2007-09-01から1ヶ月間の記事一覧

むきだしの支配

松田解子さん(1905-2004)の自選集『髪と鉱石』(澤田出版)です。 松田さんは、秋田県の金属鉱山に生まれ、そこから秋田の女子師範に学び、その後上京して労働運動にたずさわる夫と出会い、結婚しながら小説を書き始めた方です。最後の作品が2002年1月号の…

がっぷり四つ

吉田裕さんの『アジア・太平洋戦争』(岩波新書)です。 日米開戦から敗戦までの時期をあつかった、コンパクトな本で、実証的なデータも使って、あの時代を上手にまとめています。あの戦争を弁護する立場の人も受け入れざるを得ない内容ではないかと思います…

コントロール

石井龍一さんの『役に立つ植物の話』(岩波ジュニア新書、2000年)です。 ジュニア新書ですので、いろいろな人間にとっての有用な栽培植物をとりあげて、それに関する話題を簡単に記しています。 サトウキビの光合成は他の植物とちがっていることだとか、そ…

発想の根本

ル・コルビュジェ『伽藍が白かったとき』(岩波文庫、生田勉・樋口清訳、原本は1937年、親本は1957年)です。 建築の細かいことはわからないのですが、著者の、新しい時代に適合した建築や都市のありかたにかんしての所見は、姿勢として考えることがありそう…

おわりのはじまり

渡辺治さんの『安倍政権論』(旬報社)です。 いよいよ安倍さんも退陣するわけですが、この本は参議院選挙の直前に書かれたものです。 安倍晋三という政治家個人のポリシーと、アメリカや財界の願う首班像とのギャップが、だんだんと政権を股裂き状況にもっ…

現代と歴史のあいだ

『その時歴史が動いた』は、今回は沢内村の話です。 実は、『自分たちで生命を守った村』も『沢内村奮戦記』も、『村長ありき』も読んだことはないので、話として聞いていたことが番組の形でわかるようになったのは、入門としてはいいのかもしれません。 こ…

言いっぱなし

昨日の続きというわけでもないのですが、日本史のトンデモ説として、ある意味最大の影響力をもっているのが、古田武彦さんが唱え始めた「九州王朝」説ではないでしょうか。 最初は卑弥呼の国が博多湾岸にあったという、わりあい文献的にはわからないでもない…

基本は大切

安良城盛昭『天皇・天皇制・百姓・沖縄』(吉川弘文館、1989年に出たものの新装増補版)です。 網野善彦批判や、「天皇制」をめぐる問題、沖縄の問題など、実証的な歴史学の分野からの論考が集められたものです。そこには、「社会構成史」の立場から、所有関…

指導

ちょっと家の機械がうまく動かないので、出先からの更新です。 永井洋一さんの『少年スポーツ ダメな指導者 バカな親』(合同出版)です。 新聞に連載されていたころから面白く読んでいたのですが、サッカーを中心に、現在のスポーツの世界をみているもので…

他人事ではなく

ロイ・メドヴェージェフ『1917年のロシア革命』(現代思潮新社、1998年、石井規衛、沼野充義監訳、原本は1997年刊行)です。 この方は、ソ連時代から、「少数派」として発言をしてきた方で、岩波新書でも、『ソ連における少数意見』という本を出しています。…

共同作業

小野俊太郎さんの『モスラの精神史』(講談社現代新書)です。 映画づくりが、かつての花田清輝の言い回しではありませんが、「総合芸術」であるのは、このジャンルがひとりでつくることができないものであるからです。映画『モスラ』の場合も、原作小説を書…

連続するもの

佐伯一麦さんの『ノルゲ』(講談社)です。 1997年から1998年にかけて、主人公の作家がオスロに滞在していた時期を小説にしたもので、『群像』に2001年2月から2006年12月まで連載されていたものを単行本にしたものです。 文芸雑誌の連載というものは、こうし…

合う合わない

泉鏡花の『外科室・海城発電』(岩波文庫、1991年)です。 鏡花の作品は、ずっと昔に『高野聖』と『歌行燈』しか岩波文庫になかったときに、その2冊を読んで、どうにも趣味があわないと感じて、そのあとずっと遠ざけていたのです。好きな方にはたまらないの…

終戦と敗戦

引き続き、佐藤卓己さんが中心になってまとめた、『東アジアの終戦記念日』(ちくま新書)です。日中韓の学者たちが集まって、それぞれの「終戦」意識の実態についてさぐったものです。 北海道の経験、沖縄の経験、韓国や北朝鮮、台湾や中国など、日本内地だ…

記憶のあいまいさ

昨日がミズーリ号の日というわけでもなくはないので、『八月十五日の神話』(佐藤卓己、ちくま新書、2005年)です。 佐藤さんは広島出身で、わたしと同い年なのですが、ここで彼が分析している教科書で戦争の終わりがどうなっているかの分析をみても、自分が…

類型をつくる

国書刊行会から出ている〈叢書江戸文庫〉の『式亭三馬集』(棚橋正博校訂、1992年)なのですが、三馬の作品は、たとえば十返舎一九が『東海道中膝栗毛』でやじさんきたさんというキャラをつくりだしたような、これが三馬のキャラだというものが存在しないの…