2007-01-01から1年間の記事一覧

表に出る

少しテレビの話です。BS-1でカストロさんのロングインタビューをやっていました。2003年にフランスの放送局が作った番組ですが、カストロさんは自分の生い立ちからキューバをめぐる情勢などを、縦横無尽に語っていました。その中で、革命に暗殺はそぐわない…

定義

ドストエフスキーの『鰐』(沼野充義編、講談社文芸文庫)です。 「鰐」といえば、かつて森鴎外が翻訳して『諸国物語』に収録していて、ずっと昔のことですが、NHK-FMの夜の朗読番組で、鴎外翻訳集をやったときに、「病院横丁の殺人犯」などともに朗読されて…

濾過

川村湊さんの『牛頭天王と蘇民将来伝説』(作品社)です。 京都祇園祭で有名な八坂神社の信仰のねっこにある牛頭天王や、それと関連する蘇民将来の厄除けのありかたをきっかけに、日本の精神世界について考えようとしています。 明治の廃仏毀釈以来の、神道…

豊かさの代償

瀬川拓郎さんの『アイヌの歴史』(講談社選書メチエ)です。 続縄文文化から、擦文時代をへて、アイヌ時代にいたる時期の北海道の歴史という位置づけになるのでしょう。縄文時代には、日本列島のほかの島とそんなに変わりのない状態であったのが、続縄文時代…

仲間はずれ

梅田正己さんの『「北朝鮮の脅威」と集団的自衛権』(高文研)です。 安倍内閣のときに設置されたいわゆる「有識者懇談会」が、集団的自衛権の見直しと称して、憲法を改正しないとできないことをやろうとたくらんでいることを、現在の法体系のなかから実証し…

方向づけ

若桑みどりさんの『戦争がつくる女性像』(ちくま学芸文庫、2000年、親本は1995年)です。 こういう少し前に出た本をとりあげるときに思うのですが、本が出たときには視野にはいっていなかったということでもあるので、その点では少し気恥ずかしいところもあ…

形而上

中山研一さんの『現代社会と治安法』(岩波新書、1970年)です。 この本自体は、明治以来の日本の治安法の説明と、現代(1970年)の課題を述べているのですが、治安維持法が、「国体の変革」を罰せられるべき対象としていることを考えると、治安法というもの…

てのひらを返す

ガンスブールという人の、『ポール・ニザンの生涯』(佐伯隆幸訳、晶文社、1968年、原本は1966年)です。 ポール・ニザンは、1930年代に、『ユマニテ』などに小説を書いたり、反ファシズムのたたかいの先頭にいました。しかし、独ソ不可侵条約をきっかけにし…

痛烈

中西伊之助(1887-1958)の、『農夫喜兵衛の死』(つむぎ出版、初刊は1923年)です。 作者の生誕120年を記念して出されたもので、郷里の宇治の人たちが出版のために労をとったのだというのです。出版社はコードから考えると、かつて「機関紙出版センター」と…

うちとそと

ヴァージニア・ウルフの『ダロウェイ夫人』(丹治愛訳、集英社文庫、原作は1925年、親本は1998年)です。 1923年6月のある日(特定できるそうですが)、保守系の代議士、ダロウェイ氏の夫人、クラリッサ・ダロウェイが、パーティーをひらきます。それをめぐ…

ゆりもどし

大塚秀之さんの『格差国家アメリカ』(大月書店)です。 アメリカの貧困層の問題は、この本にもふれられている、ルイジアナをおそったハリケーンの被害でうきぼりになりましたが、それは単に格差だけの問題ではなく、そこに流れている『人種差別』の問題や、…

新しい地平

こういう日だから、「開戦の詔勅」でも読んでみようと思ったのですが、どこにあるのか探し出せなかったのです。(小森陽一さんの本には、「終戦の詔勅」はあったのですが、開戦のほうは見当たらず、かつて山中恒さんの『ボクラ少国民』のシリーズの中にきち…

逃げる

池谷薫さんの『蟻の兵隊』(新潮社)です。 ポツダム宣言を受諾して、無条件降伏をし、武装解除されたはずの日本陸軍部隊が、その相手方の事情で、武装させられ、「敵」と戦う状況に追い込まれたというできごとを、取材したものです。 場所は中国山西省。当…

たとえこれでも

小林多喜二(1903−1933)の〈初期作品集)『老いた体操教師・瀧子其他』(講談社文芸文庫)です。 文芸文庫もかれこれ創刊20周年だとかで、この本のはさみこみにも、記念復刊をするのでリクエストがあればだしてほしいというアンケートがはいっています。 け…

あおった責任

NHKの『その時歴史が動いた』は、引き揚げの話でした。 「満洲」からの引き揚げとなると、葉山嘉樹が現地で亡くなったこととか、徳永直や島木健作が開拓団を訪れて見聞記を発表したりとか、山田清三郎が『満州国』で文学運動をしようとしていたとか、そうい…

