2010-06-01から1ヶ月間の記事一覧

感覚あれこれ

このところ、『図書』(岩波書店)にけっこうおもしろいものが多いのですが、丸谷才一さんが、平野謙について書いています。彼が作家の個人的な生活についていろいろと書くのは、戦前の左翼運動時代の苦い思い出を引きずっていたからだというのですね。 平野…

生の軌跡

ゆいきみこさんの『咲子の戦争』(民主文学館、光陽出版社発売)です。 作者は、長く大阪に住んでいたのですが、夫が画家をめざしてそれまで勤めていた工場を早期退職してから、長野県に夫とともに移り住んだ方です。本のカバーにも、たぶん夫の方の描かれた…

紀律維持

三浦哲郎さんの『おりえんたる・ぱらだいす』(文藝春秋、1971年)です。 東北地方のある町を舞台に、米軍占領時代の女性たちの生き方を、朝鮮戦争の時期まで追いかけた作品です。タイトルは、この町につくられた進駐軍将兵のためのダンスホールの名称で、そ…

位置づけ

藤枝静男『或る年の冬 或る年の夏』(講談社文芸文庫、1993年、親本は1971年)です。 1930年から31年という、作者の青年時代を題材にして、当時の学生の悩みに切りこんだ作品です。1930年の春、名古屋の高校を卒業した主人公は、医科大学への進学がかなわず…

交錯

白石太一郎さんの『考古学と古代史のあいだ』(ちくま学芸文庫、2009年、親本は2004年)です。 考古学の立場からすれば、卑弥呼のクニが大和盆地にあったことは、当時の古墳や土器の形式からするとほぼ確定的なのだそうです。もちろんそれは、『日本書紀』に…

突入

広島の自動車会社(窪田精さんの『工場のなかの橋』のモデルになった会社ですね)に、元期間工(とはいっても、その後の報道ではどうも単純ではなさそうですが)の人が車で突入し、死傷者をだしたそうです。2年前のともひろさんを思い起こさせるような感じも…

止めないこと

アーサー・ケストラー『ヨハネス・ケプラー』(小尾信弥・木村博訳、ちくま学芸文庫、2008年、親本は1971年、原本は1960年)です。スターリン体制に反発した人として、名前だけは知っていたのですが、こうした科学読み物を書いていたとは、つい先だってまで…

ここまで来て

岩波から出ている、『加藤周一自選集』が、順調に10冊のうち9冊目まで出ているようです。 実は、買ってはいません。刊行時の内容見本をみてここに書いたときに、〈どうせならきちんとした全集にしてほしい〉と書きましたが、実際に選集の巻末についている初…

時は流れて

原武史・重松清のおふたりによる対談『団地の時代』(新潮選書)です。 ふたりは同い年で、原さんは西武沿線育ち、重松さんは大学入学ではじめて東京暮らしをしたという経歴です。ですので、原さんの団地体験と、重松さんのニュータウン経験とが、団地のもつ…

いろいろあるから

加藤周一さんだったと思いますが、〈メディアが何を報じているかということより、何を報じていないかをみるべきだ〉という趣旨のことば(『夕陽妄語』だったでしょうか)を思い出します。 大関の賭博も、日本の勝ち点3もニュースではあるでしょうが、たとえ…

ふるまい

法事に参列したのですが、読経を聞きながら、つい古井由吉さんの『人生の色気』(新潮社、2009年)を思い出してしまいました。法事には、初めてあう親戚(祖父の兄の曾孫兄弟とその配偶者です)もいて、自分よりも世代が下のそうした人に会うのも珍しいもの…

動的

日本思想大系の『荻生徂徠』(岩波書店、1973年)を、えっちらおっちら読み進めて、やっと本文を通りました。 こまかい学説的なことは、それこそ解説の吉川幸次郎「徂徠学案」(のちに『仁斎・徂徠・宣長』(岩波書店、1975年)にも収録)が詳しいのでしょう…

ドラマじゃない

新首相、「奇兵隊」とのたまったとか。 この前、紹介したと思いますが、井上勝生さんの『開国と幕末変革』(講談社学術文庫日本の歴史18、2009年、親本は2002年)から、奇兵隊とは何かをひろってみましょう。 構成員は〈士庶混成〉ではありますが、年中〈隊…

きっかけ

『西條八十詩集』(角川文庫、1977年)です。 近所の古本屋でみつけたのですが、最初に奥付をみると、1977年8月初版、1978年11月6版(角川文庫の用語で、ほかの社なら6刷と書くところです)とありました。よく売れてたんだなと思って、表紙裏の側のカバーを…

身勝手

上田信さんの『トラが語る中国史』(山川出版社、2002年)です。 中国東南部、福建省あたりにすむアモイトラの視点から、人間と自然とのかかわりあいを考えるものです。中国東北にはシベリアトラというのがいて、早い時期から保護の対象とされていたのですが…

ゆとり

中野美代子さんの『「西遊記」XYZ』(講談社選書メチエ、2009年)です。 中野さんは、ずっと西遊記の研究をされ、明刊本の翻訳(岩波文庫)もされ、そういう意味では、いままでの研究を、一般書としてまとめたという性質のものです。 西遊記には、いろいろと…

100年

自分がかかわっている書籍には触れないというのが、ここでの原則のつもりなのですが、少し破ります。 『講座プロレタリア文学』(光陽出版社)が、けっこう好評だと聞いています。平出修の「逆徒」を祖父江昭二さん、伊藤野枝の「転機」を久野通広さんという…