2016-06-01から1ヶ月間の記事一覧

謎は解けたか

松本清張『砂の器』(光文社、1961年)です。 昔読んでストーリーは知っているので、時代を感じさせる部分がどのくらいあるのかと思っていたのですが、1960年前後という、戦争の混乱から脱却しようとする時期のものという感じはありました。細かく読んでいく…

悪いことばかりじゃなかった

ヴェルメシュ『帰ってきたヒトラー』(全2冊、森内薫訳、河出文庫、原本は2012年、親本は2014年)です。 ヒトラーが2011年8月のベルリンによみがえり、みずからの弁舌を生かして〈お笑い芸人〉として生きていきながら、徐々に人気をあげてゆくという話です。…

陥る

三井秀樹さんの『琳派のデザイン学』(NHKブックス、2013年)です。 江戸時代からながれる琳派の表現の、日本的な特性を分析し、それがジャポニスムのかたちで西洋の美術工芸にどのようなインパクトを与えたのかを考えています。19世紀にジャポニスムが与え…

開いていること

黒川創さんの『鷗外と漱石のあいだで』(河出書房新社、2015年)です。 20世紀初頭の文学状況を、日本だけでなく東アジアにおいて文学がどう受け取られたかを視野に入れて論じたものです。その中で鷗外と漱石の果たした役割を考えるというところに、中心はあ…

配材

高橋夏男さんの『流星群の詩人たち』(林道舎、1999年)です。 草野心平とともに詩をつくっていた人たちの生涯を追ったもので、坂本遼、原理充雄、木山捷平たちのことが調べられています。1920年代という、激動の時代に詩だけでなく、大阪に郵政労働者だった…

構想

宮崎市定『水滸伝』(中公新書、1972年)です。水滸伝にみられるいろいろな人物やそれをめぐるできごとを、史家の観点から記したもので、作中のエピソードがもとづいているだろう史実を掘り起こしているところや、宋江という人物が同時代に二人いて、一人は…

年を経る

古市憲寿さんの『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社+α文庫、2015年、親本は2011年)です。 文庫化に当たって追記や脚注の付加が行われて、おのずと自説の再検討のおもむきもあります。 たしか単行本がでたときに、浅尾大輔さんが書いた書評に対して、河添…

記憶の質

渡辺武さんの『戦国のゲルニカ』(新日本出版社、2015年)です。 大阪城博物館にある、黒田家伝来の「大坂夏の陣図屏風」に描かれた戦の実相を追求したものです。戦争が武士のみならず、民間人にも実質的な被害をもたらしているようすが、屏風には描かれてい…

大義名分

内藤湖南『中国近世史』(岩波文庫、2015年、親本は1947年)です。 もともとは著者が1920年代に京都大学で講じたものを没後に活字化したものなのですが、10世紀から14世紀前半のころの中国を、近世社会のおこりとして論じるものになっています。この時期の中…

わずかの差

『岩波講座 日本歴史』をときどき拾い読みしているのですが、近世の巻のなかで、江戸末期にうまれた宗教についての論考がありました。当時は、「誰それが神がかりになった」という体の話は、あちこちにあったのだそうですが、その中の多くは、〈はやり神〉と…

わたしはかもめ

『図書』6月号に、沼野充義さんがテレシコワ飛行士についてエッセイを書いています。彼女が地球を周回したときの、当時は隠されていたエピソードとか、地上に帰着した時にやってしまった失敗とか、なるほどと思わせるものがいろいろとあって、それはそれで草…