多元的であること

『東日本と西日本』(洋泉社MC新書)です。
1960年から61年にかけて、『日本読書新聞』に掲載された諸家の論考を、1981年に日本エディタースクールが出版したものを、新書判で再刊したものです。洋泉社で気づかれる方もいらっしゃるでしょうが、その刊行時の解説が網野善彦さんだったということが、今回の再刊につながったということになるのでしょう。
網野さんの『日本中世の民衆像』が岩波新書で出たのがたしか1980年で、このころから中世史が一般的に注目されるようになったのではないかと、ひそかに思っています。それは、それこそアニメ映画『もののけ姫』の世界にまでつながっていくのですが、ある意味動乱の時代だからこそ、そこにはたらく歴史の流れが、興味をひくのではないかとも思います。
網野さんのほかにも、黒田敏雄(『寺社勢力』岩波新書)さんや永原慶二さん(『新木綿以前のこと』中公新書)、石井進さん(『鎌倉武士の実像』平凡社ライブラリー)など、みんなもうなくなられてしまったけれど、中世日本をさまざまな観点から追求しようとした著作を一般書として読むことができたのは、ありがたいことだったと思います。平安時代も、江戸時代も、ある意味では中央集権なのに対して、中世は京都と鎌倉の関係とか、その後も九州だとか大内氏だとかいうような、いろいろな視点を設定できるということが、関心をもちやすいのかもしれません。

ただ、この『東日本と西日本』それ自体は、問題提起の書であるというふうにみるのがいいでしょう。ここで提出されたそれぞれの論点を、個々の論者の著作のなかで深めていくほうがいいようです。とくに最後のほうの、文学者と風土の関係などは。