム氏はご存知の方も多いでしょうが、中国の科学文明の研究に生涯をささげ、ヨーロッパにおけるこの分野では第一人者といわれているようです。 この本は…