2006-09-01から1ヶ月間の記事一覧

声は届くのか

宮城肇(みやしろ はじめ)さんの、『さまよえる子ら』(光陽出版社)です。 宮城さんは、長く中学校の教師を勤めながら、小説を書いている方で、この作品集は、『民主文学』に掲載された作品のほかに、文学教室で書いたものなども収録されています。 描かれてい…

碩鼠碩鼠

『満州 楽土に消ゆ』(神奈川新聞社、2005年、ISBN4876453667)です。 山形県出身の少年が、満蒙開拓義勇軍に志願して、開拓地に行き、そこで召集されて憲兵になり、終戦のときに、高官や家族を引き揚げさせる列車の警備役として日本に帰還し、定年後に、「中…

丁種不合格

先日の記事は少し単純に言い過ぎてはいると思います。エンゲルスの手紙についてはもう少しお待ちください。前回からの引き続きで、やはり〈日本近代詩人選〉のシリーズから、宇佐美斉さんの『立原道造』(1982年)を読みました。あわせて、中村真一郎さんの『…

議論のとっかかり

多喜二の特集のなかの、祖父江昭二さんの「小林多喜二と社会主義」という文章や、北川透さんの『中野重治』(近代日本詩人選、筑摩書房、1981年)を読んでいて、マルクスやエンゲルスの文学に関する言及に対して、どう考えればいいのかについて、少し頭をつか…

微妙な差異

『昭和大相撲騒動記』(大山真人、平凡社新書)です。 著者は相撲を専門に追求しているわけではなくて、自分の出身の山形県からでた、昭和初期の関脇力士の出羽ヶ嶽について書いたことが、この本につながったようです。 本の内容は、1932年におきた力士の争議…

忘れてはいけない日

9月18日は、もちろん「柳条湖事件」の日です。 そういうわけなので、〈満洲〉に関するものでもと思ったのですが、タイミングが悪くて。 中村真一郎さんの『建礼門院右京大夫』(日本詩人選、筑摩書房、1972年)を読んでいたのです。清盛の娘で高倉天皇に入内し…

ネーミングの寓意

浅尾大輔さんの「ソウル」(『民主文学』10月号)です。 作者を思わせるような、35歳独身で、渦潮社の文学賞を受賞した経験ある人物の視点から、現在の若者の抱えている状況や、社会の中で傷ついている人々を描いた作品で、久しぶりの登場です。 タイトル自体…

人材の配置

飛鳥井雅道さんの『明治大帝』(ちくまライブラリー、1989年)です。 鴎外のあとこの本になったのはなかば偶然ですが、乃木将軍と鴎外だとか、少し関連のあることもでてきました。 で、乃木将軍ですが、軍事行動の指導者としてはまったくの無能であったという…

韜晦なのかもしれない

尾形仂さんの『鴎外の歴史小説』(岩波現代文庫)です。 親本は1979年に出たのですが、森鴎外の歴史小説の参考文献を探究しながら、鴎外の心境を忖度した論文集です。 中でも出色なのは、「大塩平八郎」と「堺事件」との作品に、大逆事件とのかかわりをみる論…

スタートライン

『政治小説 坪内逍遥 二葉亭四迷 集』(現代日本文学大系、筑摩書房、1971年)です。 最近は文学全集はすっかりはやらなくなって、古本屋で1冊100円という値段で並ぶことも珍しくなくなりました。実は、この本も、そうして入手したのです。 ここで「政治小…

啓蒙的ではあっても

霜多正次さんの『沖縄島』です。 霜多さんは、1950年代から70年代にかけて活躍された、沖縄出身の小説家で、この『沖縄島』という作品は、1956年に書かれています。 当時の沖縄は、米軍の支配下にあって、まだ本土復帰のめどもたっていない時代だったのです…

記念号は分厚い

『群像』は創刊60周年記念号。なので、短編特集ということで、分厚いものになっています。いっぺんに全部読めないので、少し拾い読み状態ですが、紹介しましょう。 李恢成さんの「冷蔵庫」は、作者が『アリランの歌』の共著者、ニム・ウェールズさんに会っ…

残るもの、残らないもの

川本三郎さんの『日本映画を歩く』(中公文庫)です。 もともとは、交通公社の出していた『旅』という雑誌に、1998年あたりに連載されていた、地方の映画のロケの舞台となったところを探訪した紀行です。 親本が出てからも十年弱ということなので、その微妙…

私怨だとまでは言いたくないが

粟屋憲太郎さんの『東京裁判への道』上下(講談社選書メチエ)です。 アメリカのほうにあったという、東京裁判開始前の、いろいろな容疑者の尋問記録などを調査して、誰が被告となり、誰が訴追を免れていったのかを検討したものです。BC兵器の問題がなぜ回避さ…

何をいいたいのか

『解釈と鑑賞』の多喜二の話をもう少し。 じっくり読んだわけではないのだが、どうもよくわからないのが、「一九二八年三月十五日」をあつかった土屋忍という人の文章である。 暴露小説として読むべきではないという、全体の趣旨にはとくに問題があるとは思…

今だからこそ

http://f-mirai.at.webry.info/ というブログを見ました。関西方面の方らしいのですが、小林多喜二について語っているブログです。 そこで、この前発行されたばかりの、『国文学 解釈と鑑賞』の別冊、〈「文学」としての小林多喜二〉についての話題が広まっ…