2010-10-01から1ヶ月間の記事一覧

編年体

野本陽代さんの『太陽系大紀行』(岩波新書)です。 こうした入門書は、よく工夫されているのですが、この本では、惑星・衛星探査の歴史を、対象の星ごとではなく、年代順に構成しています。それによって、何が試みられ、何ができ、何ができなかったかが、つ…

色の力

玉利勲『装飾古墳』(平凡社カラー新書、1978年)です。 主に北九州に分布する装飾古墳の現状を記したもので、当時やっと緒についたばかりの、保存の状態にも批評の目が向いています。 いくつかの古墳は、1930年代から石室内に装飾が施されていたのがわかっ…

遺したもの

『加藤周一自選集』10(岩波書店)です。 最晩年の著作と、著作目録がメインの巻で、そのために手に入れたようなものですが、ほとんどが『夕陽妄語』のシリーズで、短いながら、鋭い指摘がなされています。 著作目録も、年代順に記載されていて、これで、平…

記憶の底

『新婦人しんぶん』10月21日号のRANKOさんのマンガです。 チリの鉱山からの救出の話題をきっかけにして、〈おとうさん〉がさりげなくネルーダの詩集を手にして現れ、〈ベンセレーモス〉の歌をくちずさみながら、地球儀をみています。 そういえば、救出された…

作っておけば

『民主文学』11月号に、鶴岡征雄さんの作品が載っています。「単線駅舎のある町で」というタイトルで、1952年の茨城県のある町を舞台に、少年の心の動きを追った作品です。 この作品で、大きな舞台装置となるのが、この町に大相撲の一行が巡業にくるというと…

期待はする

増田勝さんの『冬の景色は』(本の泉社)です。 作者の妻(藤林和子)の死を題材にした作品集で、ガンのために死んでゆく妻と、遺されるものたちの生き方を描いています。 昔だったら、文学の題材として、〈結核〉が死につながる病として多く出てきたのです…

基盤

伊藤之雄さんの『政党政治と天皇』(講談社学術文庫日本の歴史22、親本は2002年)です。 1910年代から1930年代初頭までの、日本における政党政治が定着して、五・一五事件で政党内閣が壊れるまでの時期を扱っています。このシリーズでは、一つ前の巻でも、佐…

動き

検索サイトのトップニュースをみていたら、沖縄の知事選で、沖縄出身で、与党の参議院議員だった歌手だった人が、出馬したいといっているそうです。与党の立場を利用しようというのでしょうか。 もちろん、歌手だったひとが、自分の信条に従って、政治家とし…

結託

立松和平『今も時だ・ブリキの北回帰線』(福武文庫、1986年)です。収録作品の初出は出ていないのですが、1978年刊行の単行本が初刊だと記されています。 表題作は、暴力学生(黒いヘルメットだそうです)が占拠する大学で、ジャズピアニストがコンサートを…

便乗

高橋秀美『おすもうさん』(草思社)です。 相撲とは何かという、答えが出るようで出ないものを、いろいろな関係者への取材であきらかにしようとしたものです。 実際、もともとは大男が取っ組み合う興行だったものを、いろいろと理屈をつけて、日本の文化伝…

学部はちがった

紅野敏郎さんが亡くなられたと聞きました。 私は文学部で、竹盛天勇(本を書くときは天雄とされていました)先生に卒論を出したので、教育学部の紅野さんには、直接教わる機会はなかったのでした。ただ、一度、教育学部で履修する国語科教育法の授業の担当者…

かけあい

旧版『荷風全集』(岩波書店)第27巻(1965年)です。 この巻は、談話筆記と合評会なのですが、この合評は、1920年前後の演劇に関するものなのです。全集の後記によれば、『新演芸』という雑誌に掲載されたもので、メンバーは、岡本綺堂とか、池田大伍や、久…

一身にして

クリスタ・ヴォルフ『クリスタ・Tの追想』(藤本淳雄訳、河出書房新社、1971年、原著は1968年)です。 作者と同じ名前の「クリスタ」という女性を、友人が回想するという設定ですが、「クリスタ」さんは、1963年に35歳で亡くなったという設定になっています…

東へ

旧版の『荷風全集』(岩波書店)の第12巻(1963年)です。戯曲の巻です。 東京日本橋生まれの谷崎が西に向かったのに対して、東京小石川生まれの荷風は東に向いていたような気がします。浅草、向島(玉ノ井)、荒川放水路、葛飾、そして市川菅野と、欧米の実…

あこがれ

谷崎潤一郎『吉野葛・蘆刈』(岩波文庫、1986年改版)です。 作品自体は、「吉野葛」が1931年、「蘆刈」が1932年のものです。いずれも、ある土地に惹かれて作者がそこを訪れ、それを契機に物語の語り手から、かれの慕情を聞くという設定になっています。そこ…