2014-02-01から1ヶ月間の記事一覧

王道楽土

佐多稲子『重き流れに』(講談社、1970年)です。 日露戦争直後に満洲に渡り、満鉄社員からはじまってその後満州の産業にかかわった男性の妻を主人公にした長編作品です。約40年間の満州での生活のなかで、主人公は夫の仕事につきながらも、子育てをし、夫の…

玄人ということ

『右遠俊郎文学論集成』(新船海三郎編・発行)です。 昨年亡くなられた右遠さんの単行本未収録の評論などを集めたものです。主として『民主文学』掲載のものが多いのですが、それ以外にもさまざまな紙誌に掲載されたものもあります。 文学における専門性と…

先取り

桐生悠々『畜生道の地球』(中公文庫、1989年、親本は1952年)です。 1933年の「関東防空大演習を嗤う」をはじめとして、1930年代に彼が刊行していた雑誌『他山の石』に載せたコラムを集めたものです。 防空演習が必要になるとは、「敵」の飛行機が東京を襲…

かつがれる

森茂暁さんの『闇の歴史、後南朝』(角川ソフィア文庫、2013年、親本は1997年)です。 南北朝が合一したあとの、南朝の末裔たちの動きを追ったものです。たしか、むかし花田清輝が「室町小説集」という作品のなかで、この後南朝にふれていたと思いますが、そ…

ふたまわり

『東学農民戦争と日本』(中塚明、井上勝生、朴孟洙、高文研、2013年)です。 日清戦争の口実にされた東学農民軍を、日本軍がどのように弾圧したのかを、当時の記録や現在の調査にもとづいて明らかにしようとしたものです。 朝鮮の民衆運動にしても、台湾の…

大げさかもしれないが

短編集『光は大地を照らす』(胡万春、伊藤克訳、新日本出版社、1963年、原著は1961年)です。 〈中国革命文学選〉なるシリーズが1960年代前半にでていたのですが、そのなかの1冊です。著者(1929−1998)は浙江省出身で、鉄鋼生産の労働に携わりながら小説を…

トリックスター

アウエハント『鯰絵』(小松和彦ほか訳、岩波文庫、2013年、親本は1979年、原著は1964年)です。 安政江戸地震のあとに発行された鯰絵と呼ばれる刷り物を題材にして、鯰の持つ意味を探ったオランダ人研究者の本の翻訳です。 鹿島の要石に抑えつけられている…

闇の中にも

亀山郁夫さんの『あまりにロシア的な。』(文春文庫、2013年、親本は1999年)です。 著者が1994年にロシアに長期滞在したときの経験を中軸にして、その中に1984年に当時のソ連当局から拘束された事件の記憶も交えた、エッセイ集というものです。 当時の、ソ…