2011-10-01から1ヶ月間の記事一覧

原作離れ

年末が近づき、ドラマ『坂の上の雲』の宣伝がはじまったようです。 今年の放映は、二百三高地をめぐる攻防戦や、奉天会戦での騎兵の活躍、日本海海戦と、戦場の場面がメインになってしまうでしょう。それだけ、ドラマとしてのおもしろみには欠けることになる…

井の中の

許広平『暗い夜の記録』(安藤彦太郎訳、岩波新書、1973年新版、原本は1947年)です。 1941年12月、対米英開戦をした日本は、上海の租界を接収します。そして、そこに住んでいた魯迅の妻である著者を連行し、約3か月にわたって身柄を拘束し、魯迅の日記その…

つぎつぎと

橘あおいさんの『スプーン一匙』(文芸社)です。 橘さんは、今年の民主文学新人賞で佳作に入選されたかたで、看護師からいまは看護学校で教えているそうです。 収録された作品は、いずれも看護師体験から生まれたもので、いろいろなできごとを通じて、看護…

集まり散じて

『金達寿小説全集』の話です。 第2巻は、1950年あたりから1962年くらいまでの短編を集めていて、朝鮮戦争から帰国運動まで、小説に登場します。今から見れば、けっこう複雑な思いもありますし、「委員長と分会長」のような、朝鮮総連の活動を描いた作品も、…

意外なところで

ちょっと、金達寿「玄海灘」のつづきを。 最近、つれあいが韓国ドラマにはまって、ケーブルやらオンデマンドやらでいろいろと観ているのですが、そのなかで、「アクシデント・カップル」とか「個人の趣向」とかには、伝統的な韓国家屋が出てきます。中庭のよ…

これは言ってほしくなかった

浅尾大輔さんが、新作「猫寿司真鶴本店」を、『モンキービジネス』vol.15(ヴィレッジブックス)に発表しました。 神奈川県真鶴町を舞台にした作品です。 浅尾さんは、『今の時代はまっとうに生きることはできないから、何かを欠落させないと生きられない』…

利用法

『金達寿小説全集』(筑摩書房、全7巻、1980年)を月報つき、帯つきでそろいで入手できたので、作品の発表順になるように読み始めています。1952年の「玄海灘」まできました。 1943年の京城(今のソウル)のまちを舞台に、両班階層の若者、白省五と、日本で…

三つの春

ちくま学芸文庫の『ロラン・バルト 中国旅行ノート』(桑田光平訳)です。 バルトは、1974年の4月から5月にかけて、中国を訪問したのですが、そのときの記録だということです。かれは、結局この経験を本にはしなかったようなのです。 この時期の中国といえば…

これも100年

今年は、辛亥革命の100周年ということで、中国ではいろいろと行事が行われているようです。 昨年の大逆事件や韓国併合100年ともあわせると、東アジアのいろいろな動きが、このあたりに集中しているようにも思えます。 大韓帝国を併合してアジアの大国となっ…

いろいろと

きょうは小林多喜二の誕生日だそうです。 今年は、多喜二のお母さんからの聞き書きをまとめた原稿が発見され、新日本出版社から刊行されました。 そういう新発見は、これからも出てくるかもしれません。そうしたものに、きちんと反応していけることができれ…

大きくつかむ

NHK-BSでやっていた映画『トンマッコルへようこそ』(2005年の韓国映画、音楽を久石譲さんが担当しています)です。 朝鮮戦争のはじめごろ、1950年の冬のことです。ある村に墜落した飛行機に乗っていた米軍大尉、退却中の人民軍部隊の生き残り3人、国軍兵士2…

一元化

うえのたかし(1940-2009)の、『古事記』に材をとった画に青木陽子さんが文章をつけた画文集『あなにやし』(私家版)です。 うえのさんは、岐阜県で画の活動をされていた方のようで、『古事記』の上巻、いわゆる神代の部分の伝承を絵にしています。ダイナ…

幅広さ

『コレクション戦争と文学』(集英社)の第5巻、「イマジネーションの戦争」です。 実際の戦争ではない世界や、それに近いものを描く作品を収めているので、『SFマガジン』に載るような作品もはいります。かえって、『群像』などに発表された作品よりも、架…

信憑性

今年のノーベル賞は、スウェーデンの詩人の方だそうです。 別に村上春樹を期待しているわけではないのですが、こうなると、どこで最初に聞いたのかはもうわからないのですが、「非欧米言語で創作する人の受賞は6年おき」というジンクスが、成り立ちそうにみ…

その後

田島一さんの小説、『時の行路』(新日本出版社)です。 2008年の12月、北関東に大きな工場をもつ自動車会社、「三ツ星」の派遣社員、五味が雇い止めをされるところから約1年間のことを書いた作品です。彼はなかばだまし討ちのような形で、退職届に署名して…

弱点と弱さ

『若き親衛隊』、終わりました。 ドイツ占領下の抵抗組織、「若き親衛隊」は、ドイツ軍の物資を奪ったり、徴発された家畜を解放したり、モスクワからの放送を聴きとってそれをビラにして配布したりと、いろいろな抵抗を試みたのですが、1942年の年末、ドイツ…