2009-03-01から1ヶ月間の記事一覧

シンプルに

三浦光則さんの『小林多喜二と宮本百合子』(民主文学館、発売は光陽出版社)です。 タイトルもきわめてシンプルですが、内容も、なにやら西洋じこみのカタカナ語を使うでもなく、また先人の至らないところを声高にののしるでもなく、すなおに対象に向き合お…

花鳥風月

講談社文芸文庫の『柳田國男文芸論集』(2005年、文庫新編集)です。 柳田は、田山花袋と仲がよく、彼の「重右衛門の最後」を高く評価していて、そのために逆に、「蒲団」のような、作家の身辺記録のような作品に対しては、とても辛い評価をくだしたようです…

学ばない

荒井信一さんの『空爆の歴史』(岩波新書、2008年)です。 空爆によって相手を屈服させるという戦争理論の出発から、現在のクラスター爆弾をめぐる問題まで、新書というコンパクトな形でまとめたものです。 最初から、空爆というのは、ほぼ無差別に攻撃する…

使いたくない

特に、何か具体的にあるのではないのですが、使うと「便利」な魔法のことばがあるように感じます。 それは、「時代の制約」ということばです。 対象が自分の理想どおりでないけれど、それでも何がしかは評価したいときに、よくみることばです。でも、逆に、…

暮らす場所

絲山秋子さんの『北緯14度』(講談社、2008年)です。 著者の、西アフリカ、セネガルに行ったときの記録的な作品です。 こうした作品では、どうしても主人公は旅行者でしかありません。その土地でお金を稼いでいるのではなく、別の場所で仕事をして、その結…

消えはしない

平凡社が、『中国古典文学大系』全60巻を出したのは、1967年から1975年にかけてでした。今から思えば、「文化大革命」の真っ最中ということになります。 そうした激動の中ですから、もちろん、それによってたとえば『水滸伝』の翻訳そのものが変わるわけはな…

知と力

中村邦光さんの『江戸科学史話』(創風社、2007年)です。 著者は、江戸時代の日本の科学は、決して一路前進というものではなく、停滞の時期があったと論証しています。江戸時代の中でも、18世紀の中ごろには、自然科学はかえって停滞していたというのです。…

構築・整備

ちょっと本の話からははずれるのですが。 ニュースを見ていたら、今日から、本四公団(だった)3本の橋と、東京湾横断道路とが、料金が安くなったのだそうです。 もちろん、道路というのは、公共性の高いものですから、本来は国が整備していくのが筋なのでし…

観察力

『北槎聞略』(岩波文庫、亀井高孝校訂、1990年、親本は1965年)です。 18世紀末、日本からロシアに漂流した大黒屋光太夫が帰国したとき、幕府の命をうけて、当時蘭学者として名の知れていた桂川甫周が光太夫から聞き書きした内容をまとめたものです。当時は…

ひさしぶり

浅尾大輔さんの「ブルーシート」(『小説トリッパー』春号)です。 浅尾さんの小説は、たしか『学習の友』に載せた、「チェレンコフの光」以来ではなかったでしょうか。すると、かれこれ2年たつことになります。 最近は、『ロスジェネ』の仕事や、各地での講…

過渡期

中西進・辰巳正明編『郷歌 注解と研究』(新典社、2008年)です。 〈郷歌〉(ひゃんが)というのは、韓国の古代、新羅時代にうたわれた歌謡で、13世紀に編纂された『三国遺事』という本に収められているのが多いようです。それは、まだハングルが発明される…

贅沢は敵だ

阿部彩さんの『子どもの貧困』(岩波新書、2008年)です。 「格差」ではなく、「貧困」が問題だという意識は、このところ少しずつではあっても、認識が共有されつつあるようですが、それがこどもの世界でどうなっているのかを、いろいろな調査を手堅く重ねな…

熱意のあかし

原健一さんの『葉山嘉樹への旅』(かもがわ出版)です。 原さんが、葉山の夫人と知り合ってから、葉山作品を通して、戦時中の生活などに思いをいたすという、作家の生涯を探究する過程を描いた、小説的な作品です。 ですから、葉山を探ろうとする主人公の姿…

余計な一言

オックスフォードの多喜二シンポの本を手にいれました。 和文タイトルは『多喜二の視点から見た〈身体〉〈地域〉〈教育〉』で、発行は小樽商科大学出版会です。 じっくりと見ているわけではないのですが、北村隆志さんの報告をみて、ちょっとびっくりしまし…

嫌われる

アジア・アフリカ作家会議のことをこの前調べてみたのですが、そのときの記事の中に、こんなことを発見しました。 1974年7月号の『新日本文学』に、新里金福という方が、「日本アジア・アフリカ作家会議」結成総会報告の文章を書いています。5月25日に東京渋…

まとまらないけれど

本屋の店頭で、鈴木邦男さんが小林多喜二について書いた本を見ました。たしか出版社はデータハウスです。 さすがに、買おうとは思わなかったので、流し見をしたのですが、筆坂秀世さんとの対談など、けっこういろいろと考えているのだというつくりではありま…

逆説的だが

ヴァージニア・ウルフ『自分だけの部屋』(川本静子訳、みすず書房、1988年、原本は1929年)です。 彼女は、女性が小説を書くためには、「年収500ポンドと、鍵のかかる部屋」が必要だと、ここで述べます。 もちろんそれは、金持ちでゆとりのある人が書く資格…

したくない連想

愛知県のほうで、古紙再生だかの工場で、2月末までそこでアルバイトで働いていた労働者の方が、圧縮された古紙にまきこまれて死んでいたというニュースを聞きました。 どうしても、葉山嘉樹の「セメント樽の中の手紙」の世界を思い出してしまいました。 いや…

不公平

一ノ瀬俊也さんの、『皇軍兵士の日常生活』(講談社現代新書)です。 当時の文書などを使って、軍の中のいろいろな場面での、不公平な部分などを摘出しています。学歴によって、兵卒から下士官への昇進の時間が違ってきたり、戦場にあっても、将校と兵士の食…