2012-04-01から1ヶ月間の記事一覧

大著なら

『中野重治書簡集』(松下裕・竹内栄美子編、平凡社)が出ました。 筑摩の全集には、未公表の手紙は収められないという方針でしたので、こうしたものが出るのはいいことだと思います。 けれども、そういう状況下で出すのなら、全集に準じたものとして、もう…

根底

相沢一郎さんの『父の微笑』(本の泉社)です。 地方税を徴収する仕事が、どのように行われているのか、関西地方(神戸近辺ですね)を舞台にして描かれます。税収確保のためのノルマ達成が求められ、それは零細業者から絞りとるようなかたちで行われます。 …

いつであっても

小縄龍一さんの『夕張の郷』(民主文学館)です。 作者はながく夕張の炭鉱ではたらいていた方で、1981年の事故をきっかけに、本格的に書き始めたようです。 いろいろな時代の、夕張を中心にした北海道のさまざまな事情を書いたものがおさめられています。な…

相手

萩原遼さんの『民主主義よ君のもとへ』(新日本出版社、1986年)です。 今でこそ、北たたきの萩原さんですが、この本では、1980年代の韓国の状況をレポートしています。朴政権が崩壊して、全政権になるときどきの、軍事政権と民主化運動とのせめぎあいが記さ…

狭い世界

高見順「故旧忘れ得べき」(1935年の作品)です。 作者をプロレタリア文学崩れから、当時の人気作家にした作品だそうです。 1933年に、小林多喜二が殺され、佐野・鍋山が屈服し、宮本顕治が捕らえられるなかで、社会を変革しようとしていた運動は動きがとれ…

本来は

ふっと、『星の王子さま』(サン・テグジュペリ)を思い出してしまいました。 王子さまが、さまざまな星をめぐるところで、星を支配する人と、星を所有する人とがいたことです。 統治と所有とはちがうというのは、ここでもはっきりしているので、所有するこ…

感受性

富士川英郎『読書清遊』(講談社文芸文庫、2011年、文庫オリジナル編集)です。 もともとはドイツ文学の研究者ですが、1960年代後半からは江戸時代の漢詩に集中し、『江戸後期の詩人たち』(現在は平凡社の東洋文庫に収められています)や『菅茶山』(福武書…

違いがあって

三村太郎さんの『天文学の誕生』(岩波科学ライブラリー、2010年)です。 コペルニクスにイスラム科学がどう影響したかを概説したものなので、イスラムの考え方を確認するところにこの本の領域はあるようです。イスラム学がギリシアの科学を継承したのは、ペ…

別の道

若桑みどり『クアトロ・ラガッツィ』(集英社文庫、全2冊、2008年、親本は2003年)です。 何せ、文庫本で2冊合計1000ページを超える大作ですから、読みごたえはあります。 タイトルは「4人の少年」ということで、16世紀末に、日本からローマに派遣されたいわ…

束ねる

金曜日に、テレビで『紅の豚』をやっていましたが、あの作品は戦間期のイタリアが舞台なので、ファシストイタリアのマークをつけた飛行機も登場します。そのマークをみると、当時のイタリアのおかれていた微妙な立場も考えてしまいます。 第1次大戦のとき、…

ジグザクでも

高良勉さんの『沖縄生活誌』(岩波新書、2005年)です。 沖縄の生活と、その中で生きる著者の暮らしのあり方を、エッセイとしてつづります。 その中には、かつては子どもたちが豚や山羊の解体を手伝うことで、一人前のおとなになる訓練をしていたのが、本土…

優越

「コレクション戦争と文学」のシリーズ、『満洲の光と影』(集英社)です。 五族協和とかいいながら、実際は日本人がほかの民族を支配するのが当然という、〈満洲国〉のありようを描いた作品が収められています。最初が、朝鮮から流れてきた人びとが、現地の…

毒のある

乱橋創さんの『夢に堕ちて』(文芸社)です。 短編集ですが、一番最初の作品「紙になった男」がおもしろかったですね。人間が紙になって、誰かその場で一番〈声の大きな〉人がある色に変化すると、周囲もそれにつれて同じ色になっていくのですが、そうならな…

あらためて

『図書』4月号には、若尾政希さんの「天変地異の思想」という文章が載っています。以前、ここでも関東大震災のときの〈天譴論〉が、罰せられるべきは為政者なのに、無辜の人民大衆に罰がくだると説明しているのはおかしい、と指摘したことがありますが、それ…