2008-10-01から1ヶ月間の記事一覧

ジグザク

小国喜弘さんの『戦後教育のなかの〈国民〉』(吉川弘文館、2007年)です。戦後の、47基本法を生かそうと努力した教育実践を、現在の目から検討して、その意義と限界をさぐろうとしています。加藤文三さんとか、本多公栄さんとかの実践や、月の輪古墳の発掘…

しぼりこむ

岩波書店のPR誌『図書』の11月号の増刊は、岩波新書創刊70年を期しての、アンケート特集です。各界の人びとに、3点選んでもらうという企画です。 さて、自分にひきつけてみると、たしかに3つにしぼるのはむずかしい。それでもやってみようと思うのですが。 1…

柳の下かもしれないが

『蟹工船』『セメント樽の中の手紙』と、〈ワーキングプア〉という側面からプロレタリア文学の作品が刊行されていますが、こんどは、主婦の友社から徳永直の『太陽のない街』が文庫判で刊行されました。 底本は戦旗社版(1929年)で、その点では、日本近代文…

ゆとり

『異能の画家 伊藤若冲』(新潮社とんぼの本)です。 もともとは、2000年の、『芸術新潮』誌の特集をもとに、増補をしてできた本だというのですが、若冲(1716-1800)の代表作を、コンパクトに見ることができます。表紙カバーの「百犬図」はなごみますし、大…

地に足をつける

谷川健一さんの『四天王寺の鷹』(河出書房新社、2006年)です。 聖徳太子が物部氏討伐のあと鎮魂のために建立したという、四天王寺に、物部守屋をまつるお堂があったり、守屋の子孫が今でも寺の行事にかかわっているということをスタートにして、物部氏や秦…

多才

小林信彦さんのつづきで、『紳士同盟ふたたび』(扶桑社文庫、親本は1984年)です。前作の続編で、あいかわらずのコン・ゲームなのですが、今回の文庫本には、小林さんが1960年代末に書いた、「深夜の饗宴」というミステリー作家論が収録されています。「深…

はしばしに出る

小林信彦さんの『紳士同盟』(扶桑社文庫、親本は1980年)です。 もともとは『週刊サンケイ』に掲載されていた小説だというので、今回扶桑社から再刊されたのですが、もともと新潮文庫からの移籍のようなものなので、解説にも新潮文庫のときのものがおまけと…

境界線

黒田日出男さんの『龍の棲む日本』(岩波新書、2003年)です。 武蔵国金沢文庫に所蔵されている、半分ちぎれた「日本」を描いた地図を題材に、中世の日本人の国土についての意識を考えたものです。 その地図は、日本のまわりを「龍」がとりまいているものな…

最後に残るは

吉村昭さんの『陸奥爆沈』(新潮文庫、1979年、親本は1970年)です。 しばらく前に、岩田豊雄(獅子文六)の『海軍』だとか、丹羽文雄の『海戦』だとかを続けて読んだので、そのときにあわせて買っておいたのですが、1943年におきた、戦艦「陸奥」の爆沈の実…

邪推ふたたび

朝日新聞が、囲み記事扱いだが、やっと『青年大集会』の記事をだしました。それでも「共産党系」と書き、だから報道しなかったのだという主張をしたいようです。まあ、たしかに、1999年の派遣改悪に賛成した政党が、反省なしにこの集会に顔を出せないのはわ…

耳に入りやすい

高島俊男さんの『漢字と日本人』(文春新書、2001年)です。 いささかあまのじゃくなもので、この本も、刊行当時には買わずに、いまになって、古本屋で初版が安く出ていたので買ったのですが、日本語における漢字の使い方と、何でもかんでも漢字で造語してし…

ことばの系統

「その時歴史が動いた」で、取り出してみたのが、言うまでもなく、『アイヌ神謡集』(岩波文庫、1978年、親本は1923年)です。 ご存知、知里幸恵(1903-1922)の訳になる、アイヌ民族のカムイユーカラの中からの選集です。対訳形式になっているので、アイヌ語…

長いようで

島村輝さんのブログで、生保会社の破綻と徴兵保険についてふれています。徴兵保険といえば、『現代リアリズム短篇小説選』(新読書社、1964年)に、石川冬子さんのそのものずばり、「徴兵保険」という短篇が収録されていたことを思い出しました。1941年生ま…

出発点

風見梢太郎さんの『浜風受くる日々に』(新日本出版社)です。 1965年の、甲子園球場の近くにある中高一貫の私立高校に通う主人公の生活を描いた作品です。といっても、主人公は、高校からこの学校に入ったので、最初は勉強についていくのが精一杯で、クラブ…

雰囲気づくり

笠原十九司さんの『「百人斬り競争」と南京事件』(大月書店)です。 笠原さんは、当時の全国各地の新聞記事を材料にして、「百人斬り」が決して、被告として裁かれた人だけの問題ではなく、当時の日本軍が、日本刀を使って中国人を斬ることが、ある種の風潮…

決定打

『往復書簡 宮本百合子と湯浅芳子』のつづきです。 二人が決裂したときに、宮本顕治を湯浅芳子の留守中に泊めたことが発覚するのですが、そのとき、芳子の手記によれば、百合子は「同志」だからということを最初の言いわけにしたようです。百合子は芳子に対…

今からみれば

黒澤亜里子さんの編著『往復書簡 宮本百合子と湯浅芳子』(翰林書房)です。 1924年、夫との関係がごたついていた百合子は、野上弥生子のところで湯浅芳子と知り合います。そして二人は、ひかれていくようになり、共同生活をはじめます。1927年のロシア行き…

邪推

10月5日に、東京の明治公園で、「全国青年大集会」がありました。 翌日の毎日新聞では、一面にカラー写真で、集会のあとのパレードが報道されました。 一方、朝日新聞では、まったく報道がなく、また、その集会で、「国会で質問をします」といった日本共産党…

姓名

9月23日に、北原耕也さんの「さすらいびとのフーガ」に関して、戸籍のことへの疑問点をここで書きましたら、ていねいな回答をいただきました。ありがとうございます。 それで、しばらく考えているうちに、またも疑問点が出てきたので、詳しい方にお尋ねした…

気分

林芙美子の『うず潮』(新潮文庫、1964年、初出は1947年)です。 文庫本の解説(小松伸六さん)によれば、作者の戦後最初の新聞小説だということです。戦争で夫を亡くし、5歳の子どもを抱えた25歳の女性が、戦後の時代を生き抜いていくという作品です。 新聞…

刷り込み

若桑みどりさんの『お姫様とジェンダー』(ちくま新書、2003年)です。 若桑さんは先年逝去されましたが、この本はある女子大学で、ジェンダー論の講義として、ディズニーのアニメなどを使ったときの記録や、そのときの学生の感想文を素材にしてまとめたもの…

前夜だった

ちょっと異色のものですが、米沢嘉博(1953−2006)『戦後少女マンガ史』(ちくま文庫、2007年、親本は1980年)です。 米沢さんは、マンガの同人誌の即売会に長くかかわっていた方で、その方面では、『マンガと著作権』(2000年)という本の誕生にもかかわっ…

同時代の感覚

『アキハバラ発〈00年代〉への問い』(岩波書店)です。 例の「ともひろ」さんの起こした事件について、さまざまな人たちが、自分のフィールドから発言しているのですが、前に、『リアルのゆくえ』で紹介した東浩紀さんが、ここでも、インタビューに応じてい…