2013-11-01から1ヶ月間の記事一覧

縁はあったが

辻井喬さんが亡くなられたそうです。『馬』さんからはやばやとコメントをいただきました。 昨年の中村真一郎の会でお顔を拝見したのが最後だったでしょうか。 宮本百合子に関する本で、いちおうは、共著者として名前が並んだことはありましたが、そのときに…

語れるもの

田山花袋『一兵卒の銃殺』(岩波文庫、1955年)です。 実話をもとにした作品らしいのですが、日露戦争にも従軍した現役兵士が、外出のときに帰営時間に遅れ、そのまま脱営して、最後には無銭で泊まった旅館を放火して全焼させ、それが露見して銃殺されるとい…

語られないもの

ついつい、日本映画専門チャンネルでやっていた、『ハワイ・マレー沖海戦』を見てしまいました。 特撮に関しては、それこそ、『巨神兵東京に現わる』につながる映像画面そのものですから、それはそれとして技術の伝承という側面からみればいいのですが、ああ…

大義

松浦玲さんの『横井小楠』(増補版、朝日選書、2000年)です。幕末の思想家、小楠の生涯をたどりながら、当時起こりえたかもしれない状況を考えます。 小楠の思想の根底には、指導者は聖人でなければならない、現任者がその任にたえないのなら、やめさせても…

パンデミック

なんとなくですが、中央公論社版『日本の文学』の志賀直哉の巻(1967年)をよみすすめています。 短編や随筆をあつめた巻で、「灰色の月」は載っていないのですが、けっこう幅広く収めています。 そのなかに、「雪の遠足」という作品があります。我孫子に住…

考えてみたけれど

本の話ではないのですが。 この間、ときどき用事があって土浦まで行っています。常磐線に乗るのですが、常磐線は東京圏の電車の中で、ほかの線区とはちがった扱いを受けています。たとえば、普通列車のグリーン車は、東海道線と高崎線や総武線では、進行方向…

違いの認識

埴谷雄高『欧州紀行』(中公新書、1972年)です。 辻邦生とのヨーロッパ旅行記で、いろいろな雑誌などに発表したものを新書にまとめるという、少し珍しい形式のものです。 そのなかで、ロンドンやミュンヘンで経験した、格差の問題があります。著者が酒場に…

予感をもつ

中上健次の『地の果て 至上の時』(新潮社、1983年)をずいぶん時間をかけましたが。 中上作品を読むのは久しぶりなので、人間関係をすっかり忘れていて、それはそれとして読んでいました。まあ、古本屋で初版が200円で出ていたから買ったという、動機も変だ…

一知半解

12月号の『群像』の連載、原武史さんの「皇后考」は、関東大震災のときのことを話題にしています。貞明皇后が震災の被災者たちの救援に尽力したとか、そうした話題が出るのですが、当時の「天譴」論に対して、皇后が地震に際して「神のいさめ」だと受け取れ…

それでもがんばる

北島万次さんの『秀吉の朝鮮侵略と民衆』(岩波新書、2012年)です。 李舜臣の記録などを参考にしながら、いわゆる文禄・慶長の役のときの朝鮮側の抵抗のようすを記しています。いろいろな地域で義兵がおこったことや、水軍が地の利を生かして戦ったこと、そ…

見ていたはずのもの

黒川創さんの『国境 完全版』(河出書房新社、旧版は1998年)です。 旧版に「暗殺者たち」発表後の文章を増補して再刊行したというかたちです。近代日本が、列島の外に出て行ったとき、そこにまつわる文学のことばのありようを、さまざまな局面から追いかけ…

必要なのに

服部英雄さんの『河原ノ者・非人・秀吉』(山川出版社、2012年)です。 「賎」とされた人の実態を史料からさぐるというのが、この本の本来ですが、刊行当時は豊臣秀頼の父親は誰なのかを論じた論考のほうに注目がいっていたようにも見えます。ただ、それをあ…