2014-01-01から1年間の記事一覧

応急処置

本田由紀さんの『もじれる社会』(ちくま新書)です。 この間の、さまざまな媒体に発表した文章を集めた論集ですが、本田さんの持論である、戦後の日本社会を支えていた会社・学校・家庭のトライアングルが崩壊したという観点から、これからの教育や家庭のあ…

ねらった混同

桶谷秀昭さんの『人間を磨く』(新潮新書、2007年)です。 武道関係の雑誌に連載したエッセイをまとめたもののようで、現今の風潮を憂える志士としての著者の感覚は読み取ることができます。 そのなかで、中野重治の「村の家」を引いて、そこに描かれた主人…

ばらさなくても

いま、チャンネル銀河というケーブル局で、中国でつくられた〈水滸伝〉のドラマをやっています。2011年につくられたものだそうで、なかなか手の込んだつくりで、展開もほぼ原作に近くなっています(さすがに、黒旋風が朱仝を梁山泊入りさせるために子どもを…

向き合い方

佐々涼子さんの『紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている』(早川書房)です。 津波で被災した日本製紙石巻工場の再生のドキュメントです。被災した工場がどのように再起したか、石巻の野球部がどうたたかって都市対抗に出場したか、というように、そこに至る…

つなぐもの

尾西康充さんの『戦争を描くリアリズム』(大月書店)です。石川達三、丹羽文雄、田村泰次郎が、戦争にどのように対したかを考えています。 なかでも、石川達三への論考がまとまっています。前に、各地の多喜二祭での諸氏の講演をまとめた『闇があるから光が…

視点を変えれば

議席を減らした自民党(百歩譲って与党で+2)を「圧勝」と報じ、11議席増やした民主党をけなす報道機関の物言いはどうかとも思うのですが。 2年前にもやったと思いますが、ドイツと同じような併用制で計算したらどうなるかという〈おあそび〉です。11の比例…

ジグザグあっても

金達寿対談集『日本と朝鮮』(講談社、1977年)です。 当時金さんたちがやっていた、『季刊 三千里』誌上での対談が主なのですが、韓国の政権との緊張関係があった時代なので、金芝河が政権から弾圧された問題など、当時の状況が伝わってきます。 その中でも…

真摯であれ

清岡卓行『藝術的な握手』(文藝春秋、1978年)です。著者が井上靖を団長とする訪中団にくわわって、1976年の11月から12月に中国を訪れたときのことを書いたものです。 ちょうど、向こうでは〈四人組〉追放の直後であったので、かれらの悪行と、それに耐えた…

いただきもの

「インベスターZ」(三田紀房作)というマンガがあります。投資を考える作品で、北海道にある私学が、実は生徒が運営している〈投資部〉なる集団の株などの投資によって運営費を捻出しているという設定で、そこにスカウトされた新入生の視点から、投資につ…

大回り

田中康夫さんの『33年後のなんとなく、クリスタル』(河出書房新社)です。 作者が昔書いた小説の登場人物たち(特に女性)と再会して、現在の日本と世界をめぐる情勢を語りあうという、ある意味でのメタフィクションともいうべき作品です。主人公はヤスオと…

節目

いつのまにか12月になっていましたが、ことしは甲(きのえ)の年ということで、いろいろな節目でもあったようです。 ちょうど2回り前の甲午の年は、日清戦争がありました。中公新書の『日清戦争』(大谷正)は、この戦争の姿をコンパクトにまとめています。 …

こりない

『奈良世界遺産と住民運動』(新日本出版社、2000年)です。 1998年の奈良の文化遺産が世界遺産に認定されたことをうけて、その原動力の一部を担った、住民による遺跡保存の運動の歴史と現状について触れています。1960年代の近鉄の車庫づくり計画のころから…

ねらいが変わる

加藤佳一さんの『つばめマークのバスが行く』(交通新聞社新書)です。 国鉄バスからJRバスへの移り行きを、コンパクトにたどったものです。 かつては鉄道が走れない部分をつなぐ役割をもっていた国鉄バスも、分割民営化以後は、高速道路網の発達によって…

システムの構築

曲亭馬琴『近世物之本江戸作者部類』(徳田武校注、岩波文庫)です。 馬琴が生前公刊せず、筆者で近しい人たちに流布させたというもので、当時の文学史ともいうべき本です。草双紙の起源から洒落本、滑稽本、読本と、作者の略歴を紹介しながら、山東京伝や自…

記憶の底

開高健『輝ける闇』(新潮社、1968年)です。 ヴェトナム戦争に取材した作品で、当時の南ヴェトナムに行った作者と等身大とおぼしき主人公の目から、戦争の実態をみつめます。 主人公は1930年生まれで、中学3年のときに終戦を迎えます。ですから、当時は30歳…

