2008-09-01から1ヶ月間の記事一覧

重層的

赤坂憲雄さんの対談集、『東北ルネサンス』(小学館文庫、2007年、親本は2003年)です。東北6県と新潟とで、赤坂さんが様々な方と、東北地方の歴史や風土について対談したものを集めたものです。 縄文時代は、北海道から沖縄まで、列島がいちおう縄文文化に…

被害者

河出書房新社から、『小林多喜二と「蟹工船」』が出ました。 昨日はああ書きましたが、とりあえず、こうした本が出ることはよいことです。 赤木智弘さんが、「蟹工船」の浅川は正社員だから、正社員が非正規をいじめるという自分の論理は間違っていないと主…

とりあえず、快挙

角川文庫の新刊で、葉山嘉樹『セメント樽の中の手紙』が刊行されました。 前にも書きましたが、葉山の文庫は1970年代の新日本文庫での『海に生くる人々』以来ですし、今回のような短編集となると、岩波で昔出ていたものがあったそうですが、それ以来だと思い…

戸籍

『しんぶん赤旗』に連載されていた、北原耕也さんの「さすらいびとのフーガ」が完結しました。現代のホームレスの実態にきりこんだ作品です。 ところで、これはご存知の方にまじめにお聞きしたいのですが、作中に林文泰くんという青年が登場します。彼は親を…

王様は裸

サルトルのものを少しかじっているのですが、(付け焼刃です)その中での雑感。 『嘔吐』の新版(人文書院、1994年)の訳者、白井浩司さんの「あとがき」は、戦後のサルトルの動向に対して、とても厳しい評価をくだしています。たしかに、ソ連に対する評価の…

無差別

宮下誠さんの『ゲルニカ』(光文社新書)です。 ピカソが、この絵に対してつくった多くの習作も含めて紹介して、「ゲルニカ」の意義を考えるという、新書にしてはけっこうぜいたくな本です。 空爆というものが、地上の戦闘よりも理不尽さを感じさせるのは、…

過渡期

沢木耕太郎さんの『冠』(朝日文庫、親本は2004年)です。 アトランタオリンピックのときの、沢木さんの取材記というかたちで、オリンピックの現状を探ったものです。 1996年といえば、ちょうど「えと」の一回りになるわけですが、オリンピックそのものも、…

適語

『生命とは何か』(シュレーディンガー、岡小天、鎮目恭夫訳、岩波文庫、原著は1944年、親本は1951年)です。 生物学を、遺伝の側面から、物理学や化学の分野の知見で説明していくという著者の考え方は、生命現象を科学的に分析するときの導きのひとつになる…

残酷

天野郁夫さんの『増補 試験の社会史』(平凡社ライブラリー、2007年、親本は1983年)です。 明治時代の日本の教育の中で、「試験」がどのような意味をもったのかを、学校の進級のなかでの問題や、医師や弁護士などの資格とのかかわりで考察しています。日本…

踏み出していく

なかむらみのるさんの『草の根の九条』(新日本出版社)です。 なかむらさんは新潟県阿賀野市で「九条の会」の運動をつづけているのですが、その地では、自民党も元社会党も共産党も一緒になって、「九条の会」の活動がおこなわれているというのです。この本…

向き合う

文京洙さんの『済州島四・三事件』(平凡社)です。 1948年4月3日に起きた、済州島での武装蜂起事件と、その後の動きを追いかけています。4月3日の蜂起自体は、警察や右翼の人たちへの攻撃で、警察4人、右翼など8人、蜂起した側から2人、計14人の死亡者だと…

けっこう大切

メモです。 スタニラフスキーの『芸術におけるわが生涯』(岩波文庫)のなかで、モスクワ芸術座がドイツにはじめて国外公演にいったときに、現地の批評家から好感をもたれたという記述がありました。そこに書いてあったことですが、ドイツでは、劇評家の最初…

ひとつひとつ

旭爪あかねさんが『女性のひろば』に連載していた「月光浴」が完結しました。 「稲の旋律」「風車の見える丘」に続く、三部作の三つ目に当たる作品で、千華さんを中心にして書いています。 千華さんは、「稲の旋律」の時点では、半分以上ひきこもりの状態に…

置き換え

今年は源氏物語1000年とかいうので、『新潮』10月号では、源氏物語の特集をしています。 そのなかで、何人かの作家に、今風に源氏をアレンジしてもらうという企画があって、その中の「葵」の巻を金原ひとみさんがやっています。 この組み合わせ自身が゛一瞬…

後付け

子安宣邦さんの『「近代の超克」とは何か』(青土社)です。 日中戦争から、対米英開戦にかけての、日本の思想動向を考えながら、現代のアジアの問題にもつなげていくという、けっこう大きな視野をもったものです。 中国との戦争が、「事変」から実質的な「…

さりげなく

『文学界』10月号の、佐藤優さんと伊藤潤二さんの対談の中に、葉山嘉樹の話題が出ています。「蟹工船」は「海に生くる人々」のパクリともいえるとか、いろいろとあるのですが、その中で、佐藤さんがいいます。「プロレタリア文学が日本共産党系と非共産党系…

条件がちがう

少し一昨日の続きを。 きょうの報道によれば、精密検査でも、〈陽性〉の結果が出たということです。そうなると、島村氏のいうような、麻の文化がどうのこうのというレベルの問題ではなくなります。そこに生じるのは、反ドーピングのための、スポーツ界の国際…

語れるもの

グラスの続きですが。 『自明のことについて』(集英社、高本研一・宮原朗訳、1970年、原本は1968年)です。『玉ねぎ』を買ったあとでみつけたのですが、グラスの政治的な発言が主に収録されています。1965年の連邦議会の選挙に際して、グラスはSPD応援のた…

ひいきにしても

永原慶二さんの遺著『苧麻・絹・木綿の社会史』(吉川弘文館、2004年)です。もともとは中公新書の『新 木綿以前のこと』(1990年)を増補する中で生まれた本なのですが、準備中に永原さんがなくなってしまい、現在の形でまとめられました。そういえば、この…

敗戦国

ギュンター・グラス『玉ねぎの皮をむきながら』(依岡隆児訳、集英社、原本は2006年)です。 グラスが武装親衛隊に所属していたという「告白」が話題になった作品ですが、こうして通読してみると、1927年生まれのひとりの少年が、どのように戦時下を生きたか…

かけ橋

メモですが。 小川洋子さんの『科学の扉をノックする』(集英社)です。 書き下ろしなのか、どこかの雑誌に掲載したものかがよくわからないのが残念ですが、著者が現代科学の最先端の研究者のひとたちのところを訪問して、そこでの見聞をまとめたものです。 …