2011-12-01から1ヶ月間の記事一覧

きめつけ

瀬戸内寂聴『花芯』(2005年の講談社文庫版、解説は川上弘美)です。 平野謙が時評で〈子宮〉がどうのこうのといったので、作者はしばらく文芸誌に書けなかったとかいう因縁の作品ですが、読んでみると、そんな感じはありません。平野という批評家は、戦時中…

終局

ドラマ「坂の上の雲」完結です。 3年にわたって放映されてきて、秋山好古の死で終わりました。こうした、あまりに有名な作品をドラマ化することは、その内容以前に、原作からの距離の問題も、話を複雑にしているように思います。 渡辺謙によるナレーションに…

せつなさ

『現代沖縄文学作品選』(講談社文芸文庫)です。 沖縄をめぐる状況を描いた短編小説を集めていて、ヤマトとオキナワとの関係をどうしても考えさせられます。いろいろな形で、沖縄が抱えている問題があぶりだされていて、読み進めるのがつらくなるようなもの…

信じたものも

今日はルイ・アラゴンの命日だそうです。 フランスのレジスタンスというのも、最近はあまり人気がないようで、協力した人もたくさんいたという側面ばかり語られるようなところもあるようですが、いろいろな動向の中で、レジスタンスを選択したことの重みはき…

沈澱

『星につなぐ道』から少し連想しての話です。 作品内容とは関係ないことですが、主人公の赴任した地域は、京都市内へでるよりも、奈良市内に行くほうが簡単(一度汽車に乗ったら乗り換えなしで行ける。京都に行くには木津で乗り換え)なところなので、主人公…

軟着陸

ニュースを聞いてから、いっきに読んでしまった、『北朝鮮の指導体制と後継』(平井正志、岩波現代文庫)です。 昨年はじめて姿を現した三男坊が、いよいよひとびとをしょってたたなければなりません。その背景を、人事の動向や、社会の動きを軸に考察してい…

世界を広げる

柴垣文子さんの『星につなぐ道』(新日本出版社)です。 1966年から67年にかけての時期を作品の中に流れる時間として、京都の大学で学生生活を送った主人公が、府下の山間部(木津川流域の京都府南部の地域です)にある小学校に教師として赴任して、新しい世…

単純化

ドラマ「坂の上の雲」、いよいよ日本海海戦というところですが、李舜臣に祈った水兵も出てこないし、八重山でバルチック艦隊を発見して電報を打てる島までふねを漕いだ青年たちもでてきません。そういう意味での期待はずれという感があります。 いわゆる敵前…

距離をはかる

『岩波講座日本語 1』(1976年)です。 出た当時は高校生だったので、全巻買うというわけにもいかなかったか、この第1巻は図書館で借りた記憶があります。 この前、古本屋の一山100円のところにバラで出ていたので、買ってみたのです。 言語研究の歴史もそ…

仕事の転換

山下文男さんが亡くなられたそうです。 最近はすっかり津波史研究家として有名になられましたが、もともとは文化運動の活動家の方で、『共・創会談記』(新日本出版社、1980年)の著書もあります。その仕事を定年で第一線からしりぞいて、津波関係の研究に従…

変更

ドラマ『坂の上の雲』の旅順攻略の話。 半分いい加減に観ていたので、はっきりとはしなかったのですが、たしか、最初はロシア側も二百三高地の防御を軽んじていたのが、日本軍の攻撃をうけて、そこが弱点だと気づいて防御を強化したという流れではなかったか…

読み取り

直木孝次郎さんの『古代史の窓』(学生社、1982年)です。 短い論考を集めたものではありますが、大化の改新否定論への反論や、〈応神・仁徳同一説〉のような、直木さんの主張をうかがわせるものも含まれているので、わかりやすいものになっています。 歴史…

演出

きょうは漱石さんの命日だそうです。 集英社の『コレクション戦争と文学』に、漱石の「趣味の遺伝」が収録されています。この作品は、日露戦争に凱旋する将軍を駅頭で主人公が見かけるところから、戦死した友人へとおもいを馳せてゆくのですが、その場面が、…

伝達

武田徹さんの『原発報道とメディア』(講談社現代新書)です。 ちょうど、『民主文学』の1月号に、旭爪あかねさんの作品「ジャスミン」で、電子媒体による情報伝達の問題が取り上げられていたこともあって、情報の発信と伝達のことについて考えさせられます。…

肯定感

武者小路実篤『わしも知らない』(岩波文庫、1953年)です。 著者の大正時代の一幕物の戯曲集です。これに注目したのは、たしか共同印刷の争議(徳永直の『太陽のない街』のモデルとなった争議です)のときに、争議団の慰問に、〈トランク劇場〉が訪れたとき…

自壊

矢野龍渓の『経国美談』(岩波文庫、全2冊、1969年)を少しずつ進めているのですが、後編に、アテナイの話がでてきます。 デマゴギーのグループが現れて、『集会の会期を決めずに通年で行え』『集会に出席する貧民には日当を出せ』のようなスローガンをかか…

地ならし

木下英夫『松川事件と広津和郎』(同時代社、2003年)です。 著者(1942−2002)は長く松川事件の研究にたずさわり、その中で、広津和郎がどうして裁判の支援に全力を傾けたのかを、作品を通して研究しようとしていました。その試みは、広津の作品を年代順に…

初心

ドナルド・キーン『日本との出会い』(篠田一士訳、中公文庫、1975年)です。 昔の本なので、カバー見返しにあるキーンさんの写真が、とても若いのが何か奇妙な感じがしますが、1970年代初頭(この本、初出が書いていないので、正確な日付がわかりません。三…