2009-01-01から1ヶ月間の記事一覧

これも変化か

島村輝さんのブログに、大江健三郎さんが、北京での講演で、小林多喜二について言及したという記事がありました。 大江さんといえば、中野重治や佐多稲子に関しては、いろいろな場所で書いたり語ったりしているのですが、小林多喜二や宮本百合子については、…

美しさとは逆に

アンリ・バルビュスの『砲火』(岩波文庫、田辺貞之助訳、1956年、原本は1916年)です。 著者の従軍体験をもとに書いた作品です。著者は、第一次世界大戦開戦時、すでに40歳を越していたというのですが、志願兵として従軍し、前線で戦いました。 戦争には、…

誇りのありか

吉行淳之介『私の文学放浪』(講談社文庫、1976年、親本は1965年)です。 著者の文学的出発から、芥川賞受賞をへて、書かれた当時の1964年あたりまでの回想記です。いわゆる「第三の新人」の人たちの最初の頃の印象なども書かれています。 著者は、いわゆる…

おわびと自戒

人づてですが、昨年12月31日の記事に関して、「未来」さんが、 〈自分は佐高氏の行動には批判をもっているし、〈沈黙〉で佐高氏の行動を容認するつもりもない〉 という趣旨のことを発言していたと聞きました。とすると、12月31日の記事は、論の前提が誤って…

バブルのはて

松井孝典さんの『地球進化論』(新版、岩波現代文庫、2008年、親本は1988年)です。 地球がどのようにして現在の姿になっていったのかを、太陽系のほかの惑星や衛星のようすと比較しながら書いたものです。 初版のときとは、冥王星の扱いだの、「恐竜絶滅」…

選んでみると

昨日の続きです。 自分なりの「芥川賞を取らなかった名作」を選んでみましょう。 条件は、佐伯さんの本と同じく、「候補作」で、「その後芥川賞も直木賞も取ってない」人の作品を一つということにしましょう。 そうしないと、たとえば窪田精さんのように、あ…

ふるいにかける

佐伯一麦さんの『芥川賞を取らなかった名作たち』(朝日新書)です。 佐伯さんの住む仙台で行った連続講座をもとにしたということで、選んだ作品に対して、佐伯さんの意見だけでなく、参加者の感想なども含めて文字にされています。 対象とされたものは、芥…

率直に

ノーマ・フィールドさんの『小林多喜二』(岩波新書)です。 プロローグとエピローグが、多喜二への語りかけという形式の文体にしていて、著者がどういう意識で小林多喜二に向かおうとしているのかがよくわかります。 そして、エピローグのなかで、こう書き…

悠々と

尾崎一雄さん(1899−1983)の『単線の駅』(講談社文芸文庫、2008年、親本は1976年)です。 表題は、地元下曽我の駅が、御殿場線という、戦前は東海道本線だったのが、1934年に丹那トンネルが開通して、熱海から三島まで直通できるようになってからは、ロー…

西と東

土曜深夜というか、日曜早朝というか、NHK-BS2で映画『グッパイ・レーニン』をやっていて、以前ケーブルで見たことがあったので、ストーリーの展開の大筋は観ていたのだが、あらためて、観始めるとついつい最後までみてしまいました。 ベルリンの壁が打破さ…

おばかな話

この前、薮内清さんの『中国古代の科学』(講談社学術文庫、2004年)を持っていたにもかかわらず買ってしまうということをしてしまったのですが、昨日は、文庫増補版を持っていた黒田日出男さんの『絵画史料で歴史を読む』(筑摩書房)の親本を買ってしまい…

最新の情報

『孫ひん(月+賓)兵法』(ちくま学芸文庫、金谷治訳注、2008年、親本は1976年、原本は1975年)です。 『史記』を読んだことのある方はご存知かと思いますが、「孫子」と呼ばれる人物は、実は二人います。ひとりは、春秋時代に呉の国に仕えた孫武で、もうひ…

設定の妙

芥川賞受賞作、津村記久子さんの「ポトスライムの舟」(『群像』2008年11月号)です。 雑誌の時には実は放っておいたので、受賞と聞いてあわてて読んだのです。 主人公は奈良に住む30歳の女性。母親と同居しています。化粧品会社の工場に、契約社員として勤…

内を向く

ルース・ベネディクト『菊と刀』(角田安正訳、光文社古典新訳文庫、2008年、原本は1946年)です。 アメリカ人による日本研究の古典ともいえるものですが、これが新訳で出たのは、ある意味タイムリーなのかもしれません。 というのも、『恥』に注目する著者の…

言い分と節度

ジョージ・オーウェル『カタロニア讃歌』(岩波文庫、都築忠七訳、1992年、原著は1938年)です。 著者は、「トロツキスト」と呼ばれた、POUMの部隊に所属してスペイン戦争をたたかいました。そのため、戦闘の実態と、そのあとに来た共和国政府によるPOUMへの…

ここから先は

『世界』2月号には、荻野富士夫さんの「なぜ小林多喜二は虐殺されたのか」という論考が載っています。 ここで、荻野さんは、多喜二が『文化の国家管理』という支配の構造に着目していたこと、それを通して、『「軍事的=警察的反動支配」の全的把握』にすす…

いやな連想

夜更け、というか今早朝というか、NHKの地上波で、BSの再放送なのでしょうか、どこかのライブハウスを借りて、お客さんを入れて収録したアメリカンポップスの番組をやっていました。 それはそれでいいのですが、その中で、サーカス(だったと思う)というグ…

冷静さ

『文学界』2月号に、ドナルド・キーンさんの「日本人の戦争」という評論があります。いろいろあっておもしろいのですが、その中で、戦後の占領軍による検閲を、「理不尽」とか「偏狭」ということがあったと書いています。キーンさんは、軍の関係で日本語を習得し…

設定の重み

長山高之さんの『夜霧のナロー』(新日本出版社、1982年)です。 表題作は、1974年に『文化評論』に掲載されたもので、その年の文芸作品募集に応募したものだそうです。あと、「夏の日に」という長編も併載されていて、こちらは1981年に『民主文学』に連載さ…

歴史の流れのなかで

山本秀夫さんの『橘樸』(中公叢書、1977年)です。 橘樸(たちばな・しらき、1881‐1945)は、両大戦間の日本の中国に対する対応をどうすべきかについて、石原莞爾とはちがった角度で考え続けたジャーナリストです。もちろん、東亜のなかで、日本が指導的な…

お世話になる

『ロスジェネ』第2号(かもがわ出版、2008年)から少し。 フランスの方が、日本のいわゆる「おたく」(このことばをカタカナで書きたくはないので)文化の底に流れる反抗精神について書いています。 最近、コンテンツとやらで、政府が産業としてマンガ系のも…

くりごとではあろうが。

おとといの続きをもう少し。 ふたりの意見が、対立しているのではないと思います。 不破さんの意見は、すっきりしていてわかりやすい。多喜二はここまで書こうとしたのだろうというところに焦点をあてています。 けれども、それが実現したとして、文学作品と…

どこまで進む

ちょっと気になっていたので、至文堂から2006年に出た、『「文学」としての小林多喜二』の中の、島村輝さんの『「党生活者」論序説』をめくっていたのですが、〈笠原問題〉について、島村さんはこう書いています。(236ページ下段)主人公であり語り手でもあ…

さて、今年は

新年になりました。 民主主義文学や、プロレタリア文学を、正しく日本文学の中に位置づけ、日本の文学そのものを変えてゆくために努力したいと思います。 今年もよろしくおねがいします。