回避

紙屋高雪さんの『オタクコミュニスト超絶マンガ評論』(築地書館)です。 彼は、「紙屋研究所」というサイトを運営していて、そこに掲載されたものをいくつか選んで書籍化したものです。 タイトルどおり、マンガの評論が多いのですが、マンガにみられる社会…

赤裸裸

中本たか子さん(1903−1991)の『わが生は苦悩に灼かれて』(白石書店、1973年)です。 中本さんは、山口県出身で、小学校の訓導を退職して、文学の道にはいり、そのあとで、社会変革の運動に参加したという経歴の方です。この回想記は、1929年に社会変革の…

視野

断片的な話ですが、この前ニュースで、原油高でもうかったアラブのどこかの国では、個人的なぜいたくな消費が増えているそうです。そんな余裕があるならば、代替エネルギー源の開発に投資すればいいのにと思うのは、老婆心でしょうか。

せめぎあい

佐々木一夫さん(1906−1987)の『魅せられた季節』(新日本出版社、1971年)です。 終戦直後の鳥取県中部のある農村を舞台に、その村での戦後の農地改革とそれをめぐる地主と小作との動き、それと関連して、町の工場での労働組合の結成、そうした民主化の運…

俗に沈む

長部日出雄さんの『未完反語派』(福武文庫、1986年、親本は1982年)です。 構造が複雑な作品で、1930年代を生きたひとりのインテリが、建部綾足の生涯に題材をとった小説を書こうと志していて、その「小説」と彼の「日記」とがない交ぜとなって作品が進みま…

ひとつの時代

堺田鶴子さんの『百日紅』(「ひゃくじつこう」と読んでください)(光陽出版社)です。 著者は1938年生まれで、商業高校を出てから損保会社に就職し、子どもを三人育てながらも定年まではたらいた方です。文学への志は若いころから持っていたようで、この作…

極限から

『けものたち・死者の時』(ビエール・ガスカール作、渡辺一夫・佐藤朔・二宮敬訳、岩波文庫、原著は1953年、親本は1955年)です。 フランスの戦後派文学という位置づけになるのでしょうか、作者は1916年生まれといいますから、日本で言えば野間宏、ドイツの…

出発点

木下武男さんの『格差社会にいどむユニオン』(花伝社)です。 雇用融解ともいわれる現状に対して、いままでの企業別組合ではなく、業種別の個人加盟の組合によって、横断的に労働相場を決めていくたたかいが必要なのだと訴えています。たしかに、企業別組合…

距離をおく

森田浩之さんの『スポーツニュースは恐い』(生活人新書)です。 スポーツニュースが、「国民」をつくるために日夜刷り込みを行っているという、この本の指摘は、日常ほのかに感じていたことを、きっちりと表現したように思います。NHKのスポーツニュースが…

上部構造

溝口雄三・池田知久・小島毅さんの共著『中国思想史』(東京大学出版会)です。 秦漢・唐宋・明清・清末の交替期をポイントとしてとらえ、その時代に形成された思想のありようを、社会の変化とあとづけて論じています。長期的な視野にたつことで、唐の滅亡か…

重層的

大野晋さんの『日本語の源流を求めて』(岩波新書)です。 南インドのタミル語と、日本語との関連をさぐる大野さんは、縄文時代の西日本の言語の上に、稲作文明をもってきたタミル語がかぶさったのだといいます。その意味では、タミル語と同じ系統とはいえま…

視点

小林英夫さんの『日中戦争』(講談社現代新書)です。 小林さんは、日中戦争を、日本の側には外交戦略が欠如していて、対外的に日本の立場を支持してもらおうという姿勢が、政府にも軍部にもメディアにもなかったのに対して、中国側はそうした戦略にたけてい…

共通性

青山和夫さんの『古代メソアメリカ文明』(講談社選書メチエ)です。 中部アメリカに栄えた、マヤだとかアステカだとかの文明の現在わかっていることを簡潔にまとめようとしています。 青山さんによれば、ユーラシア・アフリカ大陸に栄えた「四大文明」に加…

表現様式

村山知義『戯曲 ベートーヴェン・ミケランジェロ』(新日本出版社、1995年)です。著者晩年の二つの戯曲を収録したもので、「ベートーヴェン」のほうは東京芸術座によって上演された(1976年)のですが、「ミケランジェロ」のほうはまだ上演されていないよう…

幸か不幸か

太宰治の『お伽草紙・新釈諸国噺』(岩波文庫、2004年)です。 戦中にかかれた太宰の、昔話や西鶴の作品をモチーフにしたものです。 最近も、集英社文庫の『人間失格』のカバーが話題になったりなど、太宰はいろいろと読まれているようですが、彼の本領はど…