2012-02-01から1ヶ月間の記事一覧

料理の本

明治文学全集『矢野龍渓集』(筑摩書房、1970年)から「浮城物語」(1890年の作品)です。 時は1870年代末、海外に雄飛しようとする日本人を描く作品です。海王丸という船に拠って、インド洋南方の島を確保し、そこからアフリカやマダガスカルをわがものにし…

温存

『コレクション戦争と文学』(集英社)の第14巻、「女性たちの戦争」です。女性に限らず、子どもの目からみた戦争の話も出ています。 その中から、中本たか子「帰った人」を。 戦時中の作品です。素子という主人公の女性は、女学校を出て、仲のよかった弘信…

読みこみ

『日本文学報国会 会員名簿』(新評論、1992年、1943年版名簿の復刻)です。高橋新太郎さんの別冊解説が付されています。 文学報国会の問題は、宮本百合子が戦時中にアンソロジー(刊行されなかったようです)に自分の作品を収めるかどうかで、獄中の宮本顕…

歳月

工藤一紘さんの『秋田・反骨の肖像』(イズミヤ出版、2007年)です。 出版社は横手市にあります。 秋田の民主主義文学運動を支えてきた人たちに関する論考が主で、それに加えて秋田県出身、出生の松田解子、小林多喜二についての文章も収められています。 19…

災害

小田実『「アボジ」を踏む』(講談社文芸文庫、2008年、親本は1998年)です。 1950年代の作品から、1990年代までの短編をあつめたもので、その点では、初期の作品と、最近の作品との差もみえてきます。 小田さんの妻のご両親は済州島の出身で、日本で知り合…

いまさら気がついた

徳永直に「他人の中」という、作者の米屋での丁稚奉公時代の経験に基づいた作品があります。奉公する少年の現実を描き、1930年代後半の、戦争へと傾斜する時代のなかでの徳永のすぐれた作品として評価されています。 最初に読んだのは、新潮社の〈昭和名作選…

中間点

大田努さんの『小林多喜二の文学と運動』(民主文学館)です。 大田さんは長く新日本出版社で、小林多喜二や宮本百合子の全集の編集にたずさわってきていて、そこからの知見などをもとに書かれた文章がこの本に収録されています。 多喜二に関しては、最近こ…

心の闇

尾西康充さんの『『或る女』とアメリカ体験』(岩波書店)です。 有島のアメリカでの経験を、現地におもむいて調査し、当時の生活と作品に与えた影響をさぐっています。 当時のアメリカ(有島の渡米は日露戦争のころです)の、移民の多いすがたや、一般の人…

多様さは

ゆっくり読んでいた、『戦後文学論争』(全2冊、番町書房、1972年)です。 下巻は、1960年代前半の、「純文学論争」と「戦後文学論争」でしめくくられています。この時代は、安保闘争のあと、新日本文学会が完全に国政革新の路線から離反しようとした時期と…

これもずらし

李恢成さんの『地上生活者』の第5部が、『群像』ではじまりました。 前にも書きましたが、自伝的なこの作品、モデルがけっこうあからさまです。今回は、対談の相手が、「海辺の光景」を書いた「保岡庄太郎」さんと、声に出して読めば仮名(かめい)にならな…

インフラ

片倉佳史さんの『台湾鉄路と日本人』(交通新聞社新書、2010年)です。 台湾を日本が領有したときには、ほとんど鉄道が走っていなかった台湾島に、開発の目的で日本は鉄道を敷設します。砂糖の輸送のための鉄道や、山岳地帯から材木を運ぶための森林鉄道など…

欠かせない

文芸誌を読みながら、少し考えたのですが、教師と生徒・児童とがきちんとかかわりあう姿を描く小説は、『民主文学』以外には最近ほとんど見かけないようにみえます。柴垣文子さんの作品でも、渥美二郎さんのものも、松本喜久夫さんのものも、佐田暢子さん(…

時間との勝負

森まゆみさんの『明治東京畸人傳』(新潮社、1996年)です。 谷中・根津・千駄木を本拠とした森さんの、この地にかかわりのあるいろいろな人のことが記されています。 中学・高校と西日暮里の学校にかよったので、この土地にもまったくなじみがないわけでは…

晩年

村松友視さんの『トニー谷、ざんす』(毎日新聞社、1997年)です。 小林信彦さんの『日本の喜劇人』(新潮文庫)でも、トニー谷に関してはそれなりの量をもって記述されていたのですが、そこからくるイメージは、いっときのブレイク時期をすぎては、もう忘れ…

商売柄

香山リカ・橘木俊詔対談『ほどほどに豊かな社会』(ナカニシヤ出版、2011年)です。 震災前に行われた4回の対談に、その後のことを追補して1冊にまとめたようなものです。 両者の社会に対してのとらえかたの対照的な面に目がいきます。橘木さんは、システム…

今ならば

『図書』2月号の編集後記的文章「こぼればなし」で、ペロポネソス戦争を記述したトゥーキュディデースを引いて、現代のできごとを普遍的にとらえる歴史意識をもつ必要性を述べています。岩波書店らしいといえばいえるのですが、そのようなスケールの大きさ、…