2012-03-01から1ヶ月間の記事一覧

できれば

堀田善衛の『零から数えて』(文藝春秋新社、1960年)です。 あるアメリカ人と出会った人たちが、混乱に巻きこまれる話なのですが、どうもそのアメリカ人は、原爆投下に携わった人のようなのです。その意味では、後の作品『審判』につながるものだと思います。…

対象の認識

多田茂治さんの『松本英一郎 愛と怖れの風景画』(弦書房)です。 福岡県久留米市出身の画家の伝記です。松本(1932-2001)は人物画よりも風景画を好んで描いたようで、表紙カバーにも、かれの代表作の〈退屈な風景〉が採られています。この風景、具象とも抽…

スタンス

※ネタバレあります。『三丁目の夕日64』の映画について。 いろいろと練った話だとは思うのですが、吉岡秀隆演ずる茶川さんの文学への意識の問題を、少し考えてみたいのです。 というのは、前作で茶川さんは、〈芥川賞候補〉となる作品を発表しています。実際…

人情話

池井戸潤さんの『下町ロケット』(小学館、2010年)を読んでみました。苦境にたった東京大田区の中小の機械メーカーが、ロケットの部品の技術をテコに再起をはかるという話です。 もともと『週刊ポスト』誌での連載ということもあって、経営者の苦闘を〈正義…

媒体

昨日、ケーブルでやっていた映画、『彼女が水着にきがえたら』(1989年)を観たのですが、こういう現代劇は、なにげないところに、時代を感じさせるものがあります。 ここでは、原田知世演ずるヒロインの勤めるオフィスにワープロが机上においてあります。そ…

論点

ふと宮本・大西論争を思い出したので。 この論争のポイントは、『真空地帯』の評価ではありません。それに関しては大西巨人の言い分のほうがただしいのかもしれません。 問題はどこかというと、文学運動の責任はなにかということになるのです。 大西をはじめ…

100年

『明治文学全集』の『矢野龍渓集』からもう少し。 1902年に書かれた、「新社会」という作品があります。文学作品というよりも、未来の理想社会のありかたについて述べた論説めいたものです。自由競争社会の害悪を述べ、〈官〉ではなく〈公〉に生産をゆだねよ…

承認

井伏鱒二『太宰治』(筑摩書房、1989年)と、太宰治『走れメロス』(新潮文庫、2005年改版)です。 太宰の「富嶽百景」でわかるように、一時期井伏鱒二は太宰治のあれこれに面倒をみていました。郷里からの送金も、まず井伏家にきて、そこに太宰がとりに来る…

ぐらつかせる

吉本隆明、死す。とのことです。 NHKの朝6時のニュースでは、『プロレタリア文学の転向を批判した』と、けっこう公平な紹介をしていたように思いました。 たしかに、反共の立場で終始一貫していたひとだとは思います。晩年に『論座』だかで浅尾大輔さんと話…

熊の子

馬場孤蝶(1869-1940)『明治文壇の人々』(ウェッジ文庫、2009年、親本は1942年)です。 島崎藤村たちと『文学界』に拠り、樋口一葉とも親しかった馬場の回想記を集めたものです。多少の誤字などがあるのもある程度はご愛嬌かもしれません。 一葉のほかに馬…

急転換

柴田政義さんの『人民民主主義の史的展開』(全2冊、大月書店、1975年)です。 東欧5カ国(ポーランド、チェコスロヴァキア、ハンガリー、ルーマニア、ブルガリア)の、第二次大戦後に成立した政権の、成立過程を追ったものです。 今となっては、過去のもの…

ジャンルの特性

『新潮』の4月号で、震災後の動きに関してのアンケート特集があるのですが、その中で、よしもとばななさんが、萩尾望都さんの作品をあげています。たぶん、これだろうとおもうのが、『なのはな』(小学館)です。 表題作は、福島の事故で避難を余儀なくされ…

プライド

伊藤信吉『室生犀星』(集英社、2003年)です。 伊藤さんの最晩年の作で、最後は遺稿として残されたものを編集してまとめた部分もあります。 戦時下の犀星の仕事を分析して、詩と小説とのあいだの意識の差をさぐっています。詩は戦争協力とみなされてもしか…

どっちもねらう

大石又七さんの『ビキニ事件の真実』(みすず書房、2003年)です。 3月1日ということで読み始めたのですが、アメリカが当時第五福竜丸をスパイ呼ばわりしたりとか、日本側が政治決着を持ちかけたりとか、当時の支配層のあわてぶりも注目に値するのですが、船…

泣かせどころ

講談社から出たアンソロジー『それでも三月は、また』です。 多和田葉子さんや佐伯一麦さん、古川日出男さんや村上龍さんなどが、震災や原発事故に関しての創造をあつめたものです。いろいろと興味深いのですが、そのなかから重松清さんの「おまじない」とい…