信じて走る

『闇があるから光がある』(学習の友社)です。 今年の各地でおこなわれた、小林多喜二を記念するつどいでの、諸氏の講演を文字にしたものです。いずれも、今の社会情勢を読み解きながら、多喜二の文学を語っていくという姿勢が、共通するものとしてみえてき…

川にたとえる

なかむらみのるさんの『信濃川』(光陽出版社)です。 新潟県を舞台にして、ひとりの日本共産党員を主人公にすえて、その歩みを描いています。 主人公は、兄を満蒙開拓団で失い、母親とともに戦後の時代を生きぬきます。そして、その中で、共産党に入り、専…

にわとりとたまご

中沢弘基さんの『生命誕生』(講談社現代新書)です。 生命の起源を、地球外に求めるのではなく、地球が放熱しているところから生まれる、必然的なものだというところに、中沢さんの説があります。 説の当否そのものは、これからの実験や試料分析によって明…

ニュートラル

鳥羽耕史さんの『1950年代 「記録」の時代』(河出ブックス、2010年)です。 1950年代に各地でおこなわれたサークル運動や、反基地闘争、松川裁判やダム建設のルポや絵画、映画などの文化メディアの様相を、研究者として探ったものです。 鳥羽さんは、雑誌『…

きのうきょうあす

NHKスペシャルの、過去の東京の映像をカラー化したものを紹介する番組がありました。20世紀前半から1960年代までのいろいろな白黒映像を、いろいろなデータをもとにして着色して、当時の状況を考えるというもので、以前は第一次大戦から二次大戦までのヨーロ…

保存可能

岩崎昶『映画の前説』(合同出版、1981年)です。 著者が、東京小石川図書館で1966年から76年までの10年間続けておこなっていた、〈優秀映画を観る会〉の、上映に先立つ説明を文章化したものです。著者は、この本の刊行準備中に逝去したので、結果的に遺著と…

ヤヌス

平野啓一郎さんの『顔のない裸体たち』(新潮文庫、2008年、親本は2006年)です。 ネット上の投稿サイトに、性行為の画像を流していた男と、その対象になっていた女性を主人公にして(男女ともに公務員という設定です)、人間の姿とは何かを問いかけた作品で…

押しつけ

都丸泰助『地方自治制度史論』(新日本出版社、1982年)です。 明治以降の地方制度の変遷を記述しているので、時代時代の制度がどのようなものであったのかを、みることができます。 基本的に、明治憲法の時代と、日本国憲法の時代との、地方自治の考え方の…

これもまた

佐伯一麦さんの『とりどりの円を描く』(日本経済新聞出版社)です。 この前紹介したものは生活に密着したエッセイでしたが、こんどは『河北新報』などに掲載された、本に関するエッセイを集めています。時期的には『杜の日記帖』と重なるものが多いので、似…

日々のいとなみ

佐伯一麦さんの『杜の日記帖』(プレスアート、2010年)です。 この版元は仙台の出版社で、ここが出している雑誌に掲載されたエッセイをまとめたもののようです。新書判ですが、著者撮影のカラー写真などもあって、けっこうぜいたくな造りです。 地震の前で…

またも

津上忠さんが亡くなられました。 いろいろな場面を知っている生き証人ともいうべき方々が、次々と鬼籍に入られます。 そのうえで、いまを紡いでいかなければなりません。

言い訳

本の話ではないのですが。 首相が、『子育て世代の支援のために、年功型賃金から成果主義賃金にしたい』という趣旨のことを発言したそうです。 子どもがおおきくなれば、それだけ教育費などがかかるので、年齢に応じて賃金が決まるのも、生活維持のためのも…

旅の恥は

石川達三『武漢作戦』(文春文庫、1976年)です。 表題作は1939年1月の『中央公論』に発表され、1940年に単行本化されたとか。そのため、さくせんこうどうがらみのところには伏字などがあります。 長江をさかのぼって武漢に攻める日本軍のことを書いたもので…

はざまで

石黒米治郎『つぎはぎだらけのスケッチ』(群青社、2004年)です。 石黒さんは戦後まもなく、鶴見の造船所で働きながら、岩藤雪夫に学んで文学にこころざし、当時の『勤労者文学』につどう一人として数えられました。その後、レッドパージにあい、いろいろな…

伏流水

土橋寛『古代歌謡の世界』(塙選書、1968年)です。 著者は、日本の古代歌謡を単純に抒情的な側面から理解することを戒め、現代に伝わる民謡の分析から、それと共通する面を見出し、そこをきちんと位置づけるべきだという立場にいます。 農村の社会基盤が変…