2008-06-01から1ヶ月間の記事一覧

適性

林芙美子『風琴と魚の町・清貧の書』(新潮文庫、改版2007年)です。 『放浪記』以後の戦前の作品を集めたもので、まだ中国戦線へと行く前の、穏やかな時代の作品を集めているのですが、そうした、社会全体ががさがさする以前の作品ということもあって、書か…

損をする側

津上忠さんの『不戦病状録抄』(本の泉社)です。 津上さんの小説作品と、最初の戯曲「乞食(かんじん)の歌」などの戯曲、それとエッセイ「続・のべつ幕なし」などを一冊に収めた、ミニ選集というおもむきです。 演劇というのは、決まった時間に、決まった…

記憶

「その時歴史が動いた」は大坂夏の陣屏風の話。 話によると、黒田長政が描かせたというらしいのですが、その屏風には、いくさの中の民衆の状態が克明に描かれているというのです。それは、逃げまどう人びとであったり、雑兵たちの暴行・略奪・拐帯などの残虐…

搦め手

大庭みな子『浦島草』(講談社、1977年)です。 3か月ほど前のことですが、『群像』に初期作品として、作者が学生時代に書いたガリ版刷りの雑誌に発表した「痣」という作品が掲載されました。そのとき、夫の大庭利雄さんが、作者の被爆体験をベースにした作…

東西

上田篤さんの『庭と日本人』(新潮新書)です。 京都かいわいの庭を題材にして、日本人の過去のありようをさぐったものです。 どこそこの寺にはだれそれの作った庭が現存しているとか聞くと、何百年という時間がつい最近のように感じてしまうというのも、考…

志願

水野直樹さんの『創氏改名』(岩波新書)です。 日本が朝鮮を植民地にしていたときに、朝鮮民族の風習であった「姓」は一生変らないというシステムを、家族が一つの「氏」を名乗るという日本風に変えさせようとした政策を、当時の史料などをつかってあとづけ…

心から

永井潔さんが、光陽出版社から、たてつづけに2冊本を出しました。『戦後文化運動・一つの軌跡』『ごまめ(魚ヘンに〈単〉の旧字体)の呟き その二』です。永井さんの短い文章を集めたもので、戦後まもなくのころから、最近のものまで、幅広く収録されています…

そうであっても

イリヤ・エレンブルグ『人は生きることを望んでいる』(川上洸訳、新評論社、1954年)です。 著者の、戦後の平和問題に関する文章を集めたもので、1953年にモスクワで出た本を中心にまとめています。 まだ、「スターリン批判」より前の時代ですし、当時の「…

当てはめ

井上章一さんの『阪神タイガースの正体』(ちくま文庫、親本は2001年)です。 井上さんは、『つくられた桂離宮神話』など、もともとは建築関係の分野が本職なのですが、『愛の空間』だの、『パンツが見える』だの、社会風俗的な方面への研究もされています。そ…

確信

尾崎秀樹『ゾルゲ事件』(中公文庫、1983年、親本は1963年)です。 著者はご存知でしょうが、この事件で死刑となった尾崎秀実の弟で、そういうこともあって、事件の概要と、関連する人物について、簡潔に記述しています。 全面戦争へと傾斜していく中で、た…

不公平

中国古典文学大系の『今古奇観』の巻には、ページ数の都合でしょうか、元のはじめころに書かれた「嬌紅記」(伊藤漱平訳)という作品が一緒に収録されています。 北宋の末ごろ、申純という青年が、母方の叔父の王さんのところを訪れ、そこの娘の嬌娘と恋仲に…

二人三脚

越広子さんの『山襞』(民主文学館、光陽出版社発売)です。 越さんは、1930年生まれで、富山で作品をかいていらっしゃいます。この本も、『民主文学』掲載作品と、『野の声』という、民主文学会の富山支部の雑誌に掲載したものとで構成されています。 ほと…

ゆさぶり

『すばる』7月号の目次をふらふら眺めていたら、金石範さんの「悲しみの自由の喜び」という、済州島に関する文章が載っていました。今年が「四・三事件」60周年にあたるというので、現地に赴いたというのです。 考えてみれば、今でこそこの事件も、韓国の現…

組み換え

高橋源一郎さんの『日本文学盛衰史』(講談社文庫、2004年、親本は2001年)です。 最近、高橋さんは、今の文学状況を、近代文学からのOSの切り替えという表現を対談のなかでしているらしいのですが、そうした考え方の端緒ともなった本ではないかと思います。…

何者でもない

香山リカさんの『ポケットは80年代がいっぱい』(バジリコ)です。 香山さんは、私と同い年なので、彼女が、どのように80年代初頭を生きていたのかということは、興味がありました。香山さんは、医学生ということもあって、大学に6年間かよっていたわけです…