2011-04-01から1ヶ月間の記事一覧

かんどころ

片木篤さんの『オリンピック・シティ東京』(河出ブックス、2010年)です。 1940年の実際は返上せざるを得なかった東京オリンピックと、1964年の東京オリンピックのときの、実施計画を軸に、都市としての東京の姿をさぐったものです。 その点では興味深いも…

疎開

鏡政子さんの『きつね小路』(民主文学館)です。 作者の経験に取材した作品を集めた、短編集です。作者は戦時中に学童集団疎開を経験し、1945年に女学校に入学してからも、一家で長野県に疎開したという体験があるようです。表題作も、長野に疎開中の話です…

掛け算だから

村上陽一郎さんの『人間にとって科学とは何か』(新潮選書、2010年)です。 このご時勢ですから、どうしても、科学者の社会的責任とか、リスクの回避の問題とかに、特化した読み方をしてしまうところですが、安全に関しての著者の考えには、なるほどと思うと…

面子

『時刻表』(JTB)の5月号をみました。 東北地方の路線は、不通区間が網掛けになっています。常磐線はいわきから亘理まで、大船渡線は気仙沼から盛まで、山田線は宮古から釜石まで、というように。 全線あみかけが、気仙沼線(前谷地から気仙沼)です。南三…

読み解く

『続日本後紀』(森田悌訳、講談社学術文庫全2冊、2010年)からです。 これは、9世紀前半の、仁明天皇の時代のことを書いてあるのですが、その中に伊豆諸島の神津島の噴火の記事があります。もちろん、当時の人びとの認識を文字にしたので、〈其形如伏鉢〉と…

突出

渡辺順三『評伝 石川啄木』(新興出版社、1955年)です。 新書判で、啄木の生涯をコンパクトにまとめています。著者はプロレタリア短歌の運動に携わり、戦後は新日本歌人協会結成の中心にいて、短歌運動を推進したひとですから、社会進歩の思想を抱くにいた…

早すぎる

ネットのニュースの速報で、田中好子さんが亡くなられたと聞きました。 最近(でもないか)では、「ちゅらさん」のお母さん役がありましたし、やはり朝ドラで伊藤蘭さんもお母さん役をやっていて、もうそういう時代なのかと、考えたこともありました。 それ…

幼いころから

田中貴子さんの『日本〈聖女〉論序説』(講談社学術文庫、2010年、親本は1996年)です。 日本の古典文学を引きながら、そこにこめられた、女性へのまなざしを論証しています。男性の目から女性が〈聖なるもの〉とされることは、それを〈ひきはがす〉欲求も同…

時のたつまま

『極東セレナーデ』の話を、もう少し。 1985年から86年が作品の中を流れる時間なのですが、やはりそこには、25年という差を感じるところもあります。 主人公が主演をした映画が公開されるとき、その観客動員の判断基準のなかに、〈立ち見が出た〉というのが…

併走

小林信彦さんの『道化師のためのレッスン』(白夜書房、1984年)です。 たまたま、土曜の朝のNHKで、谷啓の映像が流れていた直後だったので、ここでも触れられていて、いろいろと考えてしまいました。『極東セレナーデ』(1986年から87年にかけて朝日新聞に…

つまみ取り

子安宣邦さんの『江戸思想史講義』(岩波現代文庫、2010年、親本は1998年)です。 江戸時代の思想家の実情を、なるべく先入観抜きで考えようというのが基本姿勢にあります。というのも、ここで紹介されている例として、中江藤樹が「近江聖人」として有名にな…

百回忌

きょうは石川啄木の命日だそうです。1912年に亡くなったのですから、仏教的な数え方だと、ちょうど百回忌にあたるわけですね。 啄木の詩でもと、岩波文庫の『啄木詩集』(1991年)など、めくってみると、初期のころの作品に、日露戦争のときに、旅順港外で日…

適材適所

高橋伸夫さんの『虚妄の成果主義』(ちくま文庫、2010年、親本は2004年)です。 人が働くには、〈成果に金銭〉で動機付けをするのではなく、〈成果には次の仕事〉で報いるのが、個人にとっても企業にとっても将来をみすえた選択になると、きわめてわかりやす…

締切日

文芸誌のなかで、今回の地震を扱ったものは、やはり連載か、短い論考に類するものです。 『すばる』の椎名誠さんの話は、お孫さんたちと沖縄へ向かうというものですし、『群像』の高橋源一郎さんのものは、大学生に向かって〈正しさ〉にまきこまれないことを…

そんなものか

『すばる』4月号に、井上ひさしに関する座談会が掲載されています。出席者は今村忠純・島村輝・成田龍一・小森陽一の4人です。 その中で、最晩年の作『一週間』について語られているところで、小森さんはこう発言します。 レーニンが初心を裏切ったことを示…

ここで跳ぶ

新船海三郎さんの『文学の意思、批評の言葉』(本の泉社)です。 『民主文学』などに書いた評論をあつめた論集で、この10年ほどの民主主義文学の動きが、同時代のものとしてとらえられています。 前にも何度も書きましたが、たとえば講談社文芸文庫の〈戦後…

否定の否定

石川日出志さんの『農耕社会の成立』(岩波新書、2010年)です。 日本古代史のシリーズで、旧石器時代から弥生時代までの状況をコンパクトにまとめています。 古代史の分野は、ある意味誰でも基本の史料を入手して考えることができるので、いろいろな説が出…

萌芽

『金子洋文短編小説選』(冬至書房、2009年)です。 金子洋文(1894-1985)は、1920年代のプロレタリア文学運動の先駆的な雑誌『種蒔く人』の中心人物の一人で、その後は『文芸戦線』に拠って活動されたひとです。 この作品集は、かれの1920年代の作品を中